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 【400字の独りごと】 ぴんとはりつめた、夜の空気をすいながら


 ぴんとはりつめた、夜の空気をすいながら


 あとおよそ七十年、二五〇〇〇日。生きながらえるであろう年月。
 無限に感じられる時の流れを、いったいどうやり過ごせばよいのか考えるだけでも恐ろしく、私はまだ十六かそこらで、1日ですら途方もなく長かった。
 世界は白と黒に分かれているものと信じて疑うことを知らなかったあの頃、目の前に広がる灰色の光景に驚愕した。濁った色は、身動きのとれない私の胸の内を侵食していったのだった。
 感覚の麻痺したからだは、通り過ぎていく時間を呆然とやり過ごすことしかできず、繰り返される日々は恐怖の対象となった。僅かな余力はすべて、怯えた表情を隠すことに費やされた。
 十年が経ち、しかし私はまだ生きていた。
 灰色にすっかり慣れ親しんだからだは今、時間が足りない、と常にわめいている。いつかの無意味だった日々を取り戻すことができたら…
 「後悔」という言葉をいつもは毛嫌いしている強がりな臆病者が、すこしうしろを振りかえり、ため息をついたのは、誕生日を間近に控えたある夜のこと。

(2005年11月26日)

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