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400字の独りごと

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過去に自身のWebサイトで発表していた、およそ原稿用紙1枚分のエッセイをここに再録していきます。
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記事一覧

【400字の独りごと】氷柱と蜜柑

 氷柱と蜜柑  2011年、豪雪と共に迎えた新年は近年記憶にないほど厳しい寒さで、軒先に連な…

Jey
1か月前
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【400字の独りごと】 恋文

 恋文  いま、なにしてる?  あなたに話したいことがたくさんあるんだ。幸せなんだ、もの…

Jey
1か月前
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【400字の独りごと】 記憶をもたない女

 記憶を持たない女  女は、メモをとる。  昨日したこと、さっきやったこと、今すること、…

Jey
3か月前
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【400字の独りごと】 夢

 夢  ひどく長い夢を見た。  ずいぶん前に出ていったはずの家の中で、私は追い立てられる…

Jey
2か月前
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【400字の独りごと】記憶

 記憶  2011年3月12日、わたしは日本海に面した浜辺で海をぼんやりと眺めていた。東日本大…

Jey
2か月前
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【400字の独りごと】 いのししパパラッチ

 いのししパパラッチ  我が家は山のふもとに位置している。近年いのししが頻繁に出没するよ…

Jey
5か月前
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【400字の独りごと】 嘲笑をかう

 嘲笑をかう  ことばが、からだの中に溜まり、澱んで、不安定になる。  吐き出してしまいたいものと、秘めておかなければならないものがごちゃ混ぜになって、うまく息ができない。  ペンを持つ手は震えている。この指先は、いま、何を書こうとしているのだろう。どんな汚い言葉を書き殴ろうとしているのだろう。  箍(たが)が外れてしまわないよう、何度も深呼吸する。  閉じたまぶたに、髪をかきむしり大声でわめく自分の姿が映る。しかし、狂気をとりかこむ世界はあまりにも穏やかで、あたたかく、闇

【400字の独りごと】 手紙魔

 手紙魔  文具屋に足を踏み入れるときはいつもワクワクする。今日はどんなレターセットに出…

Jey
6か月前
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【400字の独りごと】 色いろいろ

 色いろいろ  空間にある、色。  みかん色。  遠慮なく物言いのできる友人たちと集まる場…

Jey
7か月前
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 【400字の独りごと】 ぴんとはりつめた、夜の空気をすいながら

 ぴんとはりつめた、夜の空気をすいながら  あとおよそ七十年、二五〇〇〇日。生きながらえ…

Jey
7か月前
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【400字の独りごと】 見知らぬ、なつかしい場所

 見知らぬ、なつかしい場所  ときどき、同じ夢を見る。  ホテルに改装された、古いお城を…

Jey
8か月前
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【400字の独りごと】 かたちから

 かたちから 「お前は、何でもかたちから入る人間だな」と、ずいぶん前に人から言われたこと…

Jey
8か月前
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【400字の独りごと】 フェルメール

 フェルメール  フェルメールの絵は優しかった。  柔らかな陽光が差し込む窓辺で、ひとり…

Jey
11か月前
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【400字の独りごと】 書く準備

 書く準備  誰かの言葉に、文章に、インスパイアされて行動するのはよくあることだ。 私の場合は小説を読んでいると「書く」衝動に駆られる。  たとえ物語が途中であっても、クライマックスであっても、本を放り投げてペンを手に取る。ひとたび衝動に駆られると、書かずにはいられないのだ。  逆に言えば「読む」行為をしなければ「書く」ことはできないと言える。でなければ、ペンを握ることすら苦痛に感じる。  そのことに気づかされたのはごく最近のことだ。  質の高い文章は、触れるだけで自分の内