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僕が飼ってた猫のこと。①  ~ji-jyo~


僕は猫が大好きだ。いつから好きになったのかきっかけは思い出せないけど、とにかくめちゃくちゃ小さい頃から好きなのは間違いない。

そんな僕が初めて猫と暮らしたのは小学生のとき、期間はちょうど3年間だけだ。

当時の僕は父親の仕事の転勤が決まり、家族みんなでスペインのバルセロナに引っ越すことになった。

引っ越す前は父親の会社の社宅に住んでいてペットが飼えなかったから、僕は前から猫が欲しくて親におねだりしていたけどその願いは叶わなかった。

でも引っ越し先はペットを飼ってもいいと聞かされていたので、僕は引っ越す前から何度も何度も親にお願いして猫を飼うことを約束してもらった。

引っ越しが終わって家の中もそれなりに落ち着いた頃、僕は早く猫を買いに行こうと何度もしつこく催促した。

家族みんなで話して次の父親の仕事が休みの日に見に行くことになった。

名前はもう決めていた。幼かった僕は猫の種類の名前はあまり知らなかったから、とにかく知ってるペルシャ猫の文字を名前に入れたいと思い、そしてこれまた安直な発想だけど名前の最後には【太】をつけると決めていた。

そこで猫を買いに行く前から名前は【ペルタ】にしようと家族に話した。父親も母親も姉もみんなじゃあそうしようとあっさり僕の決めた名前に賛成してくれた。

そしていよいよ待ちに待った猫を買いに行く日がやって来た。

僕はもうそれはそれは嬉しくてずうっとはしゃいでた。

父親が車を運転して連れていってくれたのは、バルセロナにあるランブラス通りという海の近くの長めの通りだった。

そこにはいろんな露店が並んでいて、それはもうなんでもかんでも並んでいたような記憶がある。

そこには数件おきに猫を売っているお店があった。

その日はだったのか、いつもなのかはわからなかったけど、僕が見て回ったお店に売っている猫の種類はどのお店も同じ種類の猫で、シャム猫とヒマラヤンの掛け合わせのような種類の猫だった。

3件くらい回って父親が値段を聞いていたけど、どのお店も値段は同じで当時のスペインの通貨で8000ペセタだった。

今はスペインも通貨はユーロだけど、僕のいた頃はまだペセタという通貨で、当時の日本円ではちょうど同じくらいだったので猫の値段は約8000円だった。その時はなんとも思わなかったけど、今思えば相当破格のお値段だろう。

どの猫にしようかみんなで話したけど、種類はその日1択しかなかった。みんなどうしようかしばらく迷っていた。よく考えたらあの時みんな猫を飼うことは賛成だったけど、僕ほどすごく楽しみにしていたわけじゃなかったのかもしれない。

それから3件目を見終わって4件目の猫を売ってるおじさんのお店に着いたとき僕は運命の出会いを果たした。

その猫は他の猫とは明らかに違っていた。少なくとも僕はそう感じた。

これまで見てきた猫たちは鉄のゲージの中でどちらかというとどこか諦めている様子でよく言えばおとなしい、でも無気力さが感じ取れる子たちばかりだった。無理もない。どの猫もみんな小さくて生まれてからそう時間は経ってない。もしかしたら親猫から無理に引き離されてきたのかもしれない。
そんな状況の中、狭い鉄のゲージに入れられてしまってるのだから。

だけど4件目の猫だけは違った。どんなにあがいても絶対に逃げ出すことなどできないゲージの隙間から、小さな小さな前足を一生懸命に伸ばして、
『ミャーミャー!』と子猫特有の高い声で必死に鳴いていた。

僕はとっさに父親に叫んだ。

『この子がいい!この子にする!!』

直観だった。僕はもはやこの子しかいない。僕が欲しいのはこの子だと。

父親は『じゃあこの子にするか?』とみんなに聞いて、みんなも元気そうな子だしいいんじゃないと賛成してくれた。

僕が早く触れたがっているのを見て店のおじさんはゲージの扉を開けてくれた。僕は優しく猫の頭を撫でて『一緒に家に帰ろう!』と言った。

僕が大はしゃぎで喜んでいると父親が、
『あれ?でもこの子しっぽ怪我してるみたいだな。しっぽがまっすぐじゃないわ』と言った。

確かによく見てみるとしっぽは他の猫に比べてすごく短く、まっすぐではあるもののしっぽの毛先はまるでほうきのようだった。

『どうする?他の子にする?』そう聞かれたけど僕は迷いもせず、

『この子がいいんだ!この子がいい…』と言うと

みんなそれじゃあこの子で決まりだねと言ってくれた。

この子もさっき見てきたお店と同じく8000ペセタだった。
買うことを決めると店のおじさんがちょうどいいくらいの大きさの段ボールに子猫を入れて笑顔で僕に渡してくれた。

無事に猫を買い終わり帰りの車に乗った。帰る途中、子猫は箱の中でずうっと鳴いていた。みんなで可愛いねと話しながら家路を急いだ。


僕が家族で住んでいた家は父の会社で用意してくれていたマンションで部屋は9階だった。
エレベーターで9階の部屋に向かう途中も子猫は早く出してと言わんばかりに一生懸命鳴いていた。

いよいよ家に着くと僕はさっそく子猫を段ボールから出してあげた。
すると子猫は元気よく家のリビングを端から端まで駆け回った。

しばらくするとテーブルの下に隠れて落ち着いたのでミルクをあげてみようと小さなお皿にミルクを入れて差し出した。

するととってもお腹がすいていたのかあっという間にミルクを飲み干すともっと欲しそうに僕を見上げながら鳴いていた。

その時僕は初めて前から決めていた名前で子猫を呼んでみた。

『メルタ!』

???

僕が初めて子猫の名前を呼んだとき、僕はうまく呼べずに『ペルタ』が『メルタ』になってしまった。
すると姉と母は笑って、

『あはは!もう名前メルタのほうがいいんじゃない?』といったので、最初に決めた名前とは少し変わってしまったけど、その日から子猫の名前はメルタに決まった。でも普段はみんな略して『メル』と呼んでいた。


メルはしっぽは怪我していたものの、それ以外は本当にいつでも元気いっぱいだった。

メルの見た目はまさにシャム猫とヒマラヤンの中間くらいの感じで、
青い瞳、短くも長くもない毛の長さ、顏の中央と耳、そして足の先としっぽだけが黒くて他は白い色ををしてた。

メルが家に来てからは僕は四六時中メルと遊んでいた。すごく人懐っこくてとにかく活発な猫だった。

メルとの思い出は数えきれないほどあるけれど、特に強く印象に残る場面がいくつかある。

メルは猫だったけど高いところがあんまり得意でなかった。
ある時、僕はメルを抱っこしたまま外の天気をみようとベランダに出た。
するとメルは爪をしっかり立てて僕の洋服にしがみつき震えながら顏をうずめてしまった。
『どうしたの?メル怖いの?』と僕は聞いたけど、ずっとその調子(笑)
確かに家は9階だったからかなりの高さがあったけど、猫も高いところを怖がるのかと知った瞬間だった。
僕は少し意地悪な気持ちでたまに同じようにメルを連れてベランダに行くふりをよくしてた。
メルは何度そうしてもいつも同じように怖がっていて幼い僕はそれがとても可愛らしく感じた。


当時、一番長くメルと一緒にいたのは僕だったかもしれないしとにかく仲良しという感じだった。
でもある事件が起きた時、少し母に嫉妬してしまう場面があった。

ある日僕はメルに外の世界を見せてあげたいと思い、メルを抱いて外に連れ出した。特にリードなどは付けずにそのまま外に来てしまった。
しかしメルはお利口というかたぶん初めてで怖かったのだろうけど、少し下して離しても僕の近くからは離れず外の世界を観察しているようだった。

その時、近所に住んでいた友達が何人かいたのでみんなとも遊びながらメルの散歩を続けていると少し離れたところに黒い影が見えた。

黒い影の正体は、そのころ近所に住みついていた野良犬のジョンだった。
ジョンという名前は誰がつけたのかは定かではなかったけど僕らの周りではみんなジョンと呼んでいた。

ジョンもいい子で誰にでも人懐っこく僕らは可愛がっていた。なので僕はジョンとも遊ぼうといつものようにジョンを呼んだ。

ジョンはいつものようにしっぽを振りながら僕らの方に向かってきたけど、だいぶ近くに来た時にメルに気づくと突然大きな声で威嚇し始めた。

しまった!と僕は思った。どちらも人懐っこいとは言ってもそれは人間にとってはということであって動物同士となると話は別だ。
まして今日初めて会うことになった猫と犬なのだ。

メルはジョンに威嚇されると、なりふり構わずすごい勢いで逃げ出して僕たちから離れてしまった。そんなメルをジョンは見逃さず追いかけていく。

僕は焦って夢中で2匹を追いかけた。メルはまだ小さかったので成犬のジョンには速さで勝つことは出来ずにすぐに追いつかれてしまった。
逃げるのを無理だと悟ったメルは小さな体で『シャーシャー』と必死にジョンに威嚇していた。

ジョンはじゃれてるようにも見えたけど、メルもそして僕も気が動転していたので、自分で呼んでおいてなんだけど、とにかくジョンに退散してもらおうと僕はジョンを追い払おうとしていた。
ジョンはいくらか楽しんでるようになかなかその場から離れず、このままメルが攻撃されたらどうしようと思ってた時、友達がうちの母親を呼んできてくれた。
僕はメルを抱っこして母に預けようとメルに近づいたけど、メルは僕にも威嚇して近づきすぎた僕はメルの両手猫パンチを首に喰らいまあまあの爪痕を残された。
しかし母が近づくとメルは安心して母にしがみつきこの事件は幕を閉じた。

そのあと僕はメルにもジョンにも悪いことをしてしまったなと思ったけど、家に帰ってしばらくしてからはメルはいつも通りで、僕のことを怒ったり怯えたりすることはなくそこは良かったことではあるのだけれど、
肝心なときに頼りにしているのは自分ではなく、母なのかと少し寂しい気持ちになったことが今も記憶に残っている。

この続きは僕が【飼ってた猫のこと②】でお話しします。

【次回予告】
・その後のメルと僕
・メルとの別れ
・メルが教えてくれたこと

最後までお読みいただきありがとうございます。

                             ~ji-jyo~


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