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【自作地→借地→企業取得へ?】農地に関する法改正の歴史

農地は国民を食べていかせるための食料生産の基礎となる部分です。その農地を管理するための法律が農地法などの法律ですが、耕作放棄地などの問題が進む中で農地に関する法律はどのように変化してきたのでしょうか。
今回は農地に関する法改正の歴史について書きます。

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先にまとめです。

まとめ
戦後、農地改革により自作地主義を起点にスタートした農地法は、工業との賃金格差を受けて借地による大規模化を促進するように法改正が為されてきました。
そして最近では企業による農業参入を進めるための取り組みも行われていますが、全国レベルではあまり進んでいないのが現状です。
そもそも物理的に農地拡大が難しい日本では法整備を変えて企業の参入が進んだところで農業の問題が抜本的に解決されるかというと個人的には微妙だと考えています。

戦後に生まれた農地法

自作農を促すために誕生

農地法が制定されたのは1952年です。
戦前は小作地(地主から農地を借りて農業を行なっている土地)が農地全体の45%ほどで高額な小作料が農村の貧困の大きな要因でした。
そんな貧困や格差の要因となっていた小作地をなくし、小作人に自らの土地を与えることを農地改革で行ったことにより、戦後、9割の農地は自作地となりました。
そして小作人に農地が与えられた際に、土地を与えられた小規模農家の権利の保証し、安定した農業生産・食料の安定供給につなげることを目的として農地法は制定されました。

管理者は農業委員会

農業委員会とは「農地等の利用の最適化」を担う行政委員会として原則として各市町村に1つ設置されています。
主な業務は担い手への農地利用の集積・集約化、遊休農地の発生防止・解消、新規参入の 促進の推進とされています。
日本の農業の情勢の変化に伴い農地法が改正される中で農業委員会に求められる役割も変わってきています。
農協や農家と比べて注目度が低い農業委員会ですが「農地の番人」として農業に一番必要な資源である「農地」の管理を行なっている組織です。

農地の分類

農地の分類というと、農業をやっている土地もしくは耕作放棄地くらいの分類しかないと思われるかもしれませんが、一言に農地と言ってもその分類方法は評価方法によって様々なのです。

遊休農地・荒廃農地との分類

  • 耕地:439.7万ha(R1)
    現在、耕作が行われている農地で下の2号遊休農地も含まれる

    • 2号遊休農地:0.6万ha
      周辺の地域の農地に比べて利用頻度が低い農地

  • 荒廃農地:28.0万ha(H30)

    • 1号遊休農地・荒廃農地(再生可能):9.2万ha
      現在耕作おらず、抜根や整地などにより通常通り農作業ができるようになるという見込みはあるが耕作目的での利用は引き続きされないと見込まれる農地

    • 非農地・荒廃農地(再生困難):18.8万ha
      森林のようになっているなど農地としての復元が難しい、仮に復元しても継続利用が難しいと見込まれる農地

※上記の農地と似た言葉として「耕作放棄地」という言葉もありますが、両者には下記のような違いがあります。
遊休農地・荒廃農地:農業委員会等の調査に基づく客観的な数字
耕作放棄地(42.3万ha):農業センサスの調査から得られた農家等の回答に基づく主観的な数字

農地転用の立地基準に基づいた分類

農地転用の立地基準に基づき農地を5種類に区分しています。

  • 農用地区域:農業振興地域整備計画において指定。原則として転用は認められない。農用地区域はさらに「農地」「採草放牧地」「農業用施設用地」「混牧林地」に細分化されている。

  • 甲種農地:下記の第1種農地の条件を満たし、市街化調整区域内の土地改良事業等の対象となっているなど良好な営農条件を備えている農地。原則として転用は認められない。

  • 乙種農地

    • 第1種農地:10ha以上の集団的農地、土地改良事業等の対象となっているなど良好な営農条件を備えている農地。原則として転用は認められない。

    • 第2種農地:市街地化が見込まれる農地、又は生産性の低い小集団の農地。条件付きで転用は認められる。

    • 第3種農地:市街地の区域又は市街地化の傾向が著しい区域にある農地。基本的に転用は認められる。

      ※1968年に都市を囲い込む都市計画制度と1969年に農地を囲い込む農業振興地域の整備に関する法律(農振法)がそれぞれ制定されましたが、縦割り行政のため両制度にまたがる土地(市街化区域内の農地)も発生し、宅地並み課税が問題視されたことにより生産緑地法ができました。

財産評価(相続税評価)上の農地分類

  • 純農地:上の農用地区域、甲種農地、第1種農地のいずれかに該当するもの。

  • 中間農地:上の第2種農地、もしくは近傍農地の売買実例価額精通者意見価格等に照らし第2種農地に該当するもの。

  • 市街地周辺農地:上の第3種農地、もしくは近傍農地の売買実例価額精通者意見価格等に照らし第3種農地に該当するもの。

  • 市街地農地:農地法第4条又は第5条による転用許可を受けた農地、市街化区域内の農地、もしくは都道府県知事より農地法の規定により転用許可を要しない農地として指定を受けたもの。

農地の法律の変遷

農業基本法の制定に伴う改正(1962年)

農業基本法とは、1961年に制定された法律で、簡単に言えば農業の大規模化や効率化を推し進めるための法律です。
戦後、農地改革が行われそれまで土地を持っていなかった小作人にも農地が与えられたわけですが、その性で小規模零細農家が大量に出現してしまい、高度経済成長の波に乗る工業労働者との間に収入格差が生まれてしまいました。
その状況を改善するために「農業にも工業化・産業化が必要だ」ということでできたのが農業基本法です。
そして、その翌年の農地法の改正は農業基本法の制定に伴うものなので、農業の大規模化や工業化に向け、農業生産法人制度*や農地信託制度の誕生や、農地の権利を取得する際の最高免責制限の緩和が行われました。

※この時点では株式会社による農地取得はまだできませんでした。

自作→借地への転換(1970年)

この頃になると農業の機械化や兼業化が進む中で農家の中にも格差が生じてきます。そんな状況を受け、1970年には大改正と言われる改正が行われます。農地の取得を容易にしたり、その上限を廃止にすることで、農業生産は戦後にできた「自作地(自分の土地」から「借地」で行うものへと変化して行きます。

農用地の有効利用と更なる流動化の促進(1975年・1980年)

1975年には農振法に基づき農用地利用増進事業が開始され、1980年には同事業を拡充するため農用地利用増進法が制定されます。
農地法では耕作者が保護されるので、耕作者である借り手から農地を返還してもらうことが困難となることで、農業委員会への申請を行わずに貸し手と借り手の間の承諾だけで農地の貸し借りを行う、通称「ヤミ小作」がこの頃は問題視されていました。
しかし、そのような状況だと地主は安心して農地を他人に貸すことができず、大規模化が進みづらくなってしまうため、この問題を解決すべく契約期間が終了すると農地が地主の元へ確実に返還される仕組みができました。
これにより農地の流動化が一層進むこととなります。

ちなみに1980年に制定された農用地利用増進法は1993年になると「農業経営基盤強化促進法」と改称され、認定農業者制度(この対象になると税制優遇や低利融資が受けられる)も誕生しました。

株式会社による農地所有が認められる(2000年)

1962年の農地法改正では農業生産法人による農地取得は可能だったものの、その対象から株式会社は外されていました。
しかし2000年以降、株式の譲渡制限など条件付きではありますが株式会社による農地所有が認められるようになり、その条件は徐々に緩和されてきています。

抜本改正(2009年)

農業参入の規制を大幅に緩和したこの改正により、農業分野に参入する個人・法人は一気に増えました(改正前の約5倍のペース)
個人としては農地の所有が容易になり、法人は貸借であれば全国どこでも農業参入が可能となり、数としては株式会社の参入が圧倒的に増えています。

6次産業化の促進(2015年)

農地の所有が認められる対象が農業生産法人から「農地所有適格法人」へと名称変更された以外にもその法人の4つの要件(法人形態要件、事業要件、構成員・議決権要件、役員要件)のうち、構成員・議決権要件と役員要件の2つの要件が緩和されました。
これまでは販売や加工など農業生産に関係のない人や業務の割合が増えてしまうことにより役員にも農業に無関係の人が増えてしまうことが懸念され、6次産業化が進みづらいという背景がありましたが、今回の改正により農業に関係のない人も一部、構成員や役員としての要件を満たすことが可能となり6次産業化の促進が期待される法改正となりました。

今後はどう変わる

農家の高齢化や地域の過疎化が進む中で企業の農業参入や6次産業化が期待されている現状を考えると農地法もそれに合わせて更に企業が参入しやすい形に変わっていくことが予想されます。
ただ、企業の参入が進むことが日本の農業の抜本的な解決策になるかというと個人的には微妙な気がしています。

兵庫県養父市の事例

2014年に国家戦略特区制度の下で中山間農業改革特区として指定された兵庫県養父市では、企業による農地の取得が例外的に認められ、遊休農地の再生や6次産業化の促進など農業の活性化を目指した取り組みが行われました。
結果として限られた面積ではあるものの遊休農地の利用も進み、農家レストランもオープンするなど一定の効果はあったそうですが、この取り組みを全国に拡げようとする動きはまだありません。

農地取得の難しさもあるけど

株式会社の農地取得については、投機や転用目的での取得、株式譲渡による外部資本の地域支配などの懸念事項もあるため、すんなり進まない部分もあるようですが、企業の農地取得ができるようになったところで農業の活性化につながるのでしょうか?
法律上まとまった農地を取得できたとしても10ヶ所に点在して10haなのと、1ヶ所で10haなのは生産性に大きな差があります。前者が日本であれば後者はアメリカやヨーロッパなどの農業国です。中山間地が多い日本では誰がやろうとそもそも農業の規模拡大が難しいのです。
反対に土地さえ集約できれば、1農家が大規模化して行き、農業生産法人として農地の有効利用や6次産業化が自然な流れで進むのではないかと思います。

最後に

今回は農地法など農業に関わる法律の変遷についてまとめました。

戦後、農地改革により自作地主義を起点にスタートした農地法は、工業との賃金格差を受けて借地による大規模化を促進するように法改正が為されてきました。
そして最近では企業による農業参入を進めるための取り組みも行われていますが、全国レベルではあまり進んでいないのが現状です。
そもそも物理的に農地拡大が難しい日本では法整備を変えて企業の参入が進んだところで農業の問題が抜本的に解決されるかというと個人的には微妙な気がします。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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