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【映画雑記】「ヒッチャー」/There's a killer on the road…

 1986年公開のサスペンススリラー映画、「ヒッチャー」を久しぶりに観ました。

 映画が好きになった80年代の終わりから90年代にかけてテレビの洋画劇場で何度かみたことがありましたが、あまり詳細は記憶にありませんでした。

 ストーリーは至って単純。眠気覚ましの話し相手にひろったヒッチハイカーがとんでもない異常者で、主人公は執拗に命を狙われるハメになるというもの。主人公を翻弄し続ける頭のキレる殺人鬼の追跡は、徐々にジリジリとお互いの命を削り合う対決へと転じていく。ずっと緊張させられっぱなしの97分。砂漠にのびるハイウェイ、埃と銃声、血、終わらない悪夢。そして最期の対決。全てが完璧すぎて、当時の宣伝コピーどおりに「心臓急停止」するかと思いました。

 最少人数の出演者で進行するミニマムなストーリー。が、演出の緻密さと心理描写の濃厚さは尋常じゃない。余白を残しつつ、余計なものを全て削ぎ落した結果、恐れと畏れが入り混じる「対決」という行為の本質が純粋に浮かび上がります。俳優たちも脚本や監督の意欲に応えようと、全力で各々の芝居に取り組んでいて圧倒される。主人公には当時は青春スターからの脱却の苦しい時期だったクリス・トーマス・ハウエル。ヒッチハイカーには個人的に大好きなルトガー・ハウアー。劇中のふたりの関係は、基本的には追うものと追われるもの。冒頭で、主人公はヒッチハイカーを走っている車から突き落とす。生き残ることに強い執着を持つ主人公が気に入ったハイカーは、自身の恐るべき行為を終わらせる役目を彼に求めます。ルトガー・ハウアーが台詞ではなく彼の印象的な眼で「終わらせてくれ」と訴えかけます。追うものと追われるものの境界が次第に崩れていく作劇は見事。勝者の孤独が際立つラストカットの余韻もいい。また、このラストカットが同じく苛烈な対決を描いたスピルバーグの「激突!」との相似性を見せるのも偶然ではないですね。

 脚本のエリック・レッドドアーズの"Riders on the storm"に着想を得たと語っていて、同曲を愛し狂っている俺は非常に納得するものがありました。1971年のドアーズの実質的なラスト・アルバム"L.A.Woman"の最後を飾り、”There's a killer on the road…”という一節を持つこの曲は、雷鳴と雨の音で始まる。そしてこのムードがそのまま映画の冒頭の雷雨のハイウェイのシーンに再現されていると思います。そして、「ヒッチャー」とドアーズには興味深い繋がりがあります。ボーカルのジム・モリソンは、"HWY"というタイトルで短編映画を製作し、自身で謎めいたヒッチハイカーを演じています。しかも、拾った車のドライバーを殺していることを匂わせているという…

 まぁ、小難しい話は抜きにしても、イモくさいジェニファー・ジェイソン・リーや、「指ポテト」、3台並走カーチェイス、ヘリとの闘いなどキャッチーな見せ場もたくさん盛り込まれているので。是非ひろく皆様に観ていただきたいサスペンススリラーの大傑作であるとの思いを新たにしました。

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