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ファイナルファンタジー12

ゲームが好きでした。子どもの頃は、テレビ台の下からひっそりとこちらをのぞく、小さなハードウェアが友達でした。

はじめてやったゲームは、「スーパーマリオブラザーズ」。

ものすごい小さいときだったので、本当に「やった」という記憶ぐらいしかないんですけれど、生まれてそう何年も経っていないぼくの小さな頭のシナプス回路は、テレビ画面の中を自由に駆け巡るしがない配管工のおじさんにそりゃもう夢中でしたよ。

朝から晩まで、親の目を盗んでは土管のなかに潜ったり、「?」のついてるブロック目掛けて頭突きをかます、炭治郎顔負けのわんぱく小僧。



小学生に入るとさらにゲームに夢中になります。

初めてやったRPG、ドラゴンクエスト5。とうちゃんにお願いして「おもっちゃまん」というローカル色バリバリのおもちゃ屋さんで「9,800円」とかで買ってもらった覚えがあります。(高い)

学校から帰ってきては、父が帰ってくるまでひたすらモンスターを倒し、頑張ってレベル上げをしていたのを覚えています。

当時は攻略本なんて存在もなく、あったとしてももちろん買うお金なんて持っていません。

自分の名前を「石田ゆう大」とやっと書けるようになったぐらいの頭脳を、ひねりにひねってはなんとか道を切り開いて、ちょっとずつちょっとずつ進んでいましたね。

ところがある日、大事件。

学校から帰ってくると、カセット入れにあるはずのドラゴンクエストがなくなっていました。

ヤベェ。マジヤベェ。

とりあえず母ちゃんに場所を聞いてみると、「あんたがゲームばっかりしてるから隠したよ」と、愛する母のくちから、メガンテと思しき威力のことばの暴力。

「頼むから場所を教えてください。ちゃんと勉強するので。ほんとに。だから場所を教えてください」

必死で嘘やでまかせを考え、三日三晩頼み込んで、ようやくドラゴンクエストのカセットの居場所を教えてもらいました。

「・・・靴だなの中よ」

愛する母の口から放たれる、ベホマと思しき回復魔法に匹敵する癒しの言葉。

ダッシュで向かう、靴だなの奥の方に輝く光。

ワクテカする少年のハート。高ぶるテンション。

テンションの流れに身を任せ、カセットを差し込むと同時にテレビ画面から流れ出る、おどろおどろしいステレオサウンド。

「冒険の書1が消えました」

「・・・」

気づいたとき、靴だなの奥に光り輝いていたドラゴンクエストは、雄叫びとともに畳に向かって投げつけられていました。

・・・あぁなるほど。こうやって世の中に魔王がはびこってきたわけか。ぼくが倒そうとしていた魔王は、心の闇から生まれたぼく自身の姿だったんだ。

とまぁこれだけならまだよかったものの、仕事から帰宅した父が嬉々としてドラゴンクエストを始めようとすると、悪夢のステレオサウンド再び。

「冒険の書2が消えました」

「・・・」

全力で靴棚の湿気のせいにしました。



小学校中学年になっても、高学年になっても、やっぱりみんなで集まってよくゲームを楽しんでいた覚えがあります。

年末年始、おばあちゃんちのこたつに入って、151匹のポケモンを集めに冒険にでた、ダイヤモンド顔負けの光り輝く目を持っていた、あの日のぼく。

自分の部屋のこたつに入って、みかんとゲームボーイカラーを交互にもちかえ、牛から牛乳しぼったり、にわとりの卵を収穫して出荷し、牧場を大きくすることに夢中になっていた、あの日のぼく。

まだまだ。

何度繰り返したかわからない、クロノトリガー。

わざわざダンス用のマットまで買って家でハッスルした、ダンスダンスレボリューション。

何度友達にぼこぼこにされて悔しい思いをしたかわからない、キングオブファイターズ。

・・・・・・

そんなあの日のぼくから、おおよそ20年。

「ゲーム?なにいってんの?そんなん時間の無駄でしょ?」

くそつまらねぇ大人になっていました。20年後のぼくは、遊び心もくそもない、くそつまらねぇ大人になっていました。

そうじゃないだろう、石田。

思い出せ。お前なら思い出せるはずだぞ、雄大。

ゲームを楽しむ余裕もねぇ人間が、なにやってもうまくいくわけがない。気づいてるはずだ。おまえもとっくに気づいてるはずだ、雄大。

「やりたいことリスト」に、いったい何年「ファイナルファンタジー12をクリアする」というタスクを置いてるつもりなんだ。

このままだとお前の人生の方がさきにファイナルを迎えるぞ。ファンタジー要素のかけらもなくファイナルしちゃうぞ、いいのか雄大。

人生というのは「余白」を楽しむものだ。

どっかのだれかがそんなことを言っていたような気がちょっとだけ記憶の片隅の奥の方にアルンタジー。

というわけで、2月中にファイナルファンタジー12をクリアしようと心に決めました。

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