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介護職中退生③なぜそこを揉む⁉︎

すが子さん(仮名)は今日も山に思いを馳せているだろうか。初めてデイサービスのお迎えに行った時、

「山で暮らしていたんだ」
というすが子さんに

「山ってどこの山ですか?」
とまじめに聞いたものの、

「山は、山だ」

とすげなく言われた。思えばすが子さんが、私にとって初めての認知症の方だったように思う。ちなみに「山」は福島県のどこかだと後からわかった。

去年2021年6月に、私が勤務していた施設で第1回目の新型コロナワクチンの予防接種が始まった。6月の1回目は翌々日に熱を出し1日休んだ。7月の2回目は翌日から2日間寝込んだ。その後、まだまだ接種した左上腕は痛く、だるさの残る身体で出勤した日の入浴介助は、お風呂用車椅子のまま、または一人で入る人の担当に当たっていた。

すが子さんは転倒の危険があるため必要に応じて車椅子を使ってもらい、着替えや洗身も常に見守りや支援が必要だった。無事入浴を済ませ、座ったまま下着とズボンに足を通し、靴下と靴も履いてもらってから、私はすが子さんに向かい合って膝をついた。

「すが子さん、私の肩につかまってください」

私と向かい合って立っているすが子さんに、膝をついた私の肩に両手でつかまってもらい、下着とズボンを上げようと思ったのだが。

なぜか、すが子さんは私の、痛みが残る左上腕部を揉んでくる。いや、そうじゃなくて。肩につかまってください!

なぜそこを揉む⁉︎

「すが子さん。痛い。そこは痛いです…」

わざとじゃないからよけいおかしい。なんだかコントを繰り広げているような気がして、ひとり笑ってしまった。

「ひざまずき 私の肩につかまって
ワクチン接種のなぜそこを揉む⁉︎」

介護百人一首に投稿したものの、箸にも棒にも引っ掛かからなかった。あのおかしさは、実際目にしてもらわないとわからないかも知れない。


#介護 #デイサービス #認知症 #ワクチン接種 #入浴介助


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