HAKONE WHAT? 〜テーマパークとしての箱根を観る〜
箱根という場所には、一言では語り尽くせない魅力があります。温泉、登山鉄道、湖、そしてジオパーク。これらはテーマパークと共通の要素を持ちながら、独自の世界観を築き上げていますよね。しかしながら、浮き沈みや入れ替わりの激しいテーマパークとは逆に、伝統あるものは長く伝統として続くのが箱根をはじめとする景勝地です。その活力剤は、一体どのようにして成し遂げられているのでしょうか。
交通はアトラクションだ
景勝地としての箱根最大の特徴は、過激なまでの交通整備にあります。各施設の行き届くところまで行き届き、それらが(小田急系であれば)フリーパスによって自由に行動でき、さらにはもし寸断されてもバスなどといった代替手段がすぐ用意できるところは、テーマパーク含め他の観光地にはない恐るべき魅力の一つです。
東京ディズニーシーや西武園ゆうえんちをはじめ、基本的にはテーマパークのストーリーを巡るためには「徒歩」という手段がメインとなります。それは、ひとえにテーマパークが開発された土地であり、ジオパークであっても開けた道が整備されているというものなのです。最初から平坦な街道が整備されているジオパークなんて見たことも聞いたこともありませんね。それが「うそのほんもの」の真髄であり、パークにおける最大の魅力でもあります。
お手軽に「ジオ」を探索できるパークとは違い、箱根はそれぞれのスポットへ行くためにちょっとだけ「険しさ」を乗り越えなければなりません。例えば登山鉄道なんかはラック式を使わず無茶苦茶な急勾配を登っていきますし、海賊船に至っては船そのものが冒険への道です。自然災害によってストーリーが崩落する危険もあります。それでも、箱根を訪れるみんなはそれを糧にして進んでゆくのです。そこに面白さを感じ、さながらスクールアイドルを応援するかの如く。一緒に突き進み、一緒に歩んでゆく。それが箱根の交通です。
さるかに合戦という競争は平和である
過去記事「強いプロスポーツチームの3原則」のネタバラシをすると、あれは小説「1984」の「イングソックの三原則」をより平和的にパロディ化したものです。そのうち「戦争は平和である」という「真に平和を実現するためには、常に戦争状態にしてパワーバランスを保たねばならない」という党の信じる価値観を置き換え、「西武ライオンズ全盛期、レフトのレギュラーをおかず選手間の競争を煽ったこと」というものをひと言で指そうとして作ったのがあれです。
当時の巨人は補強やファームの指導統率など、しっかりとした競争を植え付けるための種蒔きに力を入れていた印象だったと思います。お股本でもオガラミのあたりで触れていましたが、壁としての役割、そして成長への起爆剤としての役割。これが「競争は平和である」で言いたかったことです。これらは組織であればどこでも展開させることができます。そう、あのさるかに合戦にだって。
現在の箱根の「交通アトラクション化」は、間違いなくこの時の競争によって根付いたものです。地域の活性化だけでなく、呼水としての役割も持ちます。ソアリンやまほもののような「核」は箱根にはありません。そこにあるのは「鍛え上げられた精鋭」という結果、結果だけが残っています。ただし、これは力による平和によってもたらされたにすぎません。この概念も、もうそろそろ通じなくなるかとややピントがボケる時が来るでしょうね。そう、そのバランスの維持に耐え切れなくなってイングソックが崩壊したように…
箱根湯本はワールドバザールか?
箱根観光の拠点としての役割を持つ箱根湯本。帰る前のおみやげ処としては、ワールドバザールやメディテレーニアンハーバーと同じような意味合いを持ちます。それでも彼らと違うところは山ほどあり、それが箱根湯本を温泉街の東の王者たる地位に仕立て上げているのです。
箱根湯本からの交通は入り口と出口たる鉄道線や小田原行きのバスの他に、各拠点へと通じるバス、登山鉄道、さらに細かいことを言うと湯本内の宿へと通じるオムニバスのようなものまでさまざまです。これらは「ハブ」として網の目の最大拠点となるように形作られています。メディテレーニアンハーバーやワールドバザールというより、箱根湯本はもっと奥の、それぞれのテーマエリアへと通じるハブである「サークル」や、位置だけで言うとミステリアスアイランドに近い立ち位置であるのです。
雰囲気だけで言うと西武園ゆうえんちの「夕日の丘商店街」に似ているのかもしれません。しかしながら似ているのは雰囲気だけであって、西武園は入り口となる旧遊園地西駅あたりからメインの徒歩交通路は放射状に延びています。バス網のサークルがメッシュのように張り巡らされた箱根湯本とはえらい違いです。もうちょっと正しく言うと、市内エリアと内浦エリアが相互に結びあう、ぬまづの聖地観光のようなものかもしれませんね。
これらテーマパークとはもう一つ違いもあります。箱根湯本や(もしくは強羅)から周辺への交通事情はそれぞれ「同じルートでも補完路がある」ということです。登山鉄道とバス、旧道と新道それぞれのバス、そしてちょっと離れますがロープウェイとバス。それぞれが止まっても、それぞれが機能するというのがいいところです。それは先ほども言った通りテーマパークのような「デザインされたもの」ではなく、ある程度制約があったからこそ生まれたストーリーであり、強力な輸送手段であるのです。
ハブであり、物資が行きかう拠点でもある。もしかしたら箱根湯本は日本屈指の「コンプリート・エリア」なのかもしれませんね。
永遠のアイドル、「ワ・ショク」
食事について。箱根の食を形作る最大の文化が「和食」です。湯葉丼から海産物まで、その種類は様々なんですが、ちょっと珍しいのが「山の中なのに山菜ではなく海産物がメインである」ということです。
移民と港の文化が根付くレストラン櫻や、当時流行った日本の文化を紹介するという名目のれすとらん北齋、そしていわゆる「西部劇カレー」とは違い、これには訳があります。近くの小田原で獲れる魚は、箱根の山の森の養分を多く含み、流れる早川の行き着く先で海の黒潮を吸収しパワーアップしたものです。これが「地域を代表する食材」として箱根に戻ってくると。
正直ストーリーではなく「味」で勝負しているのは否めないのですが、戻ってくる一連の流れがストーリーということもあり、「味がストーリーになる」という特殊性を持ち合わせています。これはどのテーマパークにはなし得ない「地域性」によるものでしょう。
ジオパークとしての箱根
最後に、ディズニーシーとの共通点である「ジオパーク」について触れておきましょう。
交通としてではない自然なままの河川の美しさと、火山の強力なパワーを感じることのできる箱根ジオパークは、その2点に特化したあまりにも強烈な自然を体感することができます。苛烈さと美しさ、それが箱根という土地を形作っているのです。
ジオパークの公式サイトでは、この箱根のテーマを「北と南をつなぐ自然のみち 東と西をつなぐ歴史のみち」としています。東海道という人・物の流れと、自然が形作る早川や芦ノ湖の流れと雄大さ。自然と人の造りしものが一つの土地で見事に調和する、これってまさにディズニーパークみたいなところがあると個人的には思っています。
苛烈さの象徴たるものが大涌谷でしょう。昨今はガスの影響で観光が厳しくなっていたりしますが、日本でもっとも有名な火山パワーを体験できる場所として今もなおその名をとどろかせていることは間違いないと思います。パークとするにはあまりにも厳しさがあり、西武園ゆうえんちのようなストーリーテリングの形とするにはあまりにも苛烈すぎる。それが「うその」と接頭語につかない「ほんもの」である証なのですから。
ストーリーといえば、北条氏の城郭ネットワークについても欠かすことはできませんね。西国からの脅威に、まるで使徒迎撃のような形で応戦する北条氏のストーリー語りのうまさは毎回舌を巻いてしまいます。城や砦の網目がそのまま人やモノの流れとなっていることも特筆すべきことでしょう。これらは自然の形も生かして作り上げられていたり、さらにはちょっと離れた小田原城の罠づくりなんかも含めると、現代フットボールのような仕込みが随所に込められていたりして面白いですね。
このように、テーマパークとしてみると、ジオ"テーマ"パークとして間違いなくメッシのようなポテンシャルを持っているのが箱根という土地だと私は確信しています。その影響力は消えることなく続いていくのです。
ところで。え、箱根で一番面白いとこですか?
ありますよ。箱根駅伝ミュージアムっていうんですけど…