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こんなに分厚い本を3度読むなんて 貴重な読書の時間を費やしてしまった


はじめに

 人間の1日を割りふってみよう。ヒトは眠る生き物。人生の時間のうちほぼ3分の1は寝ている。残りの16時間。動いて働けるあいだの8時間あまりは労働へ。そして残りの時間で通勤、食事、身じたく、家事、その他…。自分の時間や趣味にあてる暇とは果たしてどのくらいだろう。

その貴重なはずの時間をあててしまった800ページあまりの本。すでに3回くりかえしてしまった。その後悔、いやいや魅力の紹介。


なんでまたこんなときに

 わたしにはちょっと変わった読書傾向がある。小説のジャンルは問わない。作家の素性などは気にならない。国内外の作家の著作を読む。

ところが小学生のときはちがった。はっと図書室の一角でひとりうなずいた。今後、推理小説には手を出さずにおこうと。すみのほうの推理小説の棚を読破した時点でそう確信した。

これは危ない。底なしだ。ぼくは一生この沼から出られないと恐怖を感じた。それ以来このジャンルには手を出していない。

しかし禁断の分野が増えつづけるとおかしなことになる。残りの分野に限定してしまうと、もとの補集合となるわけで結局同じではないかと。そして出た結論。

さまざまな分野をひろく浅く読もう。そうしないと生涯で読める本なんて、1本の桜の木の幹の何本もある枝にある小枝の、数百枚ある葉の細胞ひとつの中の葉緑体のひとつをやっとみつめるぐらいに過ぎない。

そしてこのたび出会ってしまった本がこれ。「ブラック微生物学 第3版(原書8版) 」(丸善出版)。息子が「ほれっ、これ読んでみ。」と差し出した。夜な夜な本をかじる不気味な音に辟易していたのか、やむなくダンボールから取り出した。彼が大学時代に使ったテキストだった。

これは渡りに船、日照りに雨、闇夜の提灯 。夜、1日の作業のすべてを終え、ようやくふとんのなかにもぐりこめるひととき。そこを読書にあてる。その貴重な至福の場にこの本をあてがう。すると著された内容は、昨今の状況を知るうえで欠かせない手順書のひとつだと気づいた。


敵を知ること

 昨今の状況下にあって生き残るすべが書かれていると、すくなくともわたしは感じた。おおげさではない。敵を知るとはこのこと。ようやくそのよろいの下の本性がダース・ベイダーのごとく現れてくる。

作戦を練るには相手の特徴を知る必要がある。それなしでは戦えないし、何から手をつけていいかわからない。このことは本書についても言える。この本に手をつけるには高等学校で生物や化学を履修しておいたほうが早道。

ただし、わかりにくい語があったとしてもある程度読んでいけば理解を促してくれる書き方。さらにいいのは各章ごとのSELF-QUIZとTERMINOLOGY CHECK。ここで理解を確認できる。


訳本で分厚いこと

 もちろん、原書は合衆国で出版され、その立ち位置で著されている。もちろんしっかりした専門家たちの目をとおして日本語に訳されている。英語を忠実に訳すあまり、多少読みにくいと思われる部分には注釈がついたり、訳者が専門の立場から注意書きを添えたりなど配慮がされている。

そしてイラストや写真は医学系や獣医系の学生も利用するので、本質的で直截的。感染者の写真もそのままなので注意願いたい。

そして分厚い。腰掛けて手元に引き寄せて読んでいると重さを感じてくる。やはり机に置いてぱらぱらめくりつつ読むように作られている。けっして寝床でくつろぐ書物としてはできていない。そうした「まちがった使い方」(かじってはいない)をしている本人が記すのだからまちがいない。


おわりに

 ひとことも内容に触れずに文をまとめようとしているといまさらながら気づいた。

微生物を知るための本。ウイルスなども入っている。はい、終わり。これ以上記すと各種ネタバレを起しかねない。いや、そんなことはない、800ページのなかには人類の資産ともいうべき豊富な知恵が盛り込まれており、これでもかと尽きない。

昨今の状況の基礎をしっかり築きつつ、その後に活かしたい方にとって有用だし、へえ~こんな分野があるんだとどちらかというと文系の方にもおすすめできそう。数式のあらわれるのはごくわずかに過ぎないし。

寝床で読む(つくづく悪弊と反省、目にもよくない)には合っていないとくれぐれも注意喚起しつつ、ごく近辺の身のまわりに蠢いている彼らの実態を知るにはうってつけ。まちがいない。「もやしもん」のように目に見えることはほぼないから安心して。

大型本でありしかも高価。学生さんの購入はきっと悩ましい。くれぐれも記すがけっして漬物石の代わりに使うべき品物ではない。


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