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SDGsと家づくり|小学生が手がける教室の断熱改修

子どもたちが過ごす学校は、ほとんど断熱されていないのが今の日本の現状ですが、寒さや暑さは、子どもたちの学習にも影響を与えています。2019年に長野県白馬村で高校生たちによる教室の断熱改修が行われました。その様子は「だん」10号の「現場リポート」で伝えましたが、この取り組みから派生して、今度は小学生が学校の断熱改修をすることになりました。小学生自身が教室を断熱するという史上初めての試みは、どのように行われたのでしょうか?今回は学校の断熱改修を紹介します。

きっかけは断熱リフォーム
長野県白馬高校で、教室の断熱改修プロジェクトが始動したのは2019年のこと。3人の高校生が、「寒い教室をなんとかしたい」と声を上げたことがきっかけでした。高校生たちは、建築の専門家に協力の依頼をしたり、クラウドファンディングを立ち上げて工事に必要な資金集めも行いました。2020年9月に実施されたワークショップには、3日間で50名近くの生徒が参加。ひとつの教室の壁や天井に断熱材を入れ、窓に木製の内窓を設置しました。工事後は、明らかに冬の寒さが緩和され、室内の温度ムラが減ったことで、生徒が授業に集中できるようなりました。

白馬高校の断熱改修の話を知って、小学校でも実現できないかとPTAで提案した人がいます。2021年度に、白馬南小学校6年生のPTA会長となった柏原周平さんです。村で旅館業を営む柏原さんは、自宅を兼ねた宿で断熱リフォームを実施し、その効果を実感していました。

「2014年に起きた地震で自宅兼宿が壊れてしまい、立て直すことになりました。建築関係の同級生からは、『断熱が大事』と言われたので、やってみたんです。そうしたら風邪はひきにくくなったし、燃料費も半分以下に下がり、こんなに良いものかと驚きました」。

柏原さんの宿をリフォームした工務店経営者の横山義彦さんは、白馬高校の断熱改修プロジェクトでも高校生たちを指導していました。そのつながりもあって、柏原さんは「断熱の良さを子どもたちにも体感して欲しい」と提案したのです。

鉛筆を握れない教室
柏原さんの提案に、PTAでは反応が分かれました。賛同する人がいる一方で、全国でも例のない取り組みに、「高校生にできても小学生には無理では?」「怪我をしたらどうするの?」「そもそも断熱なんて、子どもたちが興味を持たないのでは?」といった心配や疑問の声も少なくありませんでした。

そこで、6年生の授業で柏原さんが断熱の話をして、20人の子どもたちに直接どう思うのか聞いてみることに。すると子どもたちはとても興味を持ち、工事を見るだけではなく、自分たちが参加したいと言いました。担任の上野直人先生は「最初は、本当にそんなことができるのかなと心配していました。でも子どもたちは、みんなで話し合って参加したいと言ってきました。大人にやらされるのではなく、子どもが目的意識を持って決めて実現したことは、大きな経験となったはずです」と話します。

白馬南小学校で6年生が学ぶ「新校舎」は、長野オリンピックの際に建てられた木造校舎です。外観は立派ですが、断熱性能はほとんどありません。冬は子どもたちの鉛筆を持つ手がかじかんで、文字が書けないほどの寒さでした。席替えの際には、教室でただ一つのストーブの近くの席をめぐって、もめることもありました。子どもたちは、冬の教室が少しでも暖かくなればと望んでいたのです。子どもたちの声を受けて、PTAや学校、そして村の教育委員会も積極的に動き始めました。そこで、総合学習の時間を1日にまとめ、朝から夕方にかけて、断熱改修ワークショップを行うことになりました。

断熱ワークショプをコーディネートしたのは、白馬高校で生徒たちを指導した横山さんです。「不必要に高い天井から熱が抜けているので、できればそこも断熱したかったのですが、お金がかかりすぎるので今回は壁と窓だけにしました。それでも、校舎が無断熱なので十分効果があると判断したのです」。

同じ断熱ワークショップでも、高校生と小学生とでは、できることがまるで異なります。また、高校では工事に3日間かけましたが、今回は1日で終わらせなければならないため、横山さんはより準備に時間と労力をかけました。当日までに、子どもたちが壁に断熱材を入れやすいよう下地を設置し、内窓の建具も製作しました。

壁に入れる断熱材は、白馬村で環境イベントに参加したことのある愛知県の企業が、無償で断熱ボードを提供してくれることになりました。さらに、総費用37万円のうち30万円は、長野県内の環境団体から助成金が出ることになりました。そして残った費用をまかなうため、6年生がオリジナル商品を開発し、その販売収益をあてることになったのです。

小学生でもここまでできる!
工事が行われたのは、白馬がすっかり寒くなった11月22日です。子どもたちは2班に分かれて作業を行いました。ひとつは、断熱ボードをノコギリやカッターで切り、外に面した壁にピッタリとはめ込むこと。もうひとつは、大きな木製の建具にアクリル板をネジで取り付け、内窓をつくることでした。子どもたちは、プロの大工さんたちの教えを受けながら、次第に上手に組み立てられるようになっていきました

作業を見ていた担任の上野先生は、「小学生にしては難しいことをやっていると思いましたが、いつもはふざけて授業に集中できない子たちも、目を輝かせて作業していました」と驚きます。

つづきは本誌「だん」12でお読みいただけます。