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『催花雨』(500文字小説)

色節の「卒業」、「入学」と慌ただしいこの季節に不快な思いをさせる層雲が僕たちの頭上に止まる。寧亭と弥立ちが混同した心の奥底に眠る鬱屈にどうにもこうにも争うことができない。

3月10日、この地域は雨だった。街の中は鼠色に染色され、恰も二値化画像を見ているかのような錯覚に襲われる。それに僕は歓喜を上げた。土の湿り気によって粘性が増し、靴について汚れる。周囲に存在する銅像は年々、溶解していく様を見ては、様を見ろと感情を露にする。

小学生が黄色い長靴を履いて、中学生が自転車に乗って濡れながら耐えて、高校生がその様子を見ながら馬鹿だと思ってカフェで談笑する。それをバイトの大学生は戻りたいと懇願する。

僕の周りには、菜の花と風信子と香雪蘭が生い茂る。僕の周辺には種々色々の世界が満ち溢れ、その頂点に立つ私は、偽りの姿もできず、ただ佇まさざるを得ない状況下にある。子分たちも雨には喜ぶ異質の存在で、已己巳己かもしれない。一部が削れる様が美しく、頭でっかちな私は異質かもしれない。

横切る人の春蛙秋蝉は私にとっては、拐帯と言う感情に駆られる程度の賞味期限のある養分なのである。


そんな、

なんの変哲もないただの桜の木

の話




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