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グローバル競争の条件を中国木材にみる さらなる規模拡大に迷いなし(上)

昨年3月、全国の注目を浴びて華々しくデビューした中国木材(株)伊万里事業所(佐賀県伊万里市、第280号参照)が本格稼働を始めた。話題の米マツと国産スギの異樹種集成平角(ハイブリッドビーム)のほか、スギ集成管柱とハイブリッド通し柱を量産(月間6000㎥)する体制を確立。いずれの製品もプレカット工場を中心に確実に評価を高めてきている。

さらに今年9月、同社は隣接の用地3万5000坪を取得。スギ大径材、小径材の大型量産工場を設置する計画を明らかにした。加えて、来年は茨城県神栖市の鹿島工業団地に流通センターを兼ね備えた関東事業所が完成する予定だ(前号参照)。

年間原木消費量が米マツで193万㎥、西九州ではスギ10万㎥(平成17年7月〜18年6月)に達し、国内では圧倒的な存在となった同社だが、積極的な設備投資が緩む気配は全くない。

本誌創刊300号記念企画として、遠藤日雄・鹿児島大学教授は8月下旬、1年ぶりに伊万里事業所を訪れ、堀川保幸社長と意見を交わした。グローバルな木材ビジネスの実情を肌で知る堀川社長がさらなる規模拡大路線に邁進するのはなぜか――。

その中で、スギをはじめとする国産材はどう位置づけられるのか?壮大な構想が、いま明らかになる。

3万㎥のスギラミナを半年間天然乾燥

  遠藤教授が1年前に伊万里事業所を訪れた当時は、「だだっ広い工業団地」という印象でしかなかった。事業所に足を踏み入れても、隣接する伊万里湾や伊万里湾大橋が視野に入った。しかし、いまは違う。天然乾燥中のスギラミナが所狭しとばかりに桟積みされており、海も橋も桟積みラミナの隙間から垣間見える程度だ。

遠藤日雄教授(鹿児島大学農学部教授) 
  これだけのスギラミナがストックされていると、圧迫感を覚えるほどだ。本格的に動き出したなと実感させられる。 

堀川保幸社長(中国木材(株)代表取締役社長)
  3万㎥のスギラミナを天然乾燥している。それでも5〜6か月分の在庫量でしかない。スギラミナは、隣接する西九州木材事業協同組合を中心として、熊本・玉名製材協業組合、大分・岡村産興、対馬・江藤製材から納入されたものだ。

遠藤 
  米材製材でグローバル企業に成長した中国木材であっても、国産スギをこれだけ扱うのは初めての経験だと思う。先駆者ゆえの苦労が多いのではないか。

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天然乾燥中のラミナの間を歩く堀川社長(左端)と遠藤教授

堀川 
  てっぺんに重さ1・2トンの鉄板を置いてラミナの曲がりや捻れを防いだり、桟の厚みを調整して風通しをよくしたりと試行錯誤を重ねた。ラミナはすべて木裏を上にして桟積みされている。天然乾燥の期間は約半年間。これで含水率は40%に落ちる。その後、人工乾燥を行うことで、含水率は12%以下にキープできる。伊万里事業所には、1基当たり72㎥のラミナが入る乾燥機が25基あるが、10月までにさらに5基導入する。人工乾燥の熱源はすべて木屑ボイラーを燃焼させた熱エネルギーだ。

スギラミナが火を噴いた分速150mの高速ライン

  続いて堀川社長は、遠藤教授を集成材工場へ案内した。ラインの流れは、次のようになっている。ラミナの含水率測定→モルダーがけ→ラミナの選別→FJ(フィンガージョイント)→プレス→養生。

  製造工程の機械で注目されるのは、幅6m×長さ15mの最新型横型連続プレスだ。梁背45㎝まで加工が可能。生産品目は長さ3m、4m、6m、厚さは10.5㎝、12㎝が主体で、梁背は13㎝から上は3㎝刻みで45㎝まで。ラミナの接着は1分間に30枚。8時間で190㎥の接着ができる。

  もう1つの注目機械は、ラミナの欠点を瞬時に見分ける「ウッドアイ」。ラミナの丸み、腐れ、割れ、死節などをなんと0.1㎜幅でキャッチする。スウェーデン製のウッドアイは1台6000万円と高価だが、「人件費を考えると十分にペイできる」(集成材工場担当者)。こうした最新鋭の機械も含め、伊万里事業所への投資は、運転資金、西九州への投資も含め総額で125億円に達する。桁違いの投資額である。

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ラミナの欠点を判別する「ウッドアイ」

遠藤 
  スギラミナがこれほど早く流れるとは…。

堀川 
  分速150mでラインを流れる。スギをこの速度で流すために大変な苦労を重ねた。一度、モルダーを通るときにスギラミナが火を噴いたこともあった。米マツに比べてスギは使いづらい。しかし、スギを国際商品にするためには、こうした試行錯誤が不可欠だ。

専用バースで物流コスト削減、コンテナ革命は脅威

  集成材工場を出た2人は、専用バースへと向かった。3,000トンクラスの船が接岸できる。米マツラミナを含む原材料及び製品出荷の玄関口といえるが、ここに対馬から毎月1船、400〜500㎥のスギが運ばれてきている。わが国最初の公社造林地がある対馬では、植林木が順調に生育しており、供給力は日増しに高まっている。ネックは物流だったが、船を使うことで突破口が開けた。

遠藤 
  堀川社長の持論は、「製材業は物流業」。専用バースは、物流のコストダウンを実現する象徴的存在だ。
 
堀川 
  弊社の最新データによれば、製材コストを1とすると物流コストは3.25倍に達する。物流コストの縮減こそが製材業の命だ。本社がある呉から大阪へ製材品を運ぶトレーラー運賃よりも、欧州から日本へ来るコンテナ船のほうが安い。これが現実だが、このバースから国産材製品を海外へ輸出する日も遠くないのではないか。

遠藤 
  世界の主要木材企業も物流コストの削減でしのぎを削っていると聞く。最近の状況をどうみているか。

堀川 
  1990年代中頃からスカンジナビアや東欧のラミナが怒濤のように日本へ輸入されるようになった。その背景には、円とユーロの為替相場に加えて「コンテナ革命」がある。アジアから欧州へ行ったコンテナは帰り荷が半分しかない。そこへホワイトウッド・レッドウッドラミナを入れた。しかも、コンテナは、東京・名古屋・大阪といった大消費地の心臓部に直接入ってくる。これは脅威だ。欧州産材が国際競争力をつけた大きな要因だ。

規模がなければ勝てない、米国は1工場平均11万㎥ 

  伊万里事業所を歩きながら、堀川社長は「規模がなければ国際競争には勝てない」と何度も口にした。伊万里事業所の年間原木消費量は、現状の30万㎥体制から60万㎥体制へと倍増させる計画を立てている。

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専用バースの活用で物流コストを大幅に削減

堀川 
  国内の製材工場数は、昭和55年の約2万2000工場が昨年には約9000工場まで減ったというが、まだ多い。米国は平成12年時点で770工場しかない。それもほとんどが無人化された製材工場で、1工場当たりの製品生産量は約7万5,000㎥だ。

遠藤 
  そんなに集約化されているのか。想像以上だ。

堀川 
  さらに昨年は587工場にまで減り、1工場当たりの製品生産量は約11万1,000㎥になった。これだけ大型化している。

  林野庁が進めている「新生産システム」で整備する工場は、年間原木消費量5万㎥以上が条件だが、まだ規模が小さい。量が増えないと、国際競争に耐えられるコストダウンはできない。

◇ ◇ 

  堀川社長は、シビアな国際競争の現実を踏まえた上で、「国産材時代」のビジョンを再構築すべきであり、「中国木材がそのモデルを示したい」と意欲をみせる。その橋頭堡が佐賀県伊万里木材コンビナートであり、これをモデルとして確立し、鹿島での事業につなげる。そして、国産小径木を活用した新しい「戦略商品」を世に出す方針だ。

『林政ニュース』第300号(2006(平成18)年9月13日発行)より)

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