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無敵の思考法~『ホワット・イフ?:野球のボールを光速で投げたらどうなるか 』

うん、面白い。

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元NASAの科学者で、サイエンス系有名サイトを運営している著者が、自身のサイトへ読者から寄せられた”バカバカしい”問いの数々を本気で考えていく本である。

著者が取り扱うのは、表題のような問いだったり、「地球上の全員が一か所に集まりジャンプすると何が起こるか」だったり、荒唐無稽だけど割と気になる、でもどこかに答えが転がっているたぐいのものじゃない、想像力豊かで挑戦心旺盛な読者から投げつけられる質問の数々だ。

こうした問いに対して、いわゆる”フェルミ推定”的に、適切であろう仮定を置き、起こるであろう現象をモデル化し、計算していく。

奇想天外な質問は、当然ながら奇想天外な結末に行き着くのだけど、ミクロの世界から宇宙の果てまでを縦横無尽に駆け回る著者の脳内実験は、なんというか、実に"楽しそう"なのだ。先の展開を楽しみ、自ら難しい結末の方へ向かい、もうちょっと別のシナリオを組み立ててみる。

「もし、・・・だったら?」と設問し、鋭くクリエイティブな仮説を立てていくことの大事さは、ものの本ではよく説かれていることである。「問いを沢山生み出そう」「正しく問おう」etcetc..。たしかにうなづける、たしかにそうなんだけれど、そういう凡百の本のテンプレ的な言説よりも、本書において著者が見せる純粋で子供っぽい面白がり方のほうに、強く惹かれてしまう。

まっさらな白紙の上に、自分のビジョンと方法のみを頼りにして何かを描き出していく。開拓者のロマンと、真理の果実。決してただの夢想とバカにしてはいけない。重要な科学的発見の多くが、こうした思考実験のなかで産まれてきた。

個人的に好きだったのは、「元素表の各元素の”実物”を、元素表どおりに目の前で積んでみたらどうなりますか?」という質問。色々な元素が壮絶な化学反応を繰り返し、最終的にしっちゃかめっちゃかになっていくのだが、全然知らなかった各元素の不思議な挙動にいちいちびっくりする。

たとえば元素番号31のガリウム[Ga]。(頭の中で)積み上げられる周囲の金属に浸透し、内側からボロボロにしていく性質がある。いっこいっこyoutubeで検索してみるだけで、とてもおもしろい。

しかし、つくづく思うのが、なにかを学ぶのに、非常に恵まれた時代である。気になることがあれば、すぐにスマホで映像付きで、面白く編集された実験が、無料で見られる。一昔まえまでは、でんじろう先生みたいな存在も、すごく希少だった。月並みな感想だけど、嫌いだった化学の授業もこういうふうに学べれば、もっと興味を持てていたかもしれない。自分の子供が、心底うらやましい。

本書の著者のように、世界について考えることをピュアに面白がれるようになれれば、無敵だろう。

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