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【2023年3月】薫陶を受けた本2選

3月はELDEN RINGと対話型AIに耽っていてあんま本読んでないやや不作だったので、2作品だけ紹介。

①『神曲』ダンテ

昨年10月に読み始め、講談社学術文庫の原基晶訳と角川ソフィアの三浦訳を並行してちまちま読み進め、天国篇まで連なる3部作全6冊がやっとこさ終わった。その間、本書の主題であるキリスト教世界への造詣が深まり、ダンテが完成させた中世からプレ・ルネサンスへの時代の動態へも触れてきたため、また地獄篇から新たな気持で読み返したい気持ちもすでにある。

とにもかくにも、幾何学の精髄を極めたような多面体的文学である。古代からの総合知が、整然と、厳粛に、読者を鎮圧する。フィレンツェの、いやイタリア全土の激動と悲喜こもごもから滲み出たものとはにわかに信じがたい。異様に緻密で神曲への愛に溢れた原による各話解説は、本文をどの訳で読むにしろ避けて通ることは出来ないし、それを超えて最新のダンテ研究を漁ってみて近年明らかにされてきた神曲の厳密に数学的な構造に驚き途方に暮れるのも良い。

人類史上で人間がもっとも神に接近した瞬間は、天国編の最終局面にあって至高天を書き取ろうとしてダンテが紙面にインクを滑らせていたさなかだろう。


②『ルネサンス 歴史と芸術の物語』池上英洋

西洋美術史研究者の著者によるルネサンス芸術エントリー本で、とてもバランスが良く初学者におすすめできる一冊。

主題としては絵画史に重点が置かれており、ルネサンス史を通観するところの文字数や精度は足りていない印象だが、別段ルネサンスとも絵画とも距離が遠い読者でも面白く読めるような工夫が随所に見られる。当時の社会構造とか暮らしとか経済的な駆け引きとか、日常的にイメージが湧くテーマから、この時代を貫く大きな力学の説明をうまく引き出しているし、更にそれらが個々の芸術家の作品のなかに具現化されていることが分かるように美術の読解もしてくれる。史実と文化的表象がうまく噛み合っているから納得感がある。

本書を起点に、イタリア史にもヨーロッパ史にもルネサンスにも絵画史にも引っ張られることができる、優れた入り口だと思う。


今月は以上。

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