グローバル競争の条件を中国木材にみる さらなる規模拡大に迷いなし(下)
(前回からつづく)熾烈な国際競争の現実を踏まえた新たな「国産材時代」のビジョンを構築すべきと主張する中国木材・堀川保幸社長。では、そのビジョンの具体的な中身とはいかなるものか?
遠藤日雄・鹿児島大学教授との「対論」はいよいよ核心に入る。
新設大型工場では末口径6㎝の小丸太も受け入れる
伊万里事業所と隣接する西九州木材事業協同組合の視察は、早足で回ったにもかかわらずたっぷり2時間かかった。その最後に、堀川社長は、事業所敷地の北端で立ち止まった。道路を挟んだ北側には夏草の生い茂った広大な空き地がある。新たに購入した3万5000坪の用地だ。
遠藤教授
すでに広大な敷地があるが、さらに大型工場をつくるのか。
堀川社長
そうだ。小径材から大径材まで挽ける大型量産工場を新設する。今まで弊社は末口径16㎝上のスギ丸太を購入してきたが、6㎝の小丸太も受け入れるようにしたい。
遠藤
中国木材が小径木製材?しかも末口径6㎝から?バタ角も挽けない小径材を引き受けてどうするつもりか。
伐り捨て間伐材をハイブリッドビームに活かす
怪訝な顔をする遠藤教授を堀川社長は事務所の応接室に招き入れ、あるモノを見せた。米マツとスギの異樹種集成材(ハイブリッドビーム)である。しかし、よく見ると中のラミナ構成がこれまでのハイブリッドビームとは違う。真ん中のラミナ3枚は他のラミナと直角になる形で接着されている。6㎝のスギ丸太から製材されたラミナである。3年後の商品化も目指しているという。
遠藤
これは驚いた。まさにコロンブスの卵だ。見せられるとなるほどと思うが、これを思いついたのは凄い。ところで、グローバル企業の中国木材がなぜ6㎝の小丸太にこだわるのか。
堀川
伐出業者に聞くと、せっかく間伐しても、市場に流通せずに山床に置きっぱなしになっている量が6〜7割もあるという。これら捨てられた小径・間伐材を有効利用し、山へ利益を返す仕組みをつくるためだ。
一方で、九州では大丸太、すなわち尺あるいは尺上丸太の出材量が増えている。この有効利活用も今後の大きな課題だ。
KD製品の国際競争では在庫力が勝負を決める
堀川社長の国産材利用に対する意気込みは生半可なものではない。そして、再三再四強調するのが「規模がなければ勝てない」という認識である。
遠藤
日本の製材業が本格的な国際競争にさらされ始めたのはいつ頃か。
堀川
1990年代後半からだ。要因は2つある。1つは北米の連邦有林、州有林の伐採規制に伴う製材産地の再編。もう1つはユーロ安と「コンテナ革命」を背景とした欧州材の日本への大量輸入攻勢だ(前回参照)。この2つの要因が、完全KD(人工乾燥)製品の対日供給という決定的な変化をもたらした。
遠藤
いわゆるグリーン材(未乾燥材)で勝負していた時代とは、競争の中身が変わったということか。
堀川
そのとおり。グリーン材の時代には、丸太を製材して狂わないうちに販売すればよかった。在庫など必要なかった。その限りでは、海外から丸太を輸入して国内で製材するビジネスにもメリットがあった。しかし、90年代後半になって様相が一変した。KD(人工乾燥)―エンジニアード・ウッド(EW、集成材など)―PC(プレカット)が国際競争の前提条件になった。KDやEWは在庫を持たなければならない。そのためには規模拡大が不可欠。私がことさら規模拡大を力説するのはそのためだ。
首都圏がターゲットの関東事業所は「世界モデル」
中国木材の規模拡大戦略は、1つの製材工場のレベルにはとどまらない。全国に流通拠点を据えてネットワークを構築する構想も、着々と具体化されている。その新しい拠点が、来年、鹿島工業団地(茨城県神栖市)に本格オープンする関東事業所だ。
遠藤
現在、中国木材は全国に8か所の流通拠点を持っている。いずれもPCが核になり、2万坪単位の広大な事業所だ。そのうえで、来年9か所目の関東事業所を開設する狙いは何か。
堀川
全国の住宅着工戸数を、名古屋を分岐点にみると、名古屋以東が3分の2を占めている。そこで弊社は、関東地区での販売比重を、平成7年の48%から昨年には60%まで高めた。今年は、62〜63%にアップするだろう。
この中で、鹿島にできる関東事業所は、東京・首都圏マーケットをターゲットにした物流合理化の新拠点になる。
遠藤
具体的なビジネス面でのメリットは何か。
堀川
外航船の場合はトータルで約20%のコストダウンになる。まず、米国から日本への距離が10%短縮される。また、鹿島は呉(広島県)よりも港が大きいので、原木船の大型化が可能になる。
内航船についても、日数短縮によるコストダウンが見込める。東北から東京まで現在は6日かかっているのが2日に、名古屋から東京も4日が2日に短縮される。
遠藤
関東事業所は工場の生産性も格段に高くなると聞くが…。
堀川
高性能スキャナーの導入による自動化で、生産性が本社の21㎥/人日から約80㎥/人日へと飛躍的に向上する。歩留まりも5%以上アップし、世界レベルの工場になる。
また、原木を有効利用するために、12mの原木を4m+4m+4mに画一的に製材するのではなく、3・7m+3・7m+4・6mに加工するなど、フレキシビリティを高める方針だ。
「原木集荷競争」を生き残るには国産材が不可欠
現在、中国木材は、西九州木材事業協組分(前号参照)も含めて年間約200万㎥の原木を消費している。鹿島新工場の完成でさらに原木消費量は増えるが、堀川社長は、世界的な「原木集荷競争」が始まっているとの危機感を隠さない。
遠藤
すでに中国木材は世界トップクラスの製材企業だろう。
堀川
いや。上には上がある。ウエアハウザー社(米国)、ストゥーラエンソ社(フィンランド)、SCA社(スウェーデン)などなど。これらのグローバル企業との競争は甘くない。
資料(表)のように、米材原木の対日輸出量は激減してきた。米マツが米ツガのように日本市場からなくならないようにするには、何としても世界レベルで競争できる合理化した工場が必要だ。
遠藤
そのための最大課題は何か。
堀川
日本国内での原木(丸太)の大量安定確保に尽きる。現在、伐出業に関する情報収集を始めているところだ。
◇ ◇
伊万里事業所の応接室の壁には、大きな九州の地図が掲げられている。堀川社長は、この地図を眺めながら「北部九州と九州山地の西側は伊万里へ、東側は日向や志布志から船で鹿島へ丸太を出してほしい」とつぶやいた。ひょっとしたら堀川社長は、日本の伐出業にも本格参入するのではないか?
そんな予感が脳裏をよぎる、約6時間に及ぶ「ルポ&対論」であった。
(『林政ニュース』第301号(2006(平成18)年9月27日発行)より)
次回はこちらから。