読書記録|司馬遼太郎『アメリカ素描』
読了日:2023年1月13日
平成元年(1989)発行。
著者本人がアメリカへ渡り、実際に自分の目で見たものを、歴史と重ね合わせながら綴っていく。
今から30年以上前に書かれたものだが、現在の情勢の伏線が点在していておもしろい。
現在のアメリカ人の祖先が移民としてこの地にやってきた当初、WASP(原文ママ。ホワイト・アングロサクソン・プロテスタントの頭文字)が”アメリカ人”であったが、時の流れとともにその輪郭がボヤけてくる。
多様な人種を抱えるアメリカらしい発展を遂げ、人種が混ざり合い、次第にWASPは”少数民族”となる。
だが、アフリカから奴隷として連れてこられた人々は、奴隷解放時に故郷へ帰らずにその地に残った者はそこで”小国家”を築くべく、独自の文化を形成していく…
司馬氏の「アメリカの黒人(←原文ママ)こそ生粋のアメリカ人ではあるまいか」という一説に妙に納得した。
「アメリカは法が主人」。
メイフラワー号に乗ってアメリカ大陸に上陸しようと人々が一番最初にしたことは、船上で誓約書を作り、仲間との最初の法を作ったことである(「メイフラワー誓約書」)。
アメリカの歴史は日本のように神話から始まらない。このように法から始まる。
そして多種多様な人種を受け入れるアメリカにとって、法は絶対的に必要なものとなった。
これが、「アメリカは法が主人」という所以である。
大統領よりも絶対的な権力を持つ主人であるアメリカ司法の権力は肥大し、今や訴訟社会を生んだ。
多少厚みのある本だが、雑感を交えつつ綴られる司馬氏独特の言い回しで飽きがこない。
小説を読むような感覚で、情景を思い浮かべながら読める一冊。
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