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今こそ「職場」を問い直そう

新型コロナは働く人たちに何を問うているのか

 新型コロナの影響はどこまで続くのか。この先、わたしたちは安心して暮らせる社会をつくれるのか。本当に不安なことばかりです。その中でわたしたちは、今までのやり方、考え方が、そのままでいいのか、本当にあなたが望んでいたことなのかと問われ続けているように思います。

 人との距離感はどうあるべきなのか。このまま近づきすぎない距離感でいる方が本当はストレスなく、良い距離感になるのか。やはり人はもっと近づき、ふれあい、ともに笑い、盛り上がるような距離感の方が大事なのか。
 働く意味は、働き方は、どのように変容していくのか。否が応でも、会社のために、成果のために、与えられた役割、目の前の仕事を黙々とこなしてきた働き方をこれからも続けていくのか。仕事と私生活の垣根が低くなる中で、仕事への向き合い方、働き方を変えていくのか。
 会社に行かなくても仕事ができるのであれば、仕事場としての職場という空間な必要なのだろうか。同じ場、同じ空間を共有することにどんな意味があるのか。一緒に働くとはどういうことだったのか。
 だとすると、マネジメントはどう変わるのか。会社の成果に向けて人を動かすという発想のままで、本当に人はきちんと働いてくれるのだろうか。同じ時間と場を共有すること生まれていた空気感や見えないプレッシャーがなくなる中で、組織全体を同じ方向にむけて、人を動かすことなんてできるのだろうか

 本当にいろいろなことが今、根幹から問われていると思います。産業革命以降、人間社会が作り出してきた工業化という名の進化が、大量消費社会をつくり、結果的に自然破壊を加速させ、自然災害の暴発を止められなくなっているのと同じように、大量生産社会がつくりだしてきた人と会社との関係、その中で抱えてきた矛盾、蓋をしてきた苛立ちや迷いがここにきて、一人ひとりの心の中から噴出しつつある。
 そう思ったとき、わたしたち今、本当にこれからの生き方、働き方、組織のあり方、社会のつくり方を根本から問い直す必要があるのではないでしょうか。こうした根本に立ち返る対話を周囲の人たちとしていく必要があるのではないでしょうか。今回はまず、職場の仲間との関係、職場という場の持つ意味について、問い直したいと思います。

そもそも、職場で働く人たちとの関係は良かった?

 そもそも今まで、みなさんは職場の仲間とどんな関係でしたか。物理的な距離は同じ空間、同じ時間をともにしていることも多く、近かったと感じている人は多いと思います。でも、心理的距離は近かったのでしょうか
 目の前の仕事に追われ、個々人が成果を問われる中で、パソコンに向かい、自分の中に閉じこもって働く人も多かったのではないでしょうか。わたしはこれをタコツボ化と言ってきましたが、タコツボの中で外の世界がどう変化しているのかも見えず、孤独に作業し続けていると、ますます周囲のことが見えなくなります。そんな中で不用意なやり取りをしていくと、自分の状況をわかってくれない、一方的だと思うようになり、ますます周囲との関係が煩わしくなる。
 気づくと、周囲の人たちと対話できない、議論ができない。表面的には仲良くしているし、別に仕事上は困ることはないけれども、仕事はバラバラ、苦労をともにする仲間とまでは思えない。だから何かあったときにも相談できない、本音を言えない、どこか本質と向き合うことは避けていく。そんな距離感で働いていた人も少なくないと思います。
 こうした職場を、お互いがうまく関わり合えない、協力し会えない「不機嫌な職場」と定義し、実際に多くの職場の中での関係づくりを支援してきましたが、この新型コロナの影響でオンライン中心になり、働き方も変わったことで、大きく二つの心理が生まれてきています。

 一つは、どこか心理的距離感を覚えながら働いていた関係性が、ここで物理的距離が拡大することで、ますます心理的距離も広がっていくことに、不安と懸念を覚えている人たちです。
 今までは心理的距離があっても、目の前にいるから少しだけでも声をかけられたのに、今は見えないから声をかけることすらできない、些細なことを相談することができない。今までは仕事に追われているけど、たまに一緒に食事をすれば、最近どうってぐらいの対話ができたのに、今はオンラインが中心になり、ちょとした雑談をする機会、対話の機会が持てない。気づくと互いに遠慮しあい、お互いの感情がますます見えなくなり、孤立する人を増やしている。これでいいのだろうかという問題意識です。

 一方で逆の人もいます。今までの人間関係は煩わしかった。心理的距離を取りたい上司も目の前でいつもプレッシャーをかけてきた、そんな空気感が蔓延する職場の中で息がつまり、関係ないことにも声をかけられ巻き込まれていたのが減った。自分から必要なタイミングで声をかければいいから、煩わしい人や余計なことに巻き込まれることも少なくなった。逆に仕事に集中できるし、自分がやりやすい人、頼りにしている人とだけコミュニケーション取ればいいのだから、前よりいい状態になっている。そう答える人もすくなくありません。

 皆さんの本音、どうですか。正直、不安もあるけど、煩わしい関係が減り、気持ちが楽になったという人もかなりおられるのではないでしょうか。

 問題はこうした心理的距離が離れていく中で、本当にお互いがつながっていく力を弱めていって大丈夫なのかということです。

 組織力は個人力とつながり力の掛け算で決まります。個々人が成長し、高い能力を発揮するだけでも、組織の成果は高まります。でも、そこで個々人の力をつなぎ、お互いの力を引き出し合い、カバーし合うことで、お互いの能力もより大きくなり、組織の力も発揮できるはず。そうしたときに鍵になるのが、「つながり力」なのです。でも、この力が職場からどんどん失われていく。そうなったとき、新たな事業や社会的価値を生み出す力や仕事や部門を超えて連携する力、困難な状況を乗り越える力はどうなっていくのでしょうか。ともに働くからこそ得られる力は、失われていってもよいのでしょうか。

つながることは必要? つながることの意味とは?

 心理的距離が離れていくからこそ、もっとコミュニケーションの頻度を上げて、オンラインであっても心の交流を強めるべきだという人にあわせるべきなのか、適度な心理的距離があることの方がストレスなく、健全な関係でいられるから良いと思う人に合わせるべきなのか。
 正直、悩ましいですよね。こうした問題を解決するときに大切なのは、どちらが正しいのかを争うのではなく、対話を通じてお互いの中にある根幹の思いを見出し、それをつなげる鍵を見出すことです。

 そもそも、わたしたちは何のためにつながらないといけないでしょうか。つながる必要があるのでしょうか。

 本当に能力もあり、自分の力だけで仕事をつくりだしていける人は、人のつながりが薄くても生きていけるという人もいると思います。ただそういう人であっても、自分の中だけに閉じこもっていたら自分の中にある能力を消費するだけで、新しい知識やノウハウ、能力を身に着けていくことができなくなる。困ったとき、追い込まれたときに、助けを求めることも、気づいて手を差し伸べてくれる人が現れることも期待できなくなる。最初は良くても、どこかで行き詰まってしまうのではないでしょうか。
 何のためにつながらないといけないか。つながる必要があるのか。正直、つながらなければ辛い、孤独な作業に耐えられない、自分が行き詰まったときに相談できる、カバーしてもらえる相手がいないと困る。そう思う人からすれば、人とつながって仕事をしないことのリスクは大きい。でも本当は繋がれるからこそ、知恵が出る、楽しくなる、ワクワクする、思いが湧いてくる、大きな事ができる・・・。そんなポジティブな意味が見いだせなければ、本当にの意味でつながる力を引き出し合うことはできないのではないでしょうか。

何をつなげたいのか、何でつながりたいのか?

 そう考えるとあらためて、自分も周囲もし幸せになるために、ともに働く意味を取り戻し、これからの社会をつくる仕事を生み出していくために、わたしたちは何でつながり、何を生み出していく存在に進化していくか。そんなことを今、職場の仲間と、役職を超えて会社全体で、一緒に話し合うべきではないのでしょうか。
 何のためにつながるのか。一つは間違えなく、仕事がうまくいくため。もう一つは、立場や役割を超えた人としてのつながりをつくるため。この2軸をもとに、あなたの職場ではどのようなつながりが必要なのか、みんなで共有できるか、ぜひ考えて見てください。
 仕事のつながりは、以下の3つ。基本独立、必要なときに連携すればいいという独立連携型、仕事はお互いにカバーしあい、協力しながらすすめる事が大事という協力協働型、仕事は知恵を重ね、ともに何かを生み出すことが大事という共同創造型。何を生み出したいかで、仕事のつながりの意味が変わってきます。
 人としてのつながりも以下の3つ。知人として情報交換し合う関係が大事という情報交換型。親しい友人、仲間として、お互いの感情にも関心を持ち互いの感情を共有し、支え合い。引き出し合う関係が大事という感情交流型。さらに何があっても互いを守り、ともに生きる強い絆を作ることだ大事だと考える共存共栄型
 この3つの区分を組み合わせると、9つのつながりマトリックスができます。黒字で示したものは、職場、関係のイメージ、赤字に示したものはそこに集う人たちをつなげる軸です。 

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 まずは、仕事がうまくいくために適切な情報やノウハウがシェアすることが大事だという人はおそらく左のライン。その中で、自分の仕事が成功するために必要な情報を交換することを求めている人は交流会のような職場、スキルをシェアして必要なとき適切な人とつながれることを求めている人はネットワークのような職場、知恵を持ち寄って共創して何かを一時的に成し遂げることを求める人はタスクフォース型の職場。良い仕事をしたい、そのために良い人とつながりたいという人は、こうした職場をイメージするのではないでしょうか。
 どこか職場の仲間に、情報的なつながりだけでなく、感情的なつながりを求める人は真ん中のライン。独立していても何かあればすぐに打ち解けて、本音に話ができる関係を求める人は、同窓会のような関係の職場。困ったこと、悩んでいることを持ち寄り、互いに協力し合い、一緒に乗り越えていくことに職場の意味を見出す人は協同組合のような職場。一人ひとりの思い、夢、ビジョンを重ねて、一緒に何かを成し遂げたいという思いの人は共創するチームのような職場。感情的なつながりがどこか、大きな力を生むと思っている人たちはこうした職場をイメージするのではないでしょうか。
 さらに、論理や感情を超えて、お互いの生存のためにつながっているという感覚を持っている人は右側のライン。一人ひとりは独立していても商店街のように同じ場を共有することで共存共栄するような職場。田舎には今も残っている互いのお金を出し合い、困った人を支える合うような互助会型の職場。あるいは、同じような思いや志の人たちが集まって新しい文化をつくろうとしているビレッジのような職場。この会社、職場に集う人たちに、人生を共にしているという感覚を求める人は、こうしたつながりを求めていると思います。
 皆さんはどのようなつながり、どのような関係、どのような職場を求めていますか?

答えを求めるのではなく、違いを知り、重ね合うこと

 正直、職場でこんな話をして、みんなが違ったらどうするのと思う人もいるかもしれません。でも、違っていいのではないでしょうか。一つの答えを見出すことが大事なのではなく、それぞれが何を求めているのか、そこにどのようなつながりを大事にしたいと思っているのかを知ることが大事なのではないしょうか。その背景にあるものも出し合えたら、背景が理解できたら、互いの思いを受け入れることもできると思いますし、その上で重なる部分も見えてくると思います。
 この数カ月、いろいろな方と上記のテーマで対話会を開きました。その中で出てきた一番大事なメッセージは、これからの時代は「意思と受容」が大事なのではないかというものでした。互いの意思を表現する、自分から行動に起こしていく力は確かに求められる。でもその時に、違うからわからない、理解し合えないではなく、互いの背景や事情を理解し、受容し合う。その関係ができればきっと新しいやり方を見出せると思います。
 そんな思いで、皆さん、対話をしてみてください。

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職場の仲間と、こんな対話をしてみてください。
1.リモートワークや働き方が変わって、正直良かったなと思うことと、
       困っていること、悩ましいなと思っていることは、何ですか? 
2.こうした状況になってみて、何を共有すること、どのようなコミュニケ
  ーションをとることが必要だと思いますか?
3.あらためて職場の意味、意義を考えたとき、あなたは職場の仲間と何を
  共有し、どのようにつながる関係、職場をつくりたいですか?

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