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ゲーミフィケーション活用事例:体験型謎解き脱出ゲームを取り入れた人体解剖模型学習

こんにちは。ゲーミフィケーションデザイン賢者Lv98 きっしーです。

今回は、本協会会員・古堅裕章さん(九州看護福祉大学 看護福祉学部 看護学科 助教)より寄せられた、大学授業でのゲーミフィケーション活用事例を紹介いたします。

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授業にゲームを取り入れることの壁


 九州看護福祉大学 看護学科2年生の「生体機能・形態演習」の2コマで、「人体解剖模型学習」を教えています。もともと「体験型謎解き脱出ゲーム」が好きだったこともあり、この授業を担当した当初より、この2つを組み合わせたら、とても面白い授業になるんじゃないかなーと思っていました。しかしながら、看護師という医療者の育成であること、人体の構造を立体的に理解するために重要となる授業であることなどから、「授業」と「ゲーム」を組み合わせる事は、周囲の教員からの同意・賛同が得られず、実践までにはかなりの歳月を要しました。


授業にゲームを取り入れるまでの過程


 私が授業を担当した当初は、教員が要点を指導した上で解剖模型の観察を行う形式の「一方向型授業」であったため、以下のような「アクティブラーニング型」へ徐々に内容を変更しました。
1段階目:指導部分を「要点説明」だけでなく、「構造や機能の質問提起」も行い、解剖模型の観察後にグループディスカッションを行うように変更。
2段階目:1段階目の内容を学生自身が読んで実践できる資料としてまとめ、解剖模型とセットでその資料を掲示。教員の説明を受けることなく、学生が各解剖模型を順番に巡回し学習およびディスカッションができるように変更。
3段階目:解剖模型の巡回ルート指示をなくし、学生自身が自分の興味のある解剖模型から自由に巡回して学習できるように変更。
最終段階:2段階目の掲示資料の内容を変更しないことで授業内容と質の担保、3段階目のように学生に学習の自由度を持たせても授業が成り立つことを実証。その上で、学生が集中して自発的に取り組むために、「体験型謎解き脱出ゲーム」の要素を追加したいことを説明し、全員ではないものの周囲の教員から同意を得ることができ、やっと授業の実践に至ることができました。

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体験型謎解き脱出ゲームを取り入れた人体解剖模型学習 と ゲーミフィケーションの6要素


 「体験型謎解き脱出ゲーム」は、実際に自分が物語の主人公となり、様々な形式の「謎」を解き明かし、閉じ込められた環境(室内や建物など)から脱出することを目的とする体験型のゲームです。よって、「物語(ストーリー)」によって、ゲームの世界観に引き込み、自らやりたい感覚を持ってもらうことが重要な要素となるため、学習内容や看護学生という立場と一致した物語作りを意識しました。

〇ゲームのあらすじ
① 事前学習として解剖模型白地図に臓器を記載してくる。
② 授業のめあてを説明した後に、解剖模型白地図を取り出すように促すと、どこからともなく声が聞こえる「あなたたちね・・・私にこの苦しみを与えたのは・・・・(以下略)」
③ 声の主は、女性の人体解剖模型で、解剖白地図を見て、学生達のあまりの知識のなさに、
自分の内臓を組み立て間違えて苦しみを与えたのは、この学生達に違いないと思い込み、
苦しみと恨みから、学生達を教室に閉じ込めてしまった。
④ 学生達は教室から脱出するために、各解剖模型の謎(学習課題)を解き、「パズルの一部」や「脱出に必要な情報」を得ていく。すべての謎を解くと、解剖模型が抱えている苦しみの本当の原因(学生たちの組み立て間違いではない何か)にたどり着くことができる。
⑤ 最後は、看護師(看護学生)として、患者(解剖模型)に対して、苦しみの原因を解剖生理学に基づいて、わかりやすく説明することによって、解剖模型からの誤解が解け、教室から脱出できる。

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〇ゲーミフィケーションの6要素
<能動的な参加>

学習内容と一致した世界観と物語でゲームに引き込み自らやりたい感覚を持ってもらう。
演習室という限られた空間ではあるが、授業中に自由に動き回ることができる。
<即時フィードバック><称賛の演出>
 解剖模型毎の課題をクリアする毎に、必ず「パズルの一部」や「脱出に必要な情報」が得られる。
 今まで学習を積み重ねてきた学生は、チームに貢献でき、メンバーからの称賛が得られる。
<独自性の尊重>
解剖模型を回る順番は決められておらず、自分の好きな課題から取り組める。
 解剖生理学の学習が生かされ、日々学習をしている人ほど、ゲームクリアの可能性が高まる。
<成長の可視化>
 クリアした課題はファイルに入れ持ち運ぶ(本来の目的は大謎を解くためであるが)、課題をこなすごとに増えていくので、学習の進捗・積み重ねの可視化にも役立っている。
<達成可能な目標設定>
 解剖模型学習の前段階に「解剖生理学」の学習があるが、その知識がなくても回答が可能な課題設計とした。①解剖模型を注意深く観察することで回答可能な課題。②構造から機能を推察する課題。③自分の体などを実際に動かして機能を考える課題。この3パターンにできない場合でも、参考資料を解剖模型の横に置くことで、知識不足で回答不能とならないように工夫した。
 また、課題毎に報酬(パズルの一部など)が得られ、物語上、「秘密の部屋」に行くという中間目標を用意し、最終目標として大謎を解き「解剖模型教室から脱出する」という段階的な目標を設定した。

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授業の感想 と 本年度の実施について


授業の感想では、「楽しく学べた」、「集中できた」「時間がたつのが早かった」などの記載が多く見られ、「体験型謎解き脱出ゲーム」の要素を入れる事により、「正規の学習内容」+「ゲームの内容」と作業量は増加しているにもかかわらず、3時間(90分×2コマ)集中力が持続して課題に取り組めたことは、ゲーミフィケーションの効果であると感じている。また、「楽しさ」の理由として、ゲーム性以外にも「自由に動き回れる」、「模型を触れられる」、「みんなと話しながら学べる」などの記載も多くみられたことから、「活動性」や「協力性」を含むことが有効である印象を受けた。
 本年度は、コロナウイルス感染症の影響で、「活動性」と「協力性」を制限しなければならないため、実施が難しい状況ですが、「ルール(制限)があるからこそ、ゲームとして成立するし、面白くなる」と信じ、今の状況を逆手にとり、「ルール」や「脱出の条件」として「ソーシャルディスタンス」を利用することはできないかと、日々、頭をひねりながら、準備・計画を行っています。

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「つまらない学習」から「楽しみながら、学習意欲が向上するような学習」に「錬成」していく

実施者の古堅さんにインタビューしました。

Q. ゲーミフィケーションとの関わりのきっかけは?
A.  「体験型謎解き脱出ゲーム」ですかね。
まあ、ゲーミフィケーションというよりも、ゲームそのものになってしまうんですけど・・・。脱出できた時の快感だけでなく脱出できない悔しさも、もう一度挑戦したい思える要因となる点や、脱出成功したいから、つい「謎解き」の訓練をしてしまうあたりから、「学習に応用出来たら、楽しみながら、自主的に勉強したくなるはず」と思ったことが、ゲーミフィケーションとの関わりのきっかけですね。

Q. ゲーミフィケーションに期待することは?
A.  やっぱり、「世界を神ゲーに!!」することですね。
きっしー先生が賢者Lv98として活躍されているのを拝見して、(私は、鋼の錬金術師が好きなので・・・)錬金術師としてのゲーミフィケーションのスキルを磨き、「つまらない学習」から「楽しみながら、学習意欲が向上するような学習」に「錬成」していくことで、目標の達成に貢献していきたいと思っています。

Q. 本協会に期待することは?
A.  「ゲーミフィケーションの仲間づくり」ですね。
「ゲーミフィケーション講座」を受講した時に、ゲーミフィケーションを学んでいる人達が集まると、アイデアがたくさん出てきて、企画作成がより速く・より面白くなる体験をさせていただきました。
 まだまた身の回りでゲーミフィケーションを行っている人も少ないので、協会の中でメンバーが行き詰っている内容などに対して、フリーディスカッションが行えるような「定例のオンライン会議(アイディアお助け部屋のような集まり)」なんかがあるといいなーと思っています。

ありがとうございました。これからも 古堅さんのゲーミフィケーション活用授業に期待しています。

(おわり)

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#人体解剖模型学習 #体験型謎解き脱出ゲーム #古堅裕章 #九州看護福祉大学
執筆: 岸本 好弘(日本ゲーミフィケーション協会 代表賢者Lv98)
https://jgamifa.jp/


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