いつか、カフェをやってみたいんだよね
「いつか、カフェをやってみたいんだよね」
立ち並ぶビル群が絵画のように窓枠におさまる、東京駅近くのカフェ。こじんまりとした丸テーブルを挟んで座る友人の手元に向かって、ぽつりとつぶやいた。
3年とちょっと前、まだわたしが20代の頃の話。
将来を熱く語るでもなく、自分のことなのに他人のことを話すような温度で口から出たその言葉は、所在なくふわふわと漂っている感じがした。
「へえ、そうなんだ」と呟いて、カフェラテを一口飲んだ友人が続ける。
「でも、意外かも。たくさんの人と関わるの、得意じゃないって言ってたのにね」
たしかに、とへらへら笑って相槌を打ち、わたしもマグカップを口に運ぶ。
自分の中でも、いま発した「カフェをやってみたい」という言葉と、自分の本当に意図しているところは、なんだかぴったりと重なっていないような、もやもやとした心地悪さがあった。
カフェをやってみたいという気持ちは、本当だ。飲み物片手に思索する時間を持てるお気に入りのカフェのような空間を、自分でつくってみたいと思っている。
でも一方で、わたしは本当に、世間一般でいう「カフェ」をやってみたいのだろうか。
いま友人と居るこのカフェのように、本を読む人もいれば会話する人も、PCで仕事をする人もいて、親に連れられた小さな子どもから年配の人まで、いろんな人が出入りする「カフェ」というお店を持ちたいんだろうか。
あれから、3年が経った。
この3年の間に、自分が漠然と抱いている「カフェをやってみたい」という気持ちを具体化するべく、予約制の「1日カフェイベント」をやってみたり、予約不要で誰でも来られる物販の「1日店舗」をやってみたりした。
それで、わかったことがある。
あの時、友人に向かって言った「カフェをやってみたい」のニュアンスは、たぶんちょっと違ったなってこと。
わたしは、いつでも誰でも来られるようなお店をやりたいわけじゃない。
「来たい」と思ってくれる人が、わざわざ来てくれるような。自分と向き合う時間のための、その時間に特化した空間をつくりたいんだということ。
2019年に実施した「1日カフェ」の経験から得たもの
2019年に実施した「1日カフェ」は、今思い出しても楽しくなってしまうくらい、わたしの中でメモリアルなイベントだ。
東京・白金台にある素敵なカフェをお借りして、予約制でオープンした1日カフェ。
来てくださるのは、基本的にじぶんジカンのユーザーさん。お近くの方もいれば、遠方からわざわざ来てくださった方も。
自分だけのオリジナルノートを製本していただき、そのあとはコーヒーをお出しして、ゆっくりとノートとともにカフェタイムを楽しんでもらえるような内容だった。
じぶんジカンにおいて初めてのイベントだったこともあって、ひょっとしたら参加してくれた方々には、少し不便な思いをさせてしまったかもしれない(順番待ちが長いとか、コーヒーの提供が遅かったとか)。それに何より、あのイベントは正直に言えば思いっきり赤字だった(!)。
改善点はたくさんあったけれど、あの形は、わたしがこれからの人生でやってみたいことにとても近い空間だったと今は思う。
今年実施した「1日店舗」の経験から得たもの
そして先日、5月8日に実施した「1日店舗」。
こちらは挑戦として、予約不要で誰でもお越しいただけるような、つまり「普通のお店」としてオープンした。ドリンクをお出しするのは難しい場所だったので、物販のみのお店だったけれど。
わたし達が想定していた3倍ぐらいの人数にお越しいただいて、驚いた。8割ぐらいはユーザーさんで、とても嬉しかった。
道の看板を見て、気になってのぞいてくださった方も少しだけ。一般的に「お店」と言えば、偶然見つけて入ってくださるとか、そういう偶然の出逢いもメリットのひとつだと思う。
知り合いのカフェオーナーさんからは「地域の方に知っていただく場としても、良いですよね」と応援してもらったりした。
ただ、やってみてわかったこと。わたしは「お店」を新たな出逢いの場にしたいと、思っていないのかもしれないということ。
もちろん、たまたま見つけてのぞいてくださったことは、とても嬉しかった。その気持ちに嘘はないのだけれど、これからもこの「一般的なお店」の形でやっていきたいかというと、なんだかちょっと違う気がする。
それでたどり着いたのが、先ほど書いたこれである。
わたしがつくりたい「カフェ」という名の空間
数年前に友人に話した「カフェをやってみたい」という気持ちは、今でもある。
ただその「カフェ」は、どうやら開かれた場所ではなさそうだ。
じぶんジカンのユーザーさんが、自分と向き合う静かな時間を、ノートに安心して向き合える空間をつくりたい。それを今わたしが知っている空間で名付けるとしたら「カフェ」が最も近いのかもしれない、という感じ。
大きな窓と、ちょっとしたドリンクと、ノートが書きやすい広いテーブル。静かな時間と、同じようにノートに向き合うまわりのお客さん。そこには「友達とおしゃべりをしに来た人」は一人もいない。みんな、じぶんジカンのユーザーさんであるという、ある種のゆるやかなつながりの空気もトッピングに。
「やってみたい」と思った時点では、クリアに見えていなかったこと達。
「これかな?」と思う一歩を踏み出してみたからこそ、わかったことがたくさんある。たぶんそれらは、頭の中で描いているだけでは、見えてこなかっただろうと思う。
そしておそらく、まだまだ「やってみたいこと」をクリアにしていけるような気がする。
それはきっとじぶんジカンを続けていたら見えてくることだろうし、またオンラインやオフラインのイベントを開催したり、新しい場所をつくってみたりしたら、開けてくる世界なのだろう。
一歩踏み出す。新しい自分を発見する。また一歩踏み出す。
その繰り返し。
次は、どんな一歩を踏み出そうかな。
おわり
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わたしが運営しているブランド「じぶんジカン」では、自分と向きあう時間をつくるノートを販売しています。
毎週月曜&金曜が発送日です。
エッセイ集も、ぜひ。
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