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文庫クセジュで読む決定的入門書~『ベルクソン』J・L・ヴィエイヤール=バロン

ベルクソン入門書はさまざま調べたが、本書が最良との声が多く、手にとった。この孤高の哲学者の思考の足跡を丹念に追い、主著で展開される淀みなく明晰な思想を順を追って紐解く。

たしかに、これはとても良くまとまっている。

この文庫クセジュ、フランスの著名な叢書シリーズで、一般大衆向けの歯ごたえのある入門書を沢山出しているかなり歴史があるシリーズである。近現代のフランス思想に強く、白水社による日本語版も累計1000点を超える。新書ながら専門書としての読みにもちゃんと耐えうる本格的な入門篇を揃えていて、本書もその例にもれず、専門書としては読みやすく、しかし挑戦しがいのある、ちょうど期待したぐらいの難易度ですばらしかった。

著者が「ベルクソンは散々誤解されてきた」というように、西洋哲学史の概説書に書いてあるような基礎レベルの理解よりかなり踏み込んだ読解がなされており、多面的で複雑な議論の全体をバランス感を持って掴むことができた。

彼を語るに外せないのは、その心理学の専門性においてであり、その観点でベルクソンに影響を与えた学説を幅広く辿ることで、彼の問題意識やその目指すところについての見通しがかなりクリアになる感覚がある。心理学的な眼差しを通して、プラトニズム/カント的な分析的精神とベルクソンのアリストテレス的な個体観念を鮮やかに対置する部分は見もの。

また、とくに『創造的進化』において特徴的な、個我としての意識が超越的自我へと上昇していく箇所を中世プロティノスの影響から紐解くにとどまらず、フィヒテの展開していく自我論との接近を見るのは、著者独自の鋭い視点だろう。

有名な『物質と記憶』の逆円錐(表紙のやつ)の意味するところは、本書によってはじめてちゃんと腹落ちしたし、これまで色々読んでいてもあまり触れられていなかった&わかりにくかった『笑い』の思想的立ち位置の重要性・必然性もバッチリわかってよかった。

『二源泉』の章の付近で中世神学と接近していく部分、とくに神秘主義的言説を細かめに書いているところはやや難渋で眠くなったが、それをさっぴいても、ベルクソン入門の決定版たる良書であった。

ちなみに、前提知識として、以前紹介した↓の記事ぐらいの土台があれば十分に読みこなせた。


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