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国家安全保障から考える「国内産業保護規制」(前編)

こんにちは、自由主義研究所の藤丸です😊
今回も、真面目な内容になります(気軽に読みたい方、すみません💦)。

前回【アメリカの狂気の(!?)規制「Buy American法」】という記事で、
産業保護政策が、様々な経済的弊害をもたらすことを紹介しました。
詳しくは以下の記事をご覧ください。

しかし、
「経済的に弊害があるとしても、
 国家安全保障
に関係する分野は、自国の産業を保護する必要がある」
と考える方もいると思います。

それはたしかに一理あります‼

しかし、安全保障を名目に実施されている政策が、
実際に安全保障の役に立っているかは疑わしいものがあります。

例えば、国産の大皿や国産の靴(ランニングシューズ)を保護することは、国家安全保障に役立つでしょうか???💦
(noteを最後まで読んでいただけると意味がわかると思います)


このことについて興味深いアメリカの論文(2022年8月ケイトー研究所)がありますので、意訳・要約して今回紹介しようと思います。
(後半の最後に全訳のリンクも載せる予定です)

アメリカのことですが、
日本の安全保障や規制を考える上で役に立つと思います。
特に後半の「提言」は重要です。


安全保障や国防が大事だと思う方、ぜひ読んでください。
そして、一緒に考えてみてください。

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「Buy American(バイ・アメリカン)法」が米国の国家安全保障に与える影響を評価する

米国には、
連邦政府が国内の製造業者から材料・製品・サービスを購入することを
義務付ける「バイ・アメリカン法」に代表される法律がある。
国内業者を保護するためである。

このような国内調達法は、全ての政府機関に適用されるが、
ベリー修正条項のように、
国防総省やその他の安全保障関連団体にのみ適用されたり、
安全保障分野に影響が大きいものもある。


本稿では、これらの法律と国家安全保障への影響について検討する。

これらの国内調達法は、
表向きは防衛産業基盤の強化を目的としているが、実際には、逆に、
軍に有害な影響を与えることが多い。

また、国家安全保障の強化という主張は、
政府にコネのある企業を保護する大義名分を与えるにすぎないことも多い。

国防強化という名目で保護主義者が自己利益を追求する機会を減らし、
真の国家安全保障上のニーズに対応するための改革を以下で紹介する。

1,国防のための税金は、効率的・効果的に使われるべき

外国の攻撃・侵略から、国民の生命と財産を守ることは、
政府にとって一番重要な任務だ。

この目的のために費やされる資金(税金)は、
できるだけ効率的かつ効果的な方法で使われるべきだ。

資金(税金)を無駄に使うことは、
本来必要な防衛費よりも、無駄遣いしている分だけ少ない額で防衛をすることになるばかりか、
不必要に高い税負担を国民に強いることになる。

非効率を生む原因のひとつに、
調達コストを高める保護主義的な「バイ・アメリカン法」がある。

理論的には、
国家安全保障の観点からは、このような法律は一定の意味・効果を持つ。

戦時中に必要な物資を「敵国やあまり信頼できない友好国」に依存することは、どの国にとっても避けたいことだ。

しかし、そのような事態を避けるために「バイ・アメリカン」のような国内調達法を採用することは、
安全保障を更に不安定にする別のリスクをもたらす可能性がある。

「産業基盤の維持」と「防衛費の効果的な使い方」のバランスを取ることが重要だ。

バイ・アメリカン法がもたらすのは、リスクや非効率だけでない。
こうした規制のもう一つの欠点は、
国家安全保障を口実に
ある特定の企業(儲けが大きいので、政府から仕事をもらおうとする企業)の利益を促進する可能性があることだ。
この点については、軽視してはならない。

国の安全保障を目的とした法律が、利害関係者への報酬に使われることは、貴重な防衛費を無駄にするだけでなく、
防衛費と安全保障関係の法律(正当なものも含む)の悪用を助長し
国民の安全保障に対する理解を妨げることになる。

2,国家安全保障機関に適応される、産業保護のための法律

国防総省やその他の安全保障機関に適用される法律には、
バイ・アメリカン法、ベリー修正条項、キッセル修正条項がある。

1933年に成立したバイ・アメリカン法により、
国防総省を含む連邦政府機関は
「実質的にすべて国内で採掘、生産、製造された物品、材料、または供給品から米国内で製造された」物品を優先的に調達しなければならなくなった。
製造された製品がこの基準を満たすには、
米国で採掘、生産、製造された部品のコストが、すべての部品のコストの55%を超えるか、市販の既製品でなければならない。

さらに過酷なのは、ベリー修正条項である。
1941年に成立したこの法律によって、
国防総省は「繊維製品、衣類、履物、食品、手道具または計測器(平皿や食器を含む)の5つのカテゴリー」のいずれかの物品を購入する場合、
100パーセント国産品(!)を購入しなければならなくなった。

これはバイ・アメリカン法の55パーセント要件よりも、はるかに厳しい。

2009年の米国再生・再投資法の一部として成立したキッセル修正案により、国土安全保障省は、国家安全保障上の利益に直結する資金を使う際、
国内から繊維製品、衣類、履物を購入しなければならなくなった(手道具や計測器、平皿や食器は除く)。

キッセル修正条項は、政府調達に関する世界貿易機関協定を含む貿易協定に違反しない場合にのみ適用されるため、
事実上、沿岸警備隊と運輸保安庁にのみ関係する。

3,コスト増を軽減するための例外措置はあるが、現実にはあまり機能していない

バイ・アメリカン法には一応、例外措置がある(前回のnote参照)。
しかし、これらの例外措置にもかかわらず、
2017会計年度に連邦政府が購入した最終製品のうち、
外国製品が占める割合はわずか4%(1960億ドルのうち78億ドル)である。

バイ・アメリカン法と同様に、ベリーとキッセルにも例外措置がある。
例えば、国防総省は、米国の製造業者から満足な品質と十分な量を入手できない場合や、戦闘や有事作戦の支援に使用される場合、外国産の品目を購入できる。
さらに、議会は、標準的な地上戦闘服に使用される耐炎レーヨン生地や対弾道防護服に使われるパラアラミド繊維や糸などの特定の製品について、
永久免除規定を制定した。

2020年度に購入されるベリー修正条項の対象製品は40億ドル、沿岸警備隊と運輸保安局が購入するキッセル修正条項の対象製品は年間3000万ドル相当であり、これらの法律の財政影響は防衛費全体からみると大きな額ではない。

4,コネ企業のボロ儲け

このように財政的な影響は比較的小さいが、
このような国家安全保障保護主義は一部の企業にとって大金をもたらした。

例えば、Sherrill Manufacturingは、国内唯一の大皿製造会社として、
ベリー修正条項を活用する立場にある。
2007年の国防権限法が撤廃された後、Sherill はロビー活動を行い、
2020年にステンレス大皿の国内調達要件が復活した。
その結果、会社のCEOは工場では2,3倍の生産規模になると予測していると発言している。


一方、ニューバランスの靴は、
2014年にランニングシューズがベリー修正条項の対象となった後、
1730万ドルの契約を獲得した。
これは、国防総省とベリー修正条項の両方の要件を満たすことができる唯一の靴メーカーとしての地位を利用するために、
同社が行った23万ドルのロビー活動に対して、とても大きな見返りである。

ベリー修正案は、このような企業の収益を向上させるが、
国家安全保障を向上させるかは、はっきりしていない。

実際、この法律の適応を決めた議員も、
自分の選挙区の企業(ニューバランス社など)に利益をもたらしたことを強調するのみで、
安全保障の向上には、はっきりと言及していない。

これまでバウチャー制度によって、
自分の好きなランニングシューズを選ぶことができた軍人が、
靴の「選択肢を減らす」ことが、安全保障に役立つとは考えにくい。

実際、国防当局は、バウチャーによって、
各々の軍人が、多くのブランドの中から自分に最も適した靴を選べることを指摘し、
それを妨げる、ニューバランスの靴に限定するベリー修正条項に反発している。

誰でも自分に合う靴を自由に選べた方がいいに決まっている。身体能力が重要な軍人ならなおさらだ。


5,米国の産業基盤への貢献も、非常に疑わしい。

これら規制が、経済や産業基盤に利益をもたらすという考えも、非常に疑わしい。

保護主義的な規制により、米国企業は競争しなくてもすむので、
イノベーションと効率化への企業のインセンティブは低下する。

その結果、このような企業は長期的には存続が難しくなる。

さらに、ベリーとキッセルの場合に米国製と認定するために一定量の国内調達を要求することは、調達の効率性を低下させることになる。

例えば、ニューバランスはベリー改正に対応するために、ミッドソールを国内で製造するために、射出成形機などの資本集約的な購入が必要だった。
しかし、そのような設備を購入したのは、同法への準拠を目指すようになってからであり、効率性の観点からは最適とは言い難い。

米議会調査局の2017年の報告書では、
このようなサプライチェーンや製造方法の再構築が、
企業の競争力を損なう可能性がある
と論じている。

さらに、この法律の下で政府契約を確保しようと使われるロビー活動費は、経済効率を低下させる。
ロビー活動をしなければ企業の競争力を強化するために使用できたはずの資源を失うことになる。
ロビー活動をしなければ、研究・革新・資本改善などの生産的な用途に充てることができた資源なのだ。

おそらく最も重要なことは、このような法律が軍を妨害していることだ。

2016年度の国防権限法によって創設された「取得規則の合理化および成文化に関する諮問委員会」は、2019年の報告書で以下のように述べた。

バイ・アメリカン法とベリー修正案により、外国製品の購入が制限され、
国防総省が、最も革新的な製品を適正価格で入手できなくなっている。

6,ジョーンズ法・軍用貨物優先法

(これについては、別途note書きます)

(後編に続きます)

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この論文はケイトー研究所のHPに載っています。↓ です。




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