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「自分には何もない」こそが、はじまりの合図
仕事もない、友達もいない、なんにもない。
アパートの1階、ちいさな1Kに住む恋人の部屋の隅っこに置いてもらった、安物の折り畳み式仕事デスク。そこにちょこんと乗った、大学時代から使っているPC。
そこが、今のわたしのスタート地点。
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7年前、わたしは逃げるようにして会社を辞めた。
新卒で入った文具メーカー、配属された経理部で1年半を過ごした頃。
強張る体をだましながら続けていた出勤も、どうにもこうにも難しくなり、ある日を境にパタリと行けなくなってしまった。
23歳、無職、メンタル崩壊中。
当然ながら一人暮らしの家賃を払う余裕なんてない。借りていたアパートを引き払うも、実家に戻るのは気が進まず、ちいさな1Kで一人暮らしをしていた恋人のアパートに転がり込んだ。
スマホに入っている連絡先も、SNSも、全部消した。すべてのしがらみから逃げ出した。
そんなわたしの眠れない夜が明けると、会社勤めの恋人は「行ってきます」と出ていく。
「いってらっしゃい」と送り出してすぐに、ベッドに寝転んで低い天井を眺める。ひとりぼっちだ、と思う。
わたしは、いま、何も持ってない。
社会の流れから滑り落ち、職場の人や友達との連絡もすべて断ち、今の自分にはなーんにもない。
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今の働き方をしていると、「もともと物書きの経験があったんですか?」「フリーランスで自分の好きなことを仕事にするなんて、どうやって?」と聞かれる機会が割と多い。
わたしの現在地だけ見たら、例えば大学でそういうことを学んでいたとか、最初からそういう畑の会社に入っていたとか、そういう感じに見えるんだろうなと思う。
経験のある特別な人だけが、そういう道に進めるはずだ、と。
でも、そうじゃない。
わたしは大学の教育学部を出て、世間の流れに乗って就職して、書類上の数字を見つめる毎日を過ごしていただけだ。物を書くとか、クリエイティブな仕事をした経験なんてない。
挙句そんな「ふつうの毎日」にさえもついていけなくなり、滑り落ちてしまったのだから、特別な人でもなんでもない。
そんな「何もないわたし」がどうやって今の場所まで歩いてきたのかと言うと。
社会の流れから取り残され、何もなくなってしまった自分は、心の調子が戻ってくるのに合わせて、じわじわと物を書く仕事を始めた。
最初はちょっとした文章を書いて数百円をもらうみたいな、そういった仕事からだ。
当然ながら、最初はそれで食べていくなんて到底難しかった。貯金で繋いだり、他にバイトをしたりした。親にお金を借りたこともあったと思う。
「何もない」から、小さい一歩を積み重ねて、今がある。
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「もともと物書きの経験があったんですか?」に答えるとしたら「未経験から始めました」だし、「フリーランスで自分の好きなことを仕事にするなんて、どうやって?」に答えるとしたら「小さい一歩を積み重ねて」になる。
何度このように答えてきたか、わからないほどたくさん言った気がする。
しかしわたしは、この自分の答えに、ずーっと違和感をもっていた。
「未経験から、小さい一歩を積み重ねて」
たしかにわたしは、前職はメーカーの経理部だし、物書きの経験がないところからスタートした。少しずつ前に進んできた結果、それが仕事になったと思う。
でも、未経験からって当たり前のことじゃない?
誰だって生まれたときは「何もない」のだから、何だって未経験からのスタートじゃない?
大学で文章を学んだ人も、前職が出版社や編集プロダクションの人も、高校時代からブログを書いていた人も、その前は未経験だったんじゃない?
つまりは、最初の一歩をいつ踏み出すかの違いしかなくて、いつだって誰だって、未経験からなんでもできるんじゃない?
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わたしにとっての最初の一歩は、明らかにあのアパートの小さな部屋の隅っこだった。
「何もない」からのスタート。
気づけば遠くまできたもんだと思う。
でも、あの時の気持ちは一生忘れない気がする。
「何もない」から、ひとつずつ「何か」を手にとっていく楽しさ。「何もない自分」を何色にでも染められるワクワク感。
辛く苦しいどん底の日々だったけれど、「何もない」は悪いことではなくて、これから何かが始まる証だと思うから。
誰だって未経験からのスタートで、「何もない」は、はじまりの合図。
もしも今、何もなくなったとしても、きっとわたしはあの時のように。
おわり
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「じぶんジカン」は、自分と向き合う時間をつくるノート達を販売しています。
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