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うずくまったまま動けない


ずっと、忘れられないひとがいる。
その人が初恋だった。
幼いながらに付き合っていた。
その頃は"付き合う"なんて口約束みたいなもので、子供である自分たちにはそれほど効力を発揮しなかった。
それでも付き合っていたんだ、幼いながらに。
3年ほど付き合っていたけれど手すら繋がなかった。繋げなかった。
とてもピュアな恋をしていた。

私はシャイで感情表現がうまくできないタイプだった。それに比べてその人はとてもオープンな人で学校中の誰もが知ってるような有名なひとだった。友達だって多かったし、部活でもよく表彰されていた。
勇気を出して告白してくれた時、嬉しかったのに平然に振舞って余裕があるフリをしてしまった。
本当は心臓がバクバクうるさくて仕方なかったのに。
いつも私は平然なフリをした。
好きだと直接言えた事もなかった。
彼は恥ずかしがりながらもよく気持ちを伝えてくれた。
直接聞くのも嬉しかったけれど、人づてに聞く私への褒め言葉がなによりも嬉しかった。
自分がいないところで私の話をしてくれた。
それなのに、私はとても酷いことをしていた。

シャイなことを言い訳に全く自分から積極的になれず、彼が行動することを待っていた。
好きの二文字すら言えないのに彼は何も言わずに私を好きでいてくれた。
とても申し訳ないことをしたと思っている。
うまく伝えられなかったけれど私は彼のことが大好きだった。本当に、心の底から。
本気で一緒にいる未来を想像していたし、そうなることを願っていた。
西野カナの曲を聴きながら勝手に自分たちにリンクさせて泣いていた事もある。
私にとって彼は初恋であり、最後の恋であることを幼い私は願っていた。
けれど実際そう簡単にはいかなかった。

ただ公園で他の女の子と会っていただけで私は裏切られた、ひどい、浮気だ!
私のことなんて本気じゃなかったんだ!
なんて決めつけて、まともに彼の話も聞かずに一方的に怒って泣いて縁を切った。
大好きだったから誰かと会っているだけで傷ついた、許せなかった。
毎日毎日、一晩中泣いた。
彼がどんなつもりでその女の子と会っていたのかはわからない。
ただの友達として会っていただけかもしれないのに私はその事実が受け入れられなかった。

失恋というものを初めて経験した。
毎日何をしていても思い出してしまうのは彼で。
一度だけ他の人と付き合ったけれどすぐに別れてしまった。ずっと頭のどこかに彼がいて、思い出さない日なんてなかった。
それから一年、二年、三年経っても私は彼が好きだった。
卒業と同時に違う学校へ進学した彼に連絡した。たった一言、会いたい。と
近くの公園で待ち合わせをした。
久しぶりに会うから緊張しすぎてかなり早くに着いてしまった。唇にはリップを塗って、前髪を整えて。持ってる服の中で一番可愛いものを着て。
心臓が破裂しそうになる思いで待っていた。

「久しぶり」
その一言を聞いただけで心がザワザワして涙が込み上げた。グッと泣きそうになるのを堪えて笑って見せる。

「ずっとね、別れてからも好きだった忘れたくても忘れられなかった」

頑張って勇気を出してそう伝えた。
彼は少しびっくりしていたけど嬉しいと言ってくれた。
それから少しずつ会う頻度が増えて、遊びに行った事もあった。

それでも結局、うまくいかなかった。
「君と別れた後にね、他の子と付き合ったことがあるんだけどいつもうまくいかなかった。どこかでずっと君と比べてたんだ。初恋だからってわけじゃない。すべての基準が君だった。あの時俺がもっと大人になれたら君のこと悲しませることなんてなかった。受け止めてあげられた。ごめんね」
そう言ってくれたのに私はまた、彼を信じることができなかった。
自信がなかった。こんな私をどうして好きだと言ってくれるのか分からなかった。
まわりにはもっといい人がたくさんいるのにどうして、と思っていた。
私を愛してくれることを望んでいたのに矛盾している。
結果また自分勝手に振り回してまた彼の前から消えた。

後悔、この2文字だけが今も残っている。
散々振り回した挙句一方的に切る形になった。
子供なのは私だけだ。
よっぽど彼の方が大人だった。
どうして信じてあげられなかったんだろう。
どうして信じる努力をしなかったのだろう。
どうして中途半端に気持ちを伝えて逃げるようにしてしまったのだろう。
どうして、どうして。

2人で行った場所、歩いたことのある道。
すべて覚えている。
その時どんな会話をしたのかもすべて。
彼はきっと覚えていないと思う。
私のことなんか忘れて、思い返したりする事もないと思う。
それでいい気もしている。
どこかで元気にしているのなら、楽しくやっているのなら。

私はあの頃のまま動けない。
次の恋に行こうとも思えない。
最後に君に会った日のまま、うずくまって一歩も歩けない。そんな状態のままもう何年も経つ。

ただ一つだけ、知っておいて欲しかったのは
誰よりもあなたのことが好きだった。
あんなに誰かを好きになったことはなかった。
そして、あの時の感情を超えることがまだない事。いまだに夢にはあなたが出てきて、幸せそうに笑ってて。
多分今日もこれを書きながら夢であなたに会うと思う。でも夢の中だから許してほしい。

私は今でも、

なんてね。
もう全て遅いのに。

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