奇跡の在り方9
前回のお話しはこちらから。
先程まで無邪気な笑顔を見せていたソードだったが、急に元の無表情に戻りスレイブに問いかけた。
「先輩。」
「はい?」
「死神の役目ってなんなのでしょうか?」
「え?」
「人間がただ死ぬのを見届け、魂を連れてくる。それだけが私達の役目ですか?」
「……。魂を導く、それが私達の仕事です。」
「本当にそれだけですか?」
「……。」
「何かもっと大切な事がある様な気がするんです。」
「……。私は導く魂を救うことも私達の役目ではないかと思っています。」
「魂を救う?」
「本来はタブーですが、私の姿が見えた人間には声をかけて、死ぬ前にやり残した事がないかと問いかける事にしています。それをできる限り叶えてあげる事にしています。」
「それが魂を救う事に?」
「気休めにしかならないかも知れませんが、私は少しでも救えた魂があると思っています。」
ソードは急に目を輝かせて。
「魂を救う、そうか!そうですよね!それも私達の役目ですね!」
「そうですね、ただし摂理を曲げる様な事はしてはいけませんからね。」
「摂理ですか?どのような?」
「……、あまり言いたくないですが、寿命を少しでも伸ばすとか。」
「あ!それって!」
「過去の話しです。」
「かなり天界では有名な話しですよね。」
「若気の至りでした、忘れて下さい。」
スレイブはその昔、とある子供の魂を迎えに行った。するとその子の母親に姿を見られてしまう。子供が死んだら自分も死ぬ気でいた為死期が近い状態だったのだろう。見られた以上スレイブは死神と名乗った。すると母親は自分の生命はいらないから子供を助けて欲しいとせがまれた。
若かったスレイブは母親の残りの寿命の半分を子供に与えた、もちろん天界では大問題となりスレイブは厳しく罰せられたのである。
「私はあの時の事は間違っていたとは思っていませんよ。」
「その気持ち、今なら分かる気がします。」
スレイブは立ち上がり、ソードに念を押した。
「いいですか?絶対に真似はしないでくださいね。」
「分かりました、ただ私は彼女の自殺を止めたい、そう思ってます。」
「そうですか、それなら彼女も魂となれますしね。分かりました、無茶だけはしないように。」
「はい。では、私は行きます。」
そう言うとソードはスレイブの部屋を後にした。
スレイブは少し後悔していた。強制的に担当を変えるべきだったのではないかと。しかし、反対にソードにとって良い経験になるのではないかとも思っていた。この後ソードに起こる出来事など、この時は知る由もなかった。
つづく
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