見出し画像

【まずは掃除から】腑に落ちた農家さんのカイゼン

先日、ファームサイド株式会社の佐川友彦さんが登壇されたイベント(中小機構TIP*Sさん主催)に参加してきました。

昨今、農業のトレンドとして法人化・大規模化やアグリテックといった言葉をよく耳にしますが、中山間地の多さ、高齢化が制約となり、(自分も一応アグリテックの現場に身を置いていますが)日本の農業界では海外のように大きな変革をスピード感を持って進めるのは難しいような気がしています。(確実に変化は起きてはいるのですが)

先日のイベントでは、そんな状況の日本で、農家さんはどうしていったらいいのかを考えるヒントをたくさん得ることができましたので備忘録としてここで書こうと思います。

先にまとめです。

まとめ
日本では高齢化や中山間地の多さなどが制約となり、
多くの中小規模の農家さんにとっては大規模化やテクノロジーの導入といった大規模な変化は起こしづらいですが、
それ以上に大切な「小さな経営改善」をまずは実践することで家族経営にありがちだった俗人的な業務などを無くし、組織としての総合力を高めていくことができるようです。

そして、日本のように耕作可能面積が少ない途上国においても上記の方法は取り組みやすく、個人的には途上国では日本以上に「小さな改善」が効果を生むポテンシャルがありそうです。

よく言われているけど難しそうな変化

以前、こちらの記事で農業に関するデータを少しまとめたのですが、日本の大半の農家さんにとっては大きな変化を起こすのは難しそうです。

大規模化

これは遅くとも農業基本法ができた1960年代ごろからはずっと言われていることであり、最近は耕作放棄地が増えてきていることや公的機関の介入もあり以前よりは農地の集約は進んでいるようですが、やはり中山間地が多い日本では欧米のように大規模化がそのまま効率化につながるかと言うと難しい部分もあります。
兼業農家さんも多いので、サラリーマンとしての収入を削ってまで規模を拡げるというリスクを取るのも難しそうです。

2012 FAOより

テクノロジーの導入

テクノロジーの力を借りて効率化するというのも農業のトレンドですが、投資が必要なのと中小規模の農地でどれだけ効果があるのかは慎重に検討する必要があります。
高齢の農家さんが多いというのもテクノロジーが拡がりにくい大きな理由となっています。

 2020年版農業センサスより

有機・無農薬栽培

産直サイトだと有機や無農薬といった野菜をよく見ますが、日本ではオーガニック農産物の消費者はまだあまり多くないのが現状です。消費者ありきの農業なので、消費者の求める声が少なければ、当然作る人も増えません。

The World of Organic Agriculture. Statistics and Emerging Trends 2020より
(ちなみに有機農地の2/3は牧草地だそうです)

小さな改善の積み重ねこそ正義

上記のような大きな変化が難しいなかで、どうやって農家さんは収入を上げていくのかということになるのですが、この問題の解決の一助となるのが佐川さんが仰る「小さな経営改善」です。

家族経営の欠点

日本の農業は昔から家族単位での「農家」を中心に行われてきました。
農家さんは農協の組合員であり、農家さんが集まった組織であるJAを通して地域の営農活動やその他の生活に関するあらゆることを支え合うという「共助」の仕組みで農村は成り立ってきました。(JAは「ゆりかごから墓場まで」担う組織とも言われています)
それ自体はとても素晴らしいことであり、格差の拡大や年金制度の崩壊などを見ると、むしろ農業以外の世界でも取り入れられるべき考え方だなとも思うのですが、家族経営が続いたことで一般企業のような業務の仕組み化や効率化が為されてこなかったということも同時に言えます。
確かに農業は天候に左右されたり、多くの業務やそれに伴う技術が求められるので俗人化しやすい要素は多く含んでいると思います。また大規模化が進まないと効率化をするメリットも感じにくいです。
しかし、昔のようにモノ不足ではない時代で農業経営をしていくためには仕組み化や効率化は必須です。そして、そのために取り組みやすいのが「小さな経営改善」です。

取り組みやすく効果が出やすい

小さな改善のメリットはなんといっても取り組みやすく効果が出やすいことです。
経営に関する資料の作成・整理、業務のマニュアル化、情報共有のルール化などはお金もほとんどかからず、難しいITツールも必要ありません。
佐川さんの著書には「数をこなすことにこだわった」と書かれていましたが、スピード感を持って取り組めば、1つ1つの変化は小さくても短期間で大きな効果を生むことができそうです。
今は無料で使えるタスク管理ツールがたくさんあるのでそういったものをチームで共有して活用すると日々の営農活動とは違う業務の面白さが見つかるかもしれません。
佐川さん曰く「掃除は取り組む難易度は低いが、変化が目に見えて分かるので従業員にも効果を実感してもらいやすい」そうです。納得。

売上改善とコスト改善の両輪で行う

「改善」と聞くとコスト削減のイメージが強く、「売上を上げる」方が分かりやすいのでなかなかチーム内で改善を進めるのは難しいのではないかとも思ったのですが、あくまで「収益」にポイントを定めて施策を実行していくことが大切だそうです。(そのためには数値化が大切)
コスト削減の改善は優先順位を定めて行っていけば、その効果は低減していくので改善で仕組み化や効率化がある程度進んだら上記のような大きな変化に取り組んでみるのも良いのかもしれません。
仕組み化や効率化を抜きにして先に大きな投資をしたら大ゴケしてしまうのは目に見えていますし、そういう意味では日本の農家さんには上記のような大きな変化をする準備がそもそもまだできていないというケースも少なくないのかもしれません。

小さな改善の現場で求められるジェネラリスト

小さな経営改善が農業をよくするというのは間違いないのですが、実際の農業現場では、やはり日々の業務に忙殺され、そういったことに手が回らないのが実情だと思います。
佐川さんは「農家の右腕」としてあえて畑に入らずにひたすらに農業現場の改善に着手し、その改善集をインターネット上で無料公開されていますが、本当に多岐にわたる内容の改善を行っています。
そもそも「百姓」という言葉は「百の仕事をこなす」ことに由来しているという説もあるくらいで、農業は生産から販売、頭から体までを使う総合格闘技だと思っています。そんな農業現場で求められる人材は、今のキャリア形成論の中ではあまり人気のない(?)ジェネラリストタイプだそうです。
自分としてもそういうタイプの方が憧れるので、時間を作って広く浅く色々なことに手を出したいなと思いました。

途上国でも活かせそうな「小さな改善」

個人的に「小さな経営改善」が素晴らしいなと思う理由が、自分が将来目指しているような途上国でも活かせそうだという点です。

ネパールの農村

途上国の農村はテクノロジー以前に安定したインフラが必要

いわゆる「リープフロッグ現象」のように、途上国では最新テクノロジー以前の仕組みが整っていないため、先進国以上にテクノロジーの浸透が早いという例がありますが、自分の知る限りではその現象は全体的なものではないと思います。
まず電気や水、インターネットなどの公共インフラが脆弱もしくは存在しない地域が途上国の農村部にはまだまだありますし、そういった場所ではテクノロジーを活用できる人材も少ないため、機械が壊れたりしたらガラクタとして放置されてしまうケースもあります。
また、人口が増えていて平均としては若い国と言われる途上国でも農村部に関しては若者(特に男性)が都市部や外国へ流出し、農村部の高齢化や過疎化が進んでいるというのもよくあります。

※ネパールは若者の半分が海外へ出て行っていると言われています。

小規模農家が多い

中国やインドのような脱途上国化をしている国とは違い、今も後発開発途上国にカテゴライズされるような国は基幹産業が農業であるにもかかわらず耕作可能面積が少ないことが多いです。
そういった国では小規模農家が非常に多く、資金力もないため大規模化やテクノロジーの導入などの「大きな変化」は日本以上に起こしづらいです。しかし、そういった場所でも使えるのが「小さな改善」です。

※ネパールは国土の2割ほどしか耕作可能面積がないと言われています。(面積は日本の0.4倍ほどで農業に関わっている人は人口の約7割の2000万人)

日本以上に伸び代が大きい

途上国の農村部ですと、これまでは自給的な農業が中心だったため効率化以前に「商売をする」という感覚を持っていない人もいます。もちろん、それで幸せに生きていければ全く問題はないのですが、今の時代、貨幣経済や資本主義は途上国の農村部にもしっかり浸透していますし、子供に教育を受けさせるためにも、ある程度は稼ぐ必要があります。しかし商売に慣れていない人たちには「稼ぐ」ことに関して課題が非常に多いのが現状です。
ただ、課題が多いということはその分、改善した後の伸び代も大きいということなので途上国での小さな経営改善は日本以上にポテンシャルがあるかもしれません。

最後に

今回は、佐川さんのお話をもとに思ったことを色々と書いてみました。
日本では高齢化や中山間地の多さなどが制約となり、多くの中小規模の農家さんにとっては大規模化やテクノロジーの導入といった大規模な変化は起こしづらいですが、それ以上に大切な「小さな経営改善」をまずは実践することで家族経営にありがちだった俗人的な業務などを無くし、組織としての総合力を高めていくことができるようです。
そして、日本のように耕作可能面積が少ない途上国においても上記の方法は取り組みやすく、個人的には途上国では日本以上に「小さな改善」が効果を生むポテンシャルがありそうです。
日本の農業から途上国に生かせそうなことはやはりとても多いなと思います。
これからも色々と農業のことを調べてまとめていきます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?