見出し画像

オーケストラを聴きながら本を読む『リヴィエラを撃て』

こんにちは。Jessie -ジェシー- です。

またすごい本を読み終えてしまった……。

高村薫先生著『リヴィエラを撃て』。

緻密に張り巡らされた伏線と描きこまれた人間性が印象に残る、ボリューム満点の1冊でした。

伏線の張りこみがすごい

伏線の緻密さがすごすぎました。

私が「これ、伏線ぽいな、覚えておこう」と気づけたものもあれば、すべてを読み終えて本を閉じた後に思い出して「あれは……!」となったものも。

衝撃のあまり、膝から崩れ落ちそうになりました。

長編小説って、テンポの維持やトーンの保持が重要かつ難しいところだと思うのですが、張り巡らされた伏線が、長い旅のあいだの細かい起承転結を結び合わせ、最後に待ち受ける本当の「結」になだれこんでいくさまは、読んでいてただただ圧倒されるばかりでした。

とんでもない体験をしたくて小説を手に取るわけなので、圧倒されて本望です。

人の人生を描ききる集中力

この大長編には、主人公と呼べる人物が複数人存在します。

というより、三人称で進行していくので、登場した人全員が主人公と言った方が的確かも。

この場面に立つまでに、この人は何をしてきたのか。
どんなことを考えてきたのか。
長年の経験を、意識の中でどう整理保持しているのか。

そういう内面の機微までを地道に描いているからこそ、「今の視点はこの人」にとどまらず「この人に乗り移って世界を見ている」ように感じられ、非常な没入感が生み出されているのです。

書き込みの細かさに、妥協がない印象を受けました。集中力の高さがすごすぎます。

オーケストラを聴きながら

私、作中に登場するピアニストのノーマン・シンクレアが推しなんです。

「美しい」との描写があちこちに出てくるため、私の脳内イメージはもう少し鼻を尖らせたプルシェンコ。

ゲルマン系の目鼻立ちって、美しいですよね(*´ω`*)私も生まれつきの金髪を持ってみたい。

そんなシンクレアが弾くピアノの曲名が、作中にいくつか登場します。

そのうちの1曲をどうしても聴いてみたくなって、私は初めての試みをしました。

その場面で使われている楽曲を聴きながら、その場面を読むのです。

いつもなら「へえ、こういう曲があるのか」と流してしまいそうなところを押しとどめたのは、描写の細かさでした。

緻密な言葉で描写される言葉を、実際に耳で聴いたらどんなふうなんだろう。

これはどういう曲なんだろう。

ピアノの前に座るシンクレアを想像したらいても立ってもいられなくなり、YouTubeを開きました。

動画を見つけ、耳にイヤホンを差し込んで、再生ボタン。もちろん弾いているのは違う人だけれど、曲の雰囲気はじゅうぶん分かります。

曲の進行に合わせて、本を開き、描写を目と耳で追っていく。

いつもより五感を多めに使う読書時間は、豊かでえもいわれぬ充実感をもたらしてくれました。

読み終えて思うこと

最後の一文までを読み終えて、私は一瞬、ディストピアものを読み終えた時と似た感覚に陥りました。

思い出したのは、『1984年』を読み終えた時の絶望感。

何が善で、何が悪なのか。
何をすれば良かったのか……。思わず考えこんでしまうような。

けれどもじっくり余韻に浸りながら考えているうちに、落ち着いた考えは別の結論に行き着きました。

これは結末が「かったか」「悪かったか」を論ずるものではないのだと。

「終わりよければ……」ということわざがありますが、逆にもし終わりが悪かったら、登場人物たちの人生は、読書に費やした私の数日間は、無駄で無意味なものになるのか? という話。

ならないと思いました。

最終的な結果がどうであろうと、彼らの尽力が穢されることなどないと。

むしろ私が結末を否定してしまったら、これまで読んできたこの作品の経過彼らの人生すべてを否定することになってしまいそうで、それはやりたいことではなくて、だからしませんでした。

物語の舞台は1992年。もうすぐそこから30年後の世界に達しようとしています。

そこが劇中よりは平和で穏やかな世界であればいいな、などと思うのでした。


この記事が参加している募集

#人生を変えた一冊

7,947件

読んでくださりありがとうございます。良い記事だな、役に立ったなと思ったら、ぜひサポートしていただけると喜びます。 いただいたサポートは書き続けていくための軍資金等として大切に使わせていただきます。