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国家安全保障から考える「国内産業保護規制」(後編)

こんにちは、自由主義研究所の藤丸です😊
前回の記事(国家安全保障から考える「産業保護規制」前編)の続きです。

後編は、具体的な検討事項と政策提言があるので、参考になって面白いと思います。

前編は以下です ↓ (こちらを先にお読みください)。


「Buy American(バイ・アメリカン)法」が米国の国家安全保障に与える影響を評価する


7,米国国防調達の改善に向けた検討事項(1~7)

バイ・アメリカン法は、前回述べたような多くの欠点がある。
しかし、このことは、
バイ・アメリカン法の全面的廃止を正当化するものではない。
また、国産志向に全くメリットがないわけでもない。

実際、独立戦争中、大陸軍は火薬や衣服などの輸入品を入手する必要があったため、不利な立場に立たされた。

したがって、政策立案者の課題は以下である。

「ありふれた保護主義への乱用を防止しつつ、
紛争時に重要物資へのアクセスを確保する措置を設けること」

これを効果的に行うために、以下の要素を検討する必要がある。

(検討事項1)
分散されたコストと集中された利益

バイ・アメリカンなどの保護主義から得られる経済的超過利潤を集める人々(前回の記事のニューバランス社など)は、
分散されたコストを負担する一般市民よりも、
自分たちに有利なロビー活動を行うインセンティブがはるかに高い。

その結果、政策立案者は、
そのような利益団体に配慮するよう圧力を受け
国民や国の利益を反映しない歪んだ公共政策を採用する可能性がある。

(検討事項2)
重要な商品やその性質が変わること

現在重要だとされている品目は、将来的には重要でなくなるかもしれない。

例えば、モヘアへの補助金は、軍服に使われるモヘアの確保を目的とし、1954年に制定された国家羊毛法の一部として実施された。
しかし、1960 年に国防総省がこの繊維を戦略物資リストから削除したにもかかわらず、この補助金が廃止されたのは 43 年後だ。

もしモヘアが補助金ではなく、関税やバイ・アメリカン法によって支援されていたならば、
保護主義によって課されるコストは、より不透明で間接的なので、
このプログラムの廃止はさらに難しく遅くなっただろう。

(検討事項3)
供給中断のリスクを、現実的に評価すること

バイ・アメリカン規制が必要だと言う人は、
紛争時には、外国の供給源は頼りにならないと主張する。

しかし「国内調達は信頼できるが、海外調達はリスクがある」というような二元論は避けるべきだ。
一部の国は信頼できる貿易相手である可能性が高いのだ。

(検討事項4)
コスト/便益分析

リスクを軽減
することは大事だが、外国の安価で効率的な生産者からの調達を制限することで失われる利益と、比較検討する必要がある。

国防費の額は大きいので、割合で見れば最小限のコスト削減でも、積み重なれば相当な額になる。
7000億ドルの防衛予算で2%のコスト削減を実現すれば140億ドルで、
これは予算オーバーのジェラルド・R・フォード空母の建造費以上になる。

(検討事項5)
貿易と依存は両輪である

重要な商品を外国に依存することで、その国は一定の影響力を持つが、
この影響力は、輸入国・輸出国の双方に働く

商業的関係の拡大と自由貿易が、各国が紛争に巻き込まれる確率を下げる。
経済的な繋がりを妨げる保護主義的措置は、この意味で、安全保障を低下させる原因となりえる。

(検討事項6)
保護主義は、競争力と技術革新を妨げる

国産品の購入を強制することは、
その製品の国内生産者に、独占的な市場を与えることになる。。
国際的な競争がないので、特に国内での競争もほとんどない場合、
生産者の技術革新や競争力を開発するインセンティブが低下する。
競争する必要のない企業は、競争力を失うのだ。
このような企業は、長期的には存続しにくくなる。

米国の造船業が例である。
1817 年以来、国内貿易に使用される商船(1912 年までは国際貿易に使用される米国船籍の船)の製造を独占してきた米国造船業は、競争力を低下させ、米国で建造された大型商船は、海外品の 4~5 倍の価格になった。
このような高価な船に対する需要がほとんどないため、
米国の商業造船の生産量は減少
し、
2020年には世界の造船のわずか0.12%にすぎない。

(検討事項7)
サプライの多様性は、セキュリティの一つである

卵は一つのカゴに盛るな」という有名な格言がある。

米国内で生産された製品に限定して購入することは、
潜在的な供給者の数が、大幅に減少することを意味する。
この場合、供給者が何かの理由で物を供給できなくなると、
すぐに物不足に陥ってしまう危険性がある。
例えば2022 年には米国の主要生産者が工場を閉鎖し、貿易障壁によって輸入による供給強化の努力が阻まれたため、米国で乳児用粉ミルクの広範な不足が発生した。


8,政策提言(1~5)

(提言1)
米国と集団防衛協定を結んでいる国をバイ・アメリカン法、ベリー修正条項、キセル修正条項の対象から外す。

米国は現在、50 カ国以上の参加を含む集団防衛条約に署名しているが、
その多くはバイ・アメリカン法の完全な適用対象であり、
ベリー修正条項およびキセル修正条項から除外されている国はない。

米国の安全保障は、このような国々と密接に関連している。
彼らのために軍隊を危険にさらす可能性があるのに、
彼らの国の製品を、国防総省が購入できなくしていることは矛盾している。

米国が隣で戦うことをいとわない国々は、製品取得のパートナーとして取り込むべき国でもある。

確かに、国と国の関係は変化し、これまで米国が暖かく見守っていた国が、将来は警戒すべき相手になるかもしれない。
例えば、米国と集団防衛協定を結んでいる国の一つに、1947年のリオ条約を通じたベネズエラがある。
潜在的な敵対者が米国との防衛条約を通じて国防総省の契約にアクセスすることを防ぐため、国防長官には潜在的な脅威とみなされる国を排除する権限が付与されるべきである。

(提言2)
防衛同盟国との造船協力の拡大を可能にする。

米国製の高価な艦船を購入することにより、購入する艦船の総数を減らしたり他の支出を削減したり、増税や借入の増加をしたり、何らかのトレードオフが必要である。
しかし、これは米国がすべての軍艦の建造を低コストの入札業者に委託すればよいという意味ではない。

米海軍の空母を、中国で建造すべきだと主張する人などいない。

米国の最も親密な同盟国には主要な造船業者がいる。
例えば、日本と韓国は2020年の造船トン数の約53%を占めている。
彼らから購入することを検討すべきだ。

また、米国が相互防衛協定を結んでいる国の造船所で非戦闘艦(砕氷船や高度な兵器システムを搭載しない補給艦など)を建造できるように法改正を行うべきだ。

(提言3)
国家技術・産業基盤の拡大・深化を図る。

米国は防衛基盤を構成するものを、最も身近で能力の高い同盟国も含めて、より広範な視野で捉えるべきだ。


2015年から2019年まで下院軍事委員会の委員長を務めたマック・ソーンベリー元議員(テキサス州選出)が述べたように、
「防衛産業基盤をより広く、より深く見る必要がある。
 米国を拠点とする防衛企業に期待するサイバーやその他のセキュリティの高い水準を維持する同盟国やパートナー国の防衛企業を含めるべきだ」

(提言4)
保護主義的な海運法を撤廃または改革する。

高価な米国籍船の使用を義務付ける貨物優先法は、
軍事輸送のコストを引き上げると同時に、
米国の海運業界に、不透明なコストで補助金を提供するだ。
これらは廃止されるべきだし、
少なくとも、国防総省はその適用を免除されるべきである。
同様に、ジョーンズ法も廃止するか、大幅な改革を行うべきだ。
例えば、米国製という要件の撤廃や、海上輸送に大きく依存している非連続州や領土に対する法の適用除外など。

もし、米国の船舶に補助金を出すことが、
軍の海上輸送のニーズを満たすための最も効率的・効果的な手段なら、
費用対効果の分析がしやすいように行われるべきだ。
戦争や国家非常事態の際に軍が使用する代わりに、60隻の船舶に年俸を提供する「海上警備プログラム」の拡大も考えられるだろう。

(提言5)
国防総省が定期的にバイ・アメリカン法の評価を実施し、
国防との関連性が明確な品目のみを対象とするルールを義務付ける。

一部の製品は、国内生産を保証するために追加コストを支払う価値がある。
しかし、多くの製品はそうではない。

バイ・アメリカン規制の対象となる品目が、少なくとも国益に適うものであり、単にありふれた保護主義ではないことを確認するために、
バイ・アメリカン規制の対象となるべき品目を定期的に見直し
国家安全保障に重要でないものは除外するべきだ。

国防長官が4年ごとにバイ・アメリカン法の対象品目の評価を行い、
そのリストを議会の委員会に提出し、審査を受ける
やり方が有効だ。
この委員会は議会に提出する前に品目の追加や削除を行うことができる。


9,中国問題をどのように考えるか?

米国と中国との冷戦が叫ばれる中、
保護主義の恩恵を受けるさまざまな産業が、
「バイ・アメリカン規制を自由化することは、中国の思うつぼだ
とますます声高に主張するようになってきた。

しかし、中国が国防強化を進める中、
米国は「国防費を最大限に活用すること」が何よりも重要である。


冷戦型の影響力争いでは、
バイ・アメリカン法やその他の現地調達要件は、
米国と同盟国との間で、争点や分裂の原因となり、
相互協力の可能性を下げるだけだ。

バイ・アメリカン法等の保護主義的な法律が緩和されたとしても、
「米国が、中国に依存することを意味するのではない」
ということは強調したい。

「中国のサプライヤー」と「外国のサプライヤー」は同じではない。
両者を区別する必要がある。

この規則を緩和することは、中国へ利益を与えることではない。
米軍にとって必要な「コスト削減」を実現し、
その結果、海軍力の増強など他の軍事的優先事項のための資金を確保し、
同盟国との絆をさらに強固にすることができるのだ。

10,結論

本稿は、海外調達の障壁をすべて撤廃し、必要な製品や設備を最もコストの低い供給者から調達することを求めているわけではない。
必要な時に確実に入手できるよう、特定の重要物資の国内生産に価値があることは明らかである。

しかし、
国防費を最大限に有効活用するためには、国防費を賢く使うことが必要だ。外国産は入手しにくい、という前提で考えるべきでもない。
米国の政策はバランスを取る必要がある。

残念ながら、多くの政策が保護主義に傾き、
国家安全保障にはほとんど役に立たない一方で、
特別な利害関係者に利益をもたらしている事例は数多くある。

実際バイデン政権は、誤ったの経済的根拠に基づいて、
このような法律をさらに強化することを表明している。

国防総省や安全保障関連機関に適用されるこのような保護主義は、
国家安全保障を損ない、競争と経済を弱め、
貴重な防衛費を浪費することになる。


米国の政策は、同盟国との協力関係を拡大できるような、
より柔軟性のあるアプローチを採用する必要がある。

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最後まで読んでいただきありがとうございました。

ウクライナ戦争や台湾危機を考えるまでもなく、
国家安全保障は日本にとっても最重要な課題の一つです。
防衛予算も大幅に増額されますが、
予算(税金)は効率的・効果的に使うことが重要です。
この論文は、日本の安全保障を考える上でも参考になる点が多い思います。

この論文はケイトー研究所のHPに載っています。↓ です。

全文の訳のPDFはこちらです。


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