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外されないように、置いてかれないように

飽きられないように、外されないように。

常に新しい話題をもって、みんなを楽しませなければ。


高校の3年間、わたしは女子テニス部に所属していた。

女子だけが40人ほど集まる部活の時間は、共学における学校生活の中でも異質な時間だった。

「おしゃべりがてらテニスしに来てる」みたいなゆるい部活だったので髪型も服装も当然自由で、夏以外はあまり汗をかくこともなかったためか、オシャレに敏感な、スクールカーストで言えば上位に入るような女の子が多かった。

校庭に響くおしゃべりの声、ボールを打った後の前髪を気にする仕草、制汗剤のフローラルな香りで満ちた更衣室。

高校デビューで髪を染めピアスをあけて気合いを入れたわたしは、その女子社会の中でなんとか生きようと必死だった。

外されないように、置いていかれないように。

輪の中での生き残りをかけてわたしがとった策は、「常に新しい話題をもっておく」というものだった。

女子達はいつも話題を探し、新しい刺激を求めている。それらを提供することで「この輪の中にいる権利」を得ようと試みた。

女子高生がひときわ目を輝かせる話題と言えば、それはもう、とにかく男子にまつわることだ。誰々君がかっこいいとか、好きな人ができたとか、その人と進展があったとか、付き合ってからのあれこれとか。

「この話さえできれば、みんながわたしに興味をもってくれる」

3年生になって引退するまでの間、わたしはなるべく話のネタをもち続けることを心がけた。

その策が功を奏したのか、最後までなんとか輪の中に居場所を与えられた。思惑通り「常に新しい話題をもっている人」と認識され、「最近どうなの?」と自分のまわりに人が集まることさえあった。

こうしてわたしは、女子社会を生き抜いた。


生き抜いた、けれども。。。


あれから10年以上経った今、あの頃の部活仲間とのかかわりは一切ない。

高校卒業後、わたしはテニス部の集まりに参加しなくなったし、引き続き親しく付き合うような関係の友達もほとんどいなかった。当然、そのうち集まりには呼ばれなくなり、今では完全に疎遠になった。

あの時のわたしは、無理をしていた。

みんなも、薄々気づいていたのかもしれない。

無理がある関係は、心地よくないから長続きしない。

新鮮で刺激的な話題は、いっときの関係をつなぎとめることはできるけれども、きっと一過性の盛り上がりで終わってしまう。つなぎとめるための無理をしても、自分には何も残らないのだなと思った。

***

こんなことを思い出したのは、先日更新した「取るに足らないこと」を書いた地味なnoteを、思った以上にたくさんの方が読んでくれたから。

高校時代のわたしだったら「こんなに地味な、刺激的な展開もない、そして至極個人的なブローチの話なんて誰が聴いてくれるの?」と言うだろう。確実に。

でも実際は、読んでくれる人がいた。それが嬉しかった。

大人になった今でも、なんとなく「飽きられないためには常に話題が必要」だと感じることがある。実際にそうやって常に新鮮な話題をもち刺激を与え続けることで拡大していく人・サービス・企業・コミュニティもたくさんある。

でも、こうして、些細で地味だけども大切にしたい物事や想いを、ていねいに扱うだけでも、ちゃんとわかってくれる人がいるのだな、と思えて嬉しかった。

現在運営している文具ブランド『じぶんジカン』においても、夫婦だけでやっているので、常に新しい商品や話題を提供するのは難しい。

でも、些細だけどだいじなことをちゃんと大切に扱っていけば、きっと必要な人に届くのかもしれない。

そうだと信じたいな、と今は思う。

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じぶんジカンの発送日、次は11日(土)です。

発売したばかりのオリジナルカメラストラップも、こだわりの逸品です。



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