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不安を増やさないためには?(ACT実践編⑦)

前回は、前々回に引き続き
「アクセプタンス」(受け容れること)という
ACTにおける感情へ対処するプロセスを
説明しました。

特に、「悲しみ」という感情に対して、
「癒しの手」というエクササイズを
紹介いたしました。

文中にも書きましたが、
「セルフ・コンパッション」という
考え方とも親和性が高いエクササイズです。

「セルフ・コンパッション」とは、
自分を慈しむこと、自分に慈悲を向けること
を指します。


さて、今回は私たちを苦しめる感情の一つ
「不安」
に焦点を当てます。

「自分の将来が不安で仕方ない。」

「仕事がうまくいくかとても不安だ。」

多かれ少なかれ、
私たちは日常において
不安という感情を経験します。


何度も繰り返しになりますが、

ACTにおいては、
特に感情によって起こされる
「体験の回避」が問題となります。

不快な感情を経験したために、
それに関わる体験を
強く避けてしまう状態
です。

例えば、

過去に仕事でミスをしたために、
似たような状況になりそうだと
避けるような行動をとってしまう。

過去に陰口を叩かれた経験から、
人から何か悪口を言われるんじゃないかと
人と話すことを避けてしまう。

などです。

本当は、
その体験によって得られる
心地よい感情や経験もあるはずですが、
その体験自体を避けてしまうのです。

毎回書くことですが、
こうした状態があっても、
困難を感じていなければ問題はないです。


ただもし、あなたが今

「本当はやりたいことがあるのに
 失敗や否定が不安で
 やりたいことを避けてしまう」

「とにかく将来に対して
 漠然とした不安があって
 なかなか前に進めない」

そのような状態が続いていて、
苦しい気持ちがあるのなら、
この記事がお役に立てるかもしれません。



不安とは何か


まず、私たちの心を時に苦しめる、
この「不安」というのは、
どんな感情なのでしょうか。

一般的な意味としては
安心できないこと。気がかりで落ち着かないこと。
といった意味です。

心理学では、もう少し詳しく、

自分を脅かす可能性のある破局や危険を
漠然と予想することに伴う
不快な気分のこと

とされています。

ちなみに「破局」というのは、
恋人の別れという意味ではなく、
「悪い状況」「最悪な状況」を意味します。

ここで、「不安」という感情に
2つの要素があることがわかります。

一つは、
「自分を脅かす可能性のある破局や危険」
つまり、自分に対する脅威があること

もう一つは、「予想する」こと
つまり、過去ではなく
未来へに起こるかもしれないことへの反応である
ということ


心理学的には、
「不安」は2つの感情に分けられます。

それは、
「恐怖」と「心配」です

恐怖は、
具体的で外的な刺激に基づく不安
です。

ホラー映画などがまさにそうですが、
自分の身に危険を感じるから
恐怖という感情が生まれます。

一方で心配は、もう少し曖昧で、
必ずしも刺激がなくても
私たちの想像によって生まれる
ことがあります。

例えば、
「ガスの元栓閉めたっけ?」という
ふと思い出したことで心配になりますね。

恐怖は通常、刺激のもとがなくなれば、
おさまります。

ホラー映画を見終われば、
恐怖が一旦おさまります。

心配は、そのあたりが曖昧です。

お風呂で髪を洗っている時に、
ふとホラー映画を思い出して、
後ろに誰かがいる気がする。

これは、心理学的には
心配に当たります。

要は、私たちは、

目の前に脅威がある時、
それが自分を傷つけるんじゃないかと予想し
不安になりますし、

目の前に脅威がなくても、
学習によって記憶や想像をしても
不安になるのです。


基本的にこの不安の感情は、
一度危険を感じたところには
近づかないという意味で役立ちます。

しかし、
時にはこの不安が働きすぎて、
生活に支障をきたす
場合があります。

似たような状況で常に強い恐怖が生まれたり、
関係ない日常でふと思い出して強く心配したり
するようになることがあります。

パニック症や選択性緘黙、社会不安症など
と呼ばれる症状にもなることがあります。

ACTは世界で、こうした症状の緩和にも
効果を発揮しています。


不安へのアクセプタンス

3回目ですが、
ACTでは体験の回避に対して、
アクセプタンス(受け容れる)というプロセスをとります。

不安について否定するのではなく、
「そういう感情もあるよね」と
積極的に認めてあげるようなイメージです。

「あるがままにする」という言い方でも
よいかと思います。

とくに「不安」に関して
「受け容れる」というと
抵抗があるかもしれません。

「不安」はいち早く取り去りたいのです。
だって自分に危害が加わるかもしれない、
という感情ですから。

そのままにしたら、
自分の身が危ないという感覚が強いのです。

生物は、こうした感覚のとき
2つの戦略を取ります。

それが
闘争か逃走(Fight or Flight)
です。

もちろん、
自然界で自分を食べようとしている
生き物が目の前にいたら、これは正しいです。

ライオンを目の前にした鹿が、
その状況を受け容れて立っていたら
食べられてしまいます。

でも、
私たち人間に、そのような状況は稀です。

では、
なぜ私たちはこんなに不安なのでしょうか。

実は、
私たち人間が苦しむのは、
この「ごく自然な」反応が、
働きすぎている時
なのです。

私たちの頭がよくなりすぎて、

目の前にない出来事でも
不安を感じるようになってしまったり、

必要以上に状況に敏感になって
不安を感じるようになってしまったのです。

だから、
必要以上に不安を感じている時は、
一度「あるがまま」に感じてみて
その反応が自分にとって良いものかどうかを
改めて判断すること有益なのです。


では、
「人と話すことが不安になってしまった」
という例を考えてみましょう。

※実在の人物とは関係ありません。


ある時、職場で会話をする同僚が、
聞こえていないと思ってか
私の陰口を言っているのを聞きました。

私としては、
その人とは普通に話をしてきたつもりです。
嫌われるようなことをした覚えもありません。

しかし、
その同僚の一言が私にとっては
とてもショックでした。

それから、
その同僚以外でも、少し遠くで誰かが
話していると、
「また私の悪口を言っているのでは」
と心配するようになりました。

そんなことはない、
と自分に言い聞かせますが、
その度にむしろ不安が大きくなります。

仕事中も、休憩中も、
誰かが話す声に敏感になってしまい、
とても疲れる日々が続きました。

ついには、職場以外でも
誰かが悪口を言っているように思え、
外に出ることが辛くなりました。


こうした場合、
「不安」という不快な感情の経験から、
「社会的な活動」という体験
避けるようになっています。

不安はとても厄介なものです。

実際に目の前にないことに対しても
不安は生まれてきます。

「不安に思うな!」と自分に言っても
頭が勝手に想像してしまいますし、

「また不安になるかも」という不安が、
心を支配してしまう時もあります。


こうした例に対して、
「抵抗スイッチ」
というメタファーをご紹介します。

メタファーというのは、
例えのことです。

感情への対処方法を、
メタファーを通して学んでみましょう。


それでは、始めます。

あなたの頭の中に、
「抵抗スイッチ」が付いていると
イメージしてください。

このスイッチがオンになると、
あなたは自分の身に起こる
体や心の痛みすべてに抵抗してもがきます。

今、「不安」が出てきました。
「抵抗スイッチ」がオンだったら、
絶対にその不安をなくしてしまわないといけません!

「大変だ!また不安になった!」
「こんな感情は嫌だ!どこかに行ってくれ!」
「どうしたら消えてくれるんだ!」

という感じです。

今、最初に現れた「不安」について
さらに「不安」になってしまいました。

もしかしたら、
いつまでも消えない「不安」に
苛立ったり、悲しくなったりするかもしれません。

このように、二次的に現れた気持ちは、
どれも役に立ちません。
あなたの時間やエネルギーを奪うだけです。

今度は、
頭の中の「抵抗スイッチ」を
オフにしてみましょう。

この場合は、
どんなに不快な気持ちが現れても、
それに対して抵抗したりもがいたりしません。

「あ、今不安になっている」
「なんだか胸が苦しくて、手が汗ばんできた」
「いろいろと嫌なことを思い出している」

このように、抵抗せずに
そのままにしておきます。

でもこれは、
あなたが「不安が好き」とか「不安を求めている」
ということではありません。

あなたが不快であることに変わりはありませんが、
それに抵抗して、時間やエネルギーを
無駄にすることはありません。

不安に抵抗しようともがいている時にはできなかったこと、
もっとあなたの人生のためになることに、
時間を使うことができます。

「抵抗スイッチ」がオフの時は、
不安は強いこともあれば、弱いこともありますし、
すぐ通りすぎてしまうこともあれば、
しばらくとどまることもあるでしょう。

いずれにしても、それに抵抗しないことで、
あなたの時間やエネルギーを
他のことに使うことができる
のです。



どうでしょうか。

感情への対処方法が
イメージできましたか?

不安は、そこから始まって
怒りや悲しみなどにつながりやすいと
私は考えます。

ですので、
その感情への対処方法を
「抵抗スイッチ」というメタファーを
通して
学んでみることをおすすめします。

大事なのは、

不快な感情に抵抗して、
二次的に不快な感情を生まない、
そして、時間やエネルギーを
無駄にしない

ということです。

この記事の後に、
「怒り」「悲しみ」についての
エクササイズをやってみることも
おすすめです。


おわりに

最後までお読みいただき、
ありがとうございます!

今回は、
「不安」について「抵抗スイッチ」という
ACTのメタファーを
紹介しました。

こうしたメタファーを通して、
人間心理のメカニズムについて
学ぶことも必要です。


ACTの全体像については、
以下の記事をお読みください!

また、私の運営するジブンテツガク・プログラムでは、
ACTをベースとした心理スキル習得のための
エクササイズ
も提供しております。

プログラムの詳細はこちらをご覧ください。

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