(焼き肉の)煙が目にしみる♪
「緊急事態があけたので日本経済活性化のために、今日は飲みに行くぞ」
愚にもつかない理屈をこねて久々に夜の街に繰り出した。
そこここで温かく灯る赤ちょうちん。方々で響く威勢のいい店主の声。
鼻をくすぐる焼き鳥の煙。
これだ。
待っていたのはこの熱気だ。これぞ大人のワンダーランド。
浦安にある遊園地に入るには1万円近く入場料を払うが、
ここは通るだけなら無料なのだ。
今日はどんなアトラクションが待っているのか、
あてどもなくしばらく街を徘徊する。
繁華街の人いきれをを胸いっぱいに吸い込みながら(まだこれはやってはだめか)
ふと目にとまった焼き肉店の暖簾をくぐった。
緊急事態があけたといってもまだ19時台で3割くらいの入りであろうか。
まずは一通り肉の部位を注文したあと勢い込んで
「それと、濃いめのハイボール!」
この言葉を吐き出すだけで心が弾む。
大きな声で話すことはしないが、
肉の焼ける音をBGMに連れ合いと他愛のない会話をする。
こんなに楽しかったのだっけ。こんなことで幸せになれるのだっけ。
不思議な感慨が沸き上がるのだ。
酒も食事も十分に堪能し、ほろ酔い気分で会計をするとき、
「いや、いろいろ大変でしたね。これからまた頑張ってね」
と、くだけた気分で店主に声をかけた。
すると一瞬こちらを見て、言葉を詰まらせながら
「あ、ありがとうございます。。。」と深々と頭を下げられた。
予想を超えた反応にたじろいだが、
「あ、いやいや・・そんなにかしこまらなくても・・」
と言いつつ私もなぜか胸が詰まってその次の言葉が出てこなくなった。
よく頑張りましたね。素晴らしかったですね。
ほんとに美味しかったですよ。これまで来れなくてごめんね。
いろんな感情が心の底を去来し、
焼き肉の煙が目にしみた風を装いつつ、
ハンカチで目をおさえながら外へ出た。
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