見出し画像

介護職中退生④ハナさん、ずっとフォローしたかったよ

「ハナさん太ってるから重いっしょ」

「そんなことないですよ~、大きい男性の方がよっぽど重いから、ハナさんなんて軽い軽い!」

私が去年デイサービスで働き出した時、ネガティブなことばかり言うハナさん(仮名)に出会った。

「ハナさん、今日のズボンあったかそうですね」

職員にそう言われた時、ハナさんは

「今はね、こういうものはお店で買って来れるけど…。」

そこまで聞いただけで、私にはハナさんが何を話そうとしているか、すぐにピンと来た。

「昔はね、ぜ~んぶハナさんが縫ったの…。」

そう言ってめそめそ泣きだすハナさん。
「そうなんだぁ!じゃあハナさんが家族のお洋服いっぱい縫って着せてあげてたんですね?」
とテンション高く言っても、悲しそうな顔は晴れなかった。

『昔はどんな服でもこしらえて家族に着せてあげることができた。自分の着るものも自分で縫っていた。それなのに今は、何がなんだかよくわからない』
そんな心境だったのだろうか。

「なんだかわかんねぇ。ハナさん一番手がかかるっしょ。叩いていいよ」
「叩くなんて。そんなことしません」

ご家族に叩かれたことがあるのだろうか。送迎に当たったことがないのでご家族の様子はわからなかった。

私が臨時でショートステイに勤務した日、ハナさんが来ていた。驚いたのは、デイサービスに来ている時のハナさんとはまるで別人のようにネガティブな言動がないことだった。リビングで座っているハナさんの横に私が腰掛けると、

「こんなんして。足を上げたらいいかね」

と言って膝から下を上げたり下ろしたりして、自主的に体操をしている姿に、本当にこれがハナさん?と驚いた。

デイサービスは平均25人~30人前後の利用者がいる。レクリエーションや機能訓練など、大勢の人の中で劣等感を感じてしまい、自分はダメだ、と思っていたのだろうか。その点ショートステイは満床でも8人、全員で何かをするような時間はなく、利用者は思い思いに過ごしている。そこでハナさんが人と自分を比べず、リラックスして過ごすことができていたのだとしたら、そういう場を提供できていたということか。

そしてやはり、デイサービスで会うハナさんは絶賛ネガティブ祭りなのだった。ある時

「フォローして」

と言われたのだと思い、
「え?ハナさんフォローなんて言葉、使うんだ?」
と思いきや、よーく聞いてみると

「殺して」と言ったのだとわかり、愕然とした。

私はハナさんの気持ちを想像した。

昔は得意だったこと、すらすらとできていたことができなくなるってどんな気持ちだろう。

食べること、お風呂に入ること、トイレに行くこと。

自分でできなくなって、人に手伝ってもらう。かゆいところに手が届かないことや、そうじゃないのに、本当はこうして欲しいのに、と思うことだってあるだろう。自分に絶対的な自信があるらしい職員の、半ば強引な介護も目の当たりにした。

法人理念にうたわれている、自分の大切な人を云々、というのがちゃんちゃらおかしいわ、と思うような無理やりな介護とか。『私の親は、ここには入れたくない、決して』と思い、絶対に長いものには巻かれなかった。

認知症の人の気持ちは、一生懸命想像するしかないのだけど、正解はないし、わからない。

でも。

私は、書店員としてお客様に対応していた時のことを思い出す。認知症でなんかなくたって、いわゆる「わからんちん」の人はおおぜいいた。ゆえにどんなに認知症が進んでわけがわからなくなった人だって、「面倒だ」とか、「嫌だなぁ」とは思えなかった。

だから、ハナさん。

どんなに気持ちが落ち込んでも、一生懸命生きて来た人たちだから手伝うよ。支えたいよ。そう思って新人職員は試行錯誤していたんだよ。

短い間だったけど、ハナさんと出会って、お話できて楽しかった。もっとフォローしたり、お手伝いして、一緒に笑いたかったけど叶わなかった。天国で、ハナさんがずっと笑っていられるといいな。またいつか、お会いしましょう。

#デイサービス #ショートステイ #介護 #認知症 #ネガティブ





おもしろいと思って下さった方はサポートをいただけると大変ありがたいです。いただいたらまずは小躍りして喜びます。そして、水引セラピーに関わる材料費や書籍の購入に、大切に使わせていただきます♬