3/21 ニュースなスペイン語 Lenguaje inclusivo:包括的言語
タイトルの表現は、英語では「inclusive language」なので、日本語では、そのままカタカナ読みした「インクルーシブ・ランゲージ」とも言う。
もう少し分かりやすい「Lenguaje no sexista」という言い方もあり、こちらは「性別に中立な言語」とでも訳せるか。
英語なら、例えば、「会長・議長」を表す語について、伝統的な表現で「chairman」としていたところを、単に、「chair」とする。
また、「販売員」を表す語を「salesman」から「salesperson」としたり、「消防士」を表す語を「fireman」から「firefighter」としたりする試みが包括的言語、もしくは、性別に中立な言語表現である。
英語では「ヒト全般」を表す「-man」が「男性」も表すため、暗に、こうした職業から「女性」を排除していると取られかねないという意識の変化から生まれた表現が包括的言語である。
日本語でも、かつて「看護婦」と呼ばれていた職業を「看護師」と言い換えられてきたのは、英語とは逆だが、職業に性別を暗示する表現を使わないという点で同根の傾向。
さて、この「性別に中立な表現」の動きはスペインにもずいぶん前から訪れていて、今回、紹介するのは、いよいよ、国会規則(reglamento del Congreso)にある「性別に中立でない表現(lenguaje sexista)」を改める提案が、賛成多数で議会(Pleno)可決されたというお話し。
例えば、投票(votaciones)を定めた国会規則85条で「下院議員たち(diputados)」となっている箇所が「国会のメンバー(miembros de la cámara)」と改められる。
伝統的に使われてきた「diputados」は、見た目は、男性複数形。
スペイン語は男性形を複数にすると「diputadas(下院女性議員たち)」も含む文法規則だが、ここが問題。
というのも、「diputados」が、あたかも、「diputadas」を排除しているかのように認識されかねないからだ。
そのため、性別を明示しない「miembro」という表現に変更されるという。
包括的言語を推し進めるのは、スペイン社会労働党(PSOE)やスマール連合(Sumar)の面々。
例えば、
・男性形を女性形を含むように使うことは、女性たちを無意味なところに位置づけ、見えなくし、排除するものである(el uso del masculino genérico coloca a las mujeres en una posición de insignificancia, las invisibiliza y excluye)。
・名詞として表現されないものは存在していない。私たち女性は国民の50%を占めているのに(Lo que no se nombra no existe y las mujeres somos más del 50 % de la población)。
との意見が聞かれる。
一方、包括的言語に反対なのは国民党(PP)やボックス(Vox)などの右派(derecha)政党。
性別に中立でない表現を排除しても、男女平等にはつながらない。左翼の連中の戯言だ。包括的言語は、過激で、粗末な、分離主義の、排他的なフェミニズムの関心におもねるためにねつ造された用法である(no sirve para avanzar hacia la igualdad, sino que es una patochada de la izquierda y una lengua absolutamente inventada que pretende responder a los intereses de un feminismo radical, bronco, sectario y excluyente)
とはボックスのメンバーの主張。
それにしても、フェミニズム嫌いがにじみ出ている。
で、文法の番人、スペイン王立アカデミー(RAE)は、こうした国会の動きに対して、「異論(discrepancia)」を表明していて、保守の姿勢を崩さない。
そんな王立アカデミーのスタンスに触れつつ、
包括的言語は政治の問題だ。しかも、賛否両論があり、RAEからは支持されていない用法である(el lenguaje inclusivo es una cuestión política y muy polémica que no cuenta con el respaldo de la Real Academia de la Lengua)
と持論を展開した国民党議員もいた。
むむむ、実は、小生は外国人で、しかも、男性ということもあり、この問題にはかなり鈍感(もちろん、男女平等は大切だが、ソレとコレとは別なんじゃないの、というスタンス)。
写真は「下院(CONGRESO DE LOS DIPUTADOS)」と書かれたファザード。
これからは、今、一部の人たちの間で流行っている、性別を明示しない「x」を使って、「CONGRESO DELOSDIPUTADXS」とでも書くのかなぁ。
教育現場ではどのように教えましょうかね。
でも・・・とも思う。
まず、前提として、例えば、「amigos」は「友人」を意味する語の「男性複数形」なので、①「男の複数の友人」、②「男と女の友人」を表す。
男性を複数にすることで、女性を含ませる②の用法が、女性を見えなくしているとして、やり玉にあがっている。
じゃあ、「amigas」はどうなのかしらん。
「amigas」の「女の複数の友人」しか表さない用法は、男性を完全に排除して、女性だけを表す表現なんだから(ウラヤマシイ・・)。
まぁ、男なんだから、そんなことに、ウジウジしない!
(こういう表現もダメだね)。