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退職エントリは書かない - 現職体験記 - 在台欧米企業の場合

先週シンガポールにとある金融資格試験(英語)を受けに行ってきた。そして何種類もあるうち最低限有効となる科目に無事合格することができた。

シンガポールで特定の金融商品を販売するために必須の資格であり、シンガポール国内のみで有効である。昨年合格した台湾の同様の資格(中文)は台湾のみで有効である。

ほとんどの国では原則現地で資格を取得しないといけないが、国によっては、例えばベトナムなんかは、例外として外国人は母国(もしくは第三国)で資格を持っていれば試験免除で資格登録できるような国もあるらしい。

また別の国で、試験は現地語のみで英語で試験をうけられないような国では外国人はそもそも試験免除であったり、免除ではないが実務は資格を持つ現地人にまかせ、外国人はアドバイザーとかマネジメントポジションとして現地資格なしで業務を行う等、実情はさまざまであるようだ。

とりあえず、英語圏で資格を取りたかった。近場の香港を調べたら香港在住且つ香港の金融業者に勤めている者限定で受験できるという制限があったが、シンガポールはそのような制限はなく、旅行者も受験することができ、さらに条件を満たせば学位も取得することができることを知った。

シンガポールの資格は1教科あたり教科書300ページとかあるので、短い準備期間の中、スケジュール的に大変だったというのはあるものの、台湾の資格試験に比べかけた時間は20分の1以下だったと思う。

あえてなんの資格なのか明確にしないが、この台湾 v.s. シンガポールの制度的傾向は他の資格にもおおよそあてはまると思う。

いまさら実感したのは外国人として台湾で資格とったり生き残るのはいろいろとハードル高いということ。日本よりは外国人にフレンドリーな制度かもしれないが、どちらかというとやはり日本に近いような気がする。シンガポールと比べれば台湾は制度・環境的に外国人フレンドリーではないんだよね。

現地人が受験するのが前提の資格だから、実務とは関係ない言い回しをひねったひっかけ問題とか、2重否定、3重否定とか、それだけならまだしも業界の歴史問題、「民国(台湾で使われる元号)71年(40年以上前)の業法改正で料率の上限は第三回料率参考表のxxを超えないものとする」とか。半世紀も昔の歴史問題が2割くらい出題されるとかまるっきり覚える気にならんし、

台湾のは3科目あって、100問80分、100問60分、50問45分とかでスピードリーディング無理で処理が追い付かんという地獄だった。なので読み終えれるところまでの正答率を極限まで高める作戦にした。

一方、シンガポールの資格試験は範囲も広くシンガポール特有の金融商品の問題や制度も含まれるというもはあるが、外国人も受験するのが前提となっており、ひっかけやらこねくり回す言い回しは少なく、業界歴史問題もなし。純粋に知識を問う問題のみ。シンガポールも3科目受験したが、50問75分が2科目と40問45分1科目で、試験時間も余裕をもって終了することができた。

難易度がぜんぜん違った。あまりいないと思うが、もし同じようにどの国で資格試験を受けるか迷っている人がいたら、とりあえずシンガポール行けとアドバイスする。

現職体験記

流行りの退職エントリは書かない、と宣言してみる。
が、現職にコミットする意思表示(仮)と合わせて体験記を綴りたくなった。

どの会社かは伏せているので特定されることを防ぐ目的で少し設定を変更してみるかもしれないので、まるっきりのファンタジーとして受け止めて頂ければと思う。ただ、物語の流れは事実を忠実に再現していると考えて頂いても差し支えない。

在台湾の欧米系ニッチ分野の金融企業で唯一の日本人として働き8年ちょいとなった。

一応、ニッチな分野ながら世界3大なんちゃらの一角で、分野によってはレベニューベースで世界一獲ってるビジネスもあるし、台湾法人においても台湾内でマーケットシェア1位の分野もあるし、運のよいことにぼくの担当範囲にもそれらが含まれる。

このニッチ市場は米英系が独占する市場で、レベニュー世界ランキングトップ20位くらいまではほぼ全て米英で、20位に中国系が入り、日系は遥か圏外、というかそもそも日系はほぼ参入していなく、この分野の日系企業は勝ち負け以前の問題であったりする。

日本のメガバンクのような色分けで、世界3大なんちゃらは青社、赤社、紫社みたいな感じではあるのだが、紫社はアジアの進出が遅れたことから台湾ではまったく話にならん的な評判を顧客サイドからよく聞くし、台湾マーケットシェア的にも実質青社と赤社の2強となっている。

8年前、採用面接のときに言われたのは
「このポジションについてきみを採用しようと思っているわけだが、実のところ日本業務ポジションの採用について我々にはよい経験がない。3人連続で半年以内で辞めてるからね。きみは続けられる自信はある?」

上記同じセリフを面接官であるHR Director、台湾法人副社長、日系業務アジア統括、全員から言われた。

なんて返答したかは正直覚えていない。でも「とんでもねーブラック企業だな。。。」と心の中で思ったことは今でも鮮明に覚えてる。

台湾人社員は基本的に業界経験者採用。欧米系企業なので英語ができる台湾人を採用する。

ぼくのポジションの前任者だが、2008-2012年50代日本人男性米大卒台湾歴20年がとある事情でクビになり、2012-2015年の間に日本人女性、日台ハーフ女性台大卒日系総合商社経歴、台湾人女性日本語スピーカー業界未経験を採用したがいずれも半年程度で退社…

当時ぼくは業界未経験ではあったものの、シンガポールの外資隣接業界での経験と曲がりなりにも日英中できることで採用された。

多くの現地人社員にとってうちの会社はホワイト企業の部類だと思う。オフィスもきれいだし、自由な社風だし、残業も少ないし、有給も全消化だし、中文で台湾人向けの研修や情報リソースも豊富だし、現地人は人数多いから役割分担で自分は自分のことだけやってりゃいいし、給料も業界ではそこそこだし、福利厚生も現地企業や日系企業よりも少しいい。一般的に台湾人は短期転職を繰り返すが、うちの会社には20年選手も30年選手もそこそこいる、台湾人にとっては割と居心地の良いホワイト企業なんだと思う。

でも未経験且つ唯一の日本人社員にとっては超絶ブラック企業だった。特に入社3年くらいはブラックの極みだったと思う。

まず、この業務を進めるにあたり人的、情報、経験リソースがないに等しかったんだわ。まともな研修ないし。とりあえず膨大な量の中文・英文資料はあるからそれを日本語に直して日系ビジネス開拓のための資料にカスタマイズするんだが、元々の文章が抽象的過ぎてそれままでは意味のわからないゴミ情報ばかりだった。

台湾人社員はこの原文ゴミ資料を使用しながら口頭でわかりやすい事例を前職・業界の経験から補足できていたので、常に台湾人社員に同行してもらい、資料を補足するセールストークを盗んだ。

台湾人社員のほとんどは定時帰宅なのを横目に、言語的に他の社員よりも余計に時間をかけないといけないことで夜遅くまでオフィスに残る日々が続いた。

一般的に台湾人に日本語スピーカーが多いと言われるが、欧米系企業では英語ができる台湾人を採用するので社内に日本語スピーカーはほぼいなかった。もう少し正確にいうと瞬間的に日本語スピーカーの台湾人が数人入社していたが、少し日本語ができてもビジネスレベルの人材は皆無だし、弊社における台湾人社員の日本語スキル自体はあまり役に立たないため直ぐに他社に転職してたりしてた。

欧米企業とは名ばかりで台湾法人の97%くらいは台湾人。他外国人は香港人、マカオ人、マレーシア人、全員華僑。非華人系はぼくのみなので社内会議や社内全体メールは中文。

多少中文できるといっても金融業で使うとなると台湾人専門家にとっては一瞬で終わるハナクソみたいな内容でもノンネイティブにとっては時間は10倍、もしくは確認作業も含めて数日かかったりすることもある。

仕事のメールアドレスには1日50~70件程度Eメールが届くが、日英中それぞれ3分の1づつの割合くらいで、その中でいらないものは即削除、保留、自分が対応しないといけないものか2秒で判断を繰り返す。もちろん中には結構重い内容のものもある。

過去に白人系外国人マネジメントもいた時代があったみたいだが、言語とレギュレーションの問題もあったようすぐに入れ替わったらしい。

台湾の金融業界については約款の英語化が遅れており、国際間業務に関わるものについては英文約款もある種目もあるが、国内案件については中文約款しかない種目も多い。それに加えて、台湾金融業界は外国人の資格制限があり、受験資格は永住権が必須(就労ビザや配偶者ビザは不可)だった。

なので資格を持つ台湾人社員の協力が不可欠にも関わらず、当初苦労したのは弊台湾人社員の日本企業顧客に対する理解の不足/欠如だった。

日系企業相手の商売を専門にしている部門がある会社であれば別として、うちの社員には日系顧客と成約した成功体験がほぼないに等しく、「重箱の隅をつつく質問だけ多くて結局買わない」「どーせウィンドーショッピングだけで終わるから無駄」「成約しないから日系案件なんてやりたくないよ」と忌憚のない意見をもらったこともあった。

なので日系案件のメリットやら特徴の説明やら社内でして、ブーブー言われながら多少の無理を押し通して、なんとか成約までもっていって、小さい成功体験を積み上げていくと台湾人社員の意識も変化し、協力的になっていった。

そういった過程の中で台湾ビジネスの特徴・商慣習も理解する必要があった。ふだん台湾人の営業職員がどのように仕事を進めてどのような障壁にぶつかっているのか理解しないと日系ビジネスとの違いや特徴を社内説明できない。

特に台湾中小企業はコストのみでしか判断しない傾向があり、新規取引を即決することはあるが、毎年コンペとなり契約継続に苦労する。

一方、日系企業は契約開始前の段階では重箱の隅をつつく質問ばかりで決断が遅いが、丁寧な説明で信頼を勝ち取ることができれば翌年以降は「昨年と同じならそれでいい」という姿勢であることが多く、長期的な契約継続でメンテがラクという傾向がある。

先述の日系案件やりたくないと言っていた台湾人社員もいくつかの成功体験を繰り返すと「日系案件のほうがいい」と意見が変化した。

当時はきつかったけど達成感は清々しいものだった。

つづく (気が向けば)

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