見出し画像

強矢悠里、見参。愛国者学園物語192  第4部スタート!。

 ここで物語は1年前の春、愛国者学園小学校の入学式の日に戻る。その日の午前中、彼女は落ち着かなかった。自分がクラスメートに馬鹿にされるんじゃないか、そういう思いをぬぐい去れなかったからである。

 2021年4月5日、月曜日。


 入学式で、その少女、

強矢悠里(すねや・ゆうり)

は、自分の苗字をからかう人間がいないことに安心した。

 

強い矢と書いて、「すねや」と読む珍しい名前

のせいで、彼女は幼稚園で同級生から「スネ子」とか「スネ女」とか言われていた。それに怒って、あるときは男の子に馬乗りになり、ゲンコツでなんども彼の顔を叩いたので、幼稚園の先生たちは彼女を止めるのに苦労した。この喧嘩は相手の親の抗議により、弁護士を交えての交渉へと変わったが、結局、示談になった。悠里の父親は一人娘の乱暴話を平然と聞いては弁護士に指示を与え、トラブルを片付けるような人間だったからだ。

 そういう親の元で、彼女は活発な幼稚園時代を送り、その名の如く、アーチェリーを、そして、自分の敵を矢で射る空想を楽しんでいた。嫌な奴は……。 それが幼稚園児・強矢悠里の心の中味であった。


 強矢はまだ幼いから軍隊のことは詳しく知らないが、以前、テレビで陸上自衛隊の訓練を見て、その心が熱くなったことがあった。若い男たちが過酷なレンジャー訓練で涙を流すのを見て、強矢は彼らが偉いと思った。それだけではない。

 父親が見ていた映画「ランボー2」を、彼女は永遠に忘れないだろう。それがきっかけで、アーチェリーをやるようになったのだから。この映画ではシルベスター・スタローン演じるランボーは戦闘用の弓を使って、ピンチを切り抜ける。だから、彼は彼女の先生でありヒーローだった。

私もあの人みたいに戦いたい。

そう願っていた。


 いつも無気力な母親は、そんな娘を見て言った。

「戦う映画ばっかり見てたら、頭がおかしくなるわよ」

珍しく母親が意見を言ったので、小さいとはいえ、強矢は腹を立てた。怒れる瞳で父親を見ると、父は微笑んで、

「まあ、いいじゃないか。ただの映画だよ。別に戦争に行くわけじゃない」

と言って、強矢を喜ばせた。



 そして、愛国者学園小学校の入学式の日。赤いベレー帽に、軍服のような制服を着て、強矢悠里は興奮した。ここは普通の学校と違って軍隊式の文化が取り入れられており、敬礼もその一つだった。彼女は名前を呼んだ先生に敬礼をして返す時、自分が良い場所に来たことを実感した。ここは、自分に相応しい学校、愛国者学園なのだ。

 愛国者学園は、攻撃的な彼女にまたとない活動場所を与えた。なにせここは子供たちに、日本の社会を破壊し、日本人を殺すような連中、つまり、反日勢力と戦おうと叫ばせる学校である。



 しかも、それを正義として教えるのだから、アーチェリーを武器にして戦うことに憧れる少女の心は燃え上がった。


 いつか自分も反日勢力と戦いたい。自分の偉大な祖国日本を汚す外国人を叩きたい。そういう思いが日々降り積もっていった。


続く

これは小説です。


強矢・すねや、という名字は実在します。
かつて、私がある職場にいた時、偶然、その名を持つ人物の存在を知ったのです。それが、今ここで役に立つとは……。


「愛国者学園物語」第4部は、この話から始まります。今後とも、よろしくお願いします。


この記事が参加している募集

私の作品紹介

大川光夫です。スキを押してくださった方々、フォロワーになってくれたみなさん、感謝します。もちろん、読んでくださる皆さんにも。