見出し画像

【400字の独りごと】 かたちから

 かたちから


「お前は、何でもかたちから入る人間だな」と、ずいぶん前に人から言われたことがある。
 中学生のころ私が帰属していた、バスケットボール部の顧問のひとことである。基礎であるディフェンスの姿勢を完璧に覚えようとしていた時だった。
 教師という職種の人々は、時に恐ろしく的を射た物言いをするものだと、私は今にして思う。
 そう。まずはかたちから。
 意識してそうするわけではないのだが、気付けばかたちから入っているのである。旅行へ行くなら鞄から、絵を描くなら画材から、文章を書くなら万年筆から…と、まわりを取り巻くものから揃えていかなければ気が済まない性質らしい。
 まわりを完璧に揃えたところで、私はその中にどっぷりと浸かり、安心して本題に入るのである。
 しかし冒頭の言葉は果たして褒め言葉だったのであろうか。それともけなされたのか。両方の意味が含まれているとして、おそらく後者の割合の方が多い気がする。
 なぜなら私自身、脇目もふらず猛然と行動しはじめることに憧れていたりもするからだ。

(2004年9月8日)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?