【400字の独りごと】 見知らぬ、なつかしい場所
見知らぬ、なつかしい場所
ときどき、同じ夢を見る。
ホテルに改装された、古いお城を訪れる夢だ。
モノクロ映画に出てきそうな、重厚なエレベーター。迷路のように入り組んだ、うす暗い廊下。いったい、いくつあるのか見当もつかないほどの、数々の部屋。
潜り抜けてきた歴史の跡が、いたるところに染みついている。
夢で何度も繰り返し見るうちに、すっかり馴染みとなったその場所で、わたしはゴブラン織のベッドカバーの手触りを確認したり、廊下へ出て、あやうく迷子になりそうになっている。
わたしは、どうして知っているのだろう。
ホテルマンに出くわすわけでもないのに、ここが「ホテル」であることを。
おそらく、世界のどこかに同じ場所が存在しているのだ、と思う。
そこは訪れるべき、見知らぬ、なつかしい場所。
(2005年9月26日)
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