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ハイクラス求人の罠

先日、こんなTweetがタイムラインに流れてきて、とても納得が深かったので自分も似たようなテーマを別の角度から考えてみたくなった。

最近増加傾向にあるいわゆる「ハイクラス求人」。企業が社内のかなり高いポジション(一般的に部長以上)について優秀な人材の獲得を目指して行われる募集の事だ。
例えばこんなものが挙げられる。

・新設CXO
・経営戦略室 室長(部長待遇、稀に部下無し)
・執行役員 人事部長
・財務部長(経理部長ではないのがポイント)
・DX推進担当部長
・その他、etc.

年収レンジは概ね800万円~1200万円程度。各社によって若干傾向は異なるものの、一定の相場がある。このレンジも絶妙に調整されている。年収レンジで言えば、高いと言えば高いともいえるが、大企業で部長級となれば1500万円に届く会社もあり、執行役員クラスでは確定申告が必要な人もいるだろう。そのクラスに微妙に届かないレベル感で出される求人だ。今後のキャリアアップを狙う40代~50代の総じてスキルの高い大企業出身の候補者にとって、とても魅力的に映るこれらの求人。しかし、往々にして『地雷』が埋まっている可能性が高いので、応募には十分な注意が必要だ。

十分な注意が必要な案件を例示で挙げてみると、ある程度の規模感(従業員数300人以上)、創業も40年以上、年商数百億円という会社だろう。

何故、応募に際し十分な注意が必要なのか、考えてみる。

まず、このくらいのレベル感の会社となると、ベンチャー的な気風は確実になく、往々にして大企業病に罹患している。その割にグローバル企業ほど仕組みは整っておらず、かなりアナログチックな業務構造が残ってしまっている。人材調達手段としては、伝統的な企業として、新卒採用を中心にある程度の人員を確保しつつも、退職者の補充や業績拡大に対して計画的採用が行われておらず、臨時的(ほぼ場当たり的に)中途採用も行っている。新卒、中途、階層毎にそれなりに優秀な人材(高学歴者だけでなく、実務に優れるエース社員含む)も揃っていて、完全とは言えないが組織としての一定レベル以上の体裁をなしている。得意な事業領域ではお客様もしっかり付いている。正に「中堅企業」という言葉がぴったりな会社だ。

そういう会社がCXOだったり、社長直轄の特命担当執行役員だったり、●●部長(新設)だったり、それに準ずる重要なハイクラス管理職を募集しているとしたら、背景に絶対に裏があると警戒するべきだ。往々にしてそれらの求人票は、表向きキラキラな言葉がちりばめられている。例えば、「当社の次世代経営体制を構築する要となる人材を求めています」とか「思い切って権限委譲してお任せ致します」とか「社長直轄で思う存分ご活躍頂けます」とか、そういう類の甘い言葉で誘い込む方式になっている。

会社には完全にマッチする訳ではないものの、一定レベルの人材は確実にいるにも拘らず、会社(社長)はその人を登用していない。そこに確実に何らかの政治的な事情がある。もっと言えば、もし人材としては優秀で、プロジェクトも重要で、しかし専門領域の知識が不足しているならばコンサルタントを雇えばよいだけだ。あるいは「補佐官」的なポジションとして社内リーダーを支える役割で、外部のベンダーとやり取り出来るミドル系実務重視型人材を採用した方が合理性がある。

考えられる裏事情は例えばこんなところだ。

①人が思ったよりも育っていない(育った重要な人材が辞めている)
②自社の若手を信頼し切れていない(社長が次世代人材の教育に関わっていないから任せられない)
③そのポジションが「地雷」だと社内で周知の事実となっており、社内人材(特に上級マネジャー達)は誰もオファーを受けなかった
④社長と管掌取締役との間で何らかの政治的な軋轢や齟齬があり、本来適任と思われる人材を該当ポジションに当てられない
⑤社長や取締役から人事部が「いいからやれ」と言われ(=急に思い立ったように湧いて出たポジション設定)、まともな要件定義も各方面への調整出来ないままほわっとした求人票として出ている
⑥その他もろもろ・・・

特にオーナー企業の⑤は結構あり得る。人事部が要件定義をきっちり詰める事が出来ない。社長との会話が怖くて突っ込んだ詳しいヒアリング出来ない。突っ込むと正に「突っ込みどころ満載」で不機嫌になられるので触れるのが怖い。その為「何となくこんな感じ」というのを人事部が無理やりエイヤ!でまとめて求人票にする。当然、任せるべき仕事内容や範囲、受け入れ後の体制等も詰めが甘い状態のまま放置される。

一次面接は人事部長が担当する。採用プロセスは社内の反発を恐れ、人事部により秘匿されながら進められる。人事部の管理職以下はその募集の存在すら公式には知らされない事もある。二次面接は管掌取締役か、社長が直接出るか、になる。社長は必ずしも採用面接や人物のスキル要件定義のプロではない為、面接では社長が思いの丈を語りつくし、それを候補者がうんうんと聞いて殆どの時間が過ぎる、なんて感じで終わる。

候補者は社長にかなり"いい感じ"に温められてやる気になって面接を終える。社内では候補者を比較検討する等あまり吟味されず、社長の独断で「まあ、いいんじゃないこの人で」という感じに決まる。あらゆる要素がちゃんと煮詰まっていないまま、内定が出る。

内定が決まって候補者が承諾して、実際に入社してから、当然ながら様々なハレーションが起きる。そもそも社長の思い付きで採用しただけで関係各部署がそれに腹落ちしておらず、協力体制が出来ていないとか、権限設定があいまいで他の部署と相反するとか、色んな事が起きる。人事部はこんな求人なんて上手くいくはずないと分かっているけれど、誰もそれを表立って話せない。「社長案件」だからだ。よって、問題が起きてから対応しようとするので後手後手に回り、中途入社したハイクラス候補者はそこで初めて気付くのだ。

「あ、騙された・・・」

最悪なケースは、様々な問題を創り出している源の大きな要因の一つが社長で、それらを「外部エース人材に解決してもらおう」という虫の良い話になっている場合だ。中途入社した人が如何に優秀であっても、社内で同意が得られておらず、人脈や実績がない中で扱うには余りに重すぎる。
一方、人材紹介エージェントは「入社させてしまえばこっちのもの」と言わんばかりに、入社後のフォローアップは一切しない。下手をすれば入社後半年間持てば満額回収出来るのでOKというスタンスですらある。そうでなければ定着まで定期的にフォローアップして返金リスクを最小化しようとするはずだ。あるいはそもそもハイクラス求人は練り込みが甘いという実態を踏まえてもっと丁寧にヒアリングを行うはずだ。

中途入社したハイクラス候補者は、一連の社内受け入れ態勢不備の状態に翻弄されながら、何とか自分のミッションをこなそうと奮闘する。特にハイクラス候補者は入社してから90日間で成果を出さなければ!と焦って(あるいは意気揚々と)行動する事が多い。しかし、最初から要件定義が詰められていない為、単体で見れば合理的な施策も文脈にあっておらずチグハグ感が蔓延、徐々に仕事の精彩を欠いていく事になる。最後は諦めて組織に何となく馴染むか、早期に離脱するか、だ。

これが創業10年未満のベンチャー企業や小規模企業(概ね100名以下)であれば話は別だ。そもそも社内に適合者がいない事が多く、外部から優れた知見を取り入れて一気にキャッチアップする事に意味があるからだ。無論、ベンチャーの中にも地雷系求人は当然あるので、それはそれで注意が必要だが、これはまた別の話となる。

冷静に考えたら、ある一定以上の組織が重要なポジションとして必要とするシニアマネジャーや上級マネジャーを、簡単に外部採用するはずがない。一定規模及び一定の歴史のある会社では、文脈(組織風土や慣習、しがらみ等)が重要である。それがわからない人が上手くやれる要素は少ない。会社の重要ポジションを外部で埋めようとするには、確実に問題を孕んでいる。その大半が実は外部的な市場要因に対応する為、と表向きは言いながらも、実は社内の問題を外部の人に解決させようとか、しがらみがあり過ぎて社内人材では対応できないとか、誰もやりたがらない(絶対梯子を外されると恐れられている)から外部から採用したい、等が隠れているので注意が必要だ。

そんな中でも社長が強力なリーダーシップを発揮して当該ポジションを全面的に支援してくれれば良いのだが、オーナー企業は往々にして途中で「飽きる」傾向にある。社長のマイブームが去ってしまうと、そのハイクラス候補者は支援者を失って身動きが取れなくなる。

結論:中堅企業(←ここがミソ)の出しているハイクラス求人に応募しようとしている候補者は、その企業の裏事情をよく確認した方が良い。長年中堅企業にとどまって成長が止まっているには絶対何かある。具体的には組織のリーダーシップに課題がある事が多い。出来れば内定獲得後、社長以外の人の取締役や上級マネジャーに個々に会ってじっくり事情をヒアリングしてから内定承諾をしても遅くはない。そして入社を決めたならば、茨の道があると覚悟をもって飛び込む必要があるだろう。

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