建築家・伊礼智さんインタビュー「心地よさ」の極意とは。
人気住宅建築家の伊礼智さんに、新刊『伊礼智の住宅設計作法Ⅲ 心地よさの ものさし』について聞きました。
Q 伊礼さんの文章に人柄があらわれているように思え、引き込まれます。
この本をどのような切り口でまとめようか? かなり迷った時期があり原稿もうまく書けませんでした。それでも、まずは書かなければとプロローグに手をつけたのですがしっくりこず、そのまま放置しているとパソコンが壊れその原稿が飛んでしまった…それでさらに文章が書けなくなっていました(笑)。
タイトルも決まらず悶々としていたところに「心地よさのものさし」でどうだろう? と新建新聞社(発行元)から提案され、それで一気に全てがすらすらと進むようにようになりました。建築家の世界に忖度せず、考えていることを正直に書けたのがよかったのかと思います。
カバーを外すと裏表紙に伊礼氏のサインが隠れている
Q 伊礼さんにとって「心地よさ」とは?
僕は「開口部近傍に心地よさは宿る」とよく言うのですが、日ごろから開口部まわりが一番気持ちいい場所になるように、眺めのいい場所に開口部を切り取り、その近傍にソファを置いて外と内の間のような居場所から外を眺めてもらえるように設計をします。大きな窓から遠くの風景を取り込む気持ちよさは何物にも代えがたいし、大きな解放感を得られるからです。
ただ、開口部は外部とつながる唯一の接点でありながら、温熱的には住まいのウイークポイント。開口部のあり方が住み心地を大きく左右します。夏の日射遮へい、冬の日射取得を押さえた設計をすることはもちろんですが、開口部から見える風景が建築の内部に与えるものはとても大きいと思っています。
Q 8軒の事例にそれぞれ「こぼれ話」がありますね。
住宅を設計していると、思うようにいかないことや失敗なんかもありますが、そこから学ぶことはとても多い。こぼれ話で8軒それぞれの住宅での試行錯誤の様子を感じていただけると思います。
Q 本書で特に注目すべき点はどこでしょうか?
ここ数年、性能と意匠の両立に取り組んできましたがその悪戦苦闘ぶりをまとめたのが本書となります。住まいの性能の理解と向上を経験や勘だけでなく専門家や施工者と取り組めたことは大きな収穫となり、これまでの「設計のものさし」のチューンナップができました。
おかげで設計の拠り所としていた「心地よさ」という曖昧な価値基準を数字に裏打ちされた位置づけに昇華できるようになったのでは?と思います。この本では8軒の事例を紹介していますが、1軒当たりのページ数をたっぷり確保しています。写真を大きく扱っていますので、言葉では語りつくせない住まいの臨場感を感じていただけたらと思っています。
性能の世界も奥が深く、まだまだ血肉化できていませんが、今後も楽しみながら、自分らしい設計を模索していきたいと思います。
2月2日に発刊を記念して開催したFacebook LiveのアーカイブはYouTubeの新建ハウジング公式チャンネルからご覧いただけます。伊礼さんの生の声が聞けますよ☻