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公務員の特別待遇 ―なぜ公務員犯罪は守られるのか―  後編

後編 「浮かびあがる問題点」

犯罪や不祥事を起こした公務員の処遇は、国によって法律や規制、文化的規範が異なり、複雑な問題である。日本のように、犯罪を犯した警察官などの公務員を組織内で懲戒処分の対象とする場合もあれば、犯罪を犯した公務員の説明責任を果たすために、刑事訴追が第一の形態となる国もある。

世界で見る公務員犯罪への対処

アメリカ:法執行官は他の市民と同じ基準に従わなければならず、犯罪が行われたと信じるに足る理由があれば、警察官は逮捕され起訴されることになる。犯罪を犯した警察官は、罰金や懲役などの刑事罰のほか、停職や解雇などの行政処分を受けることもある。

イギリス:警察官は不祥事システムにより責任を問われ、調査を受け、有罪となった場合は懲戒処分を受けることになる。ただし、不祥事が犯罪性のあるものである場合は、刑事司法制度によって捜査され、刑事責任を問われることもある。

カナダ:警察の不祥事に対処するプロセスは、州によって異なる。いくつかの州は、警察官に対する苦情を調査し、必要に応じて懲戒処分を勧告することができる独立した民間の機関がある。その他の州では、警察官は、警察署内の内部チームによって調査されることがあり、彼らは犯罪を犯したことが判明した場合、懲戒処分や刑事責任に直面する可能性がある。

オーストラリア:公務員は、刑事訴追に加えて、懲戒処分を受ける可能性がある。これには、停職や解雇のほか、罰金やその他の罰則が含まれる場合がある。

南アフリカ:不正行為で有罪となった公務員は、停職や解雇、罰金などの懲戒処分を受けることがある。

ドイツ:不正行為で有罪となった公務員は、停職または解雇を含む懲戒処分、および罰金やその他の罰則を受ける場合がある。

シンガポール:公務員が不正行為で有罪になった場合、停職や解雇などの懲戒処分のほか、罰金などの罰則を受けることがある。


Photo by Markus Spiske on Unsplash

対処の違いは人権の行使の違い

このように比較すると、公務員の犯罪行為への対応には、さまざまなアプローチがあることがわかる。これらの国に限定されず、懲戒処分は、法制度や文化が異なる多くの国で一般的に行われていることである。

しかしながら、懲戒処分がどのくらいの頻度で、誰に対して行われているかなどの実態は、各国で起きている事件の詳細を調査してみないことにはわからない。その本質には、人権の行使の違いが見え隠れしている。

例えばアメリカでは、逮捕から立件、裁判までのスピードがとても速い。ニュースでは実名どころか、犯罪を立証するための証拠物件や、裁判中の法廷の様子が動画で公開される。警察が関連した事故や事件でも同様であるし、むしろ警察や教職員などの公務員のほうが大々的に取り上げられている。

日本でよくある法廷画家による絵のようなものではなく、法廷での被告人や弁護人の表情がはっきりと見てとれる動画である。警察官などの公務員か一般市民か、またはハリウッドスターなど有名人による犯罪かどうかは関係ない。

日本とは明らかに異なる対処をとるアメリカを引き合いに出すのは極端ではあるが、その背景の違いはわかりやすいだろう。要点は以下である。

  • 逮捕から立件、裁判までが速い。弁護人同席の取り調べや黙秘権が認められ、無駄な勾留延長がない。

  • 警察官や教職員などの公務員を一般市民による犯罪と同じように扱う、「平等な基本的人権」の尊重。

  • 公務員職や司法制度の透明性。

これらの点で、公務員が犯罪を犯したときの、国による対処の違いは、人権の行使や制限の度合いの違いといえる。実際にあった話では、サンダルを履いていることを理由に警察に連行された、何もしていないのに外国人であることで疑いをかけられた、ということが日本では起きている。

そして国民は、自らが他人の人権を侵害したり、侵害されていることに気づかずに付和雷同的である。人権についてはまた別の記事で議論するが、他人の人権を尊重してこそ、自分の人権が保たれるということに留意するべきである。それが本来の社会の調和というものではなかろうか。

欲求を満たす公務員

犯罪を犯した公務員の名前を報道せず、刑事告訴もしないという慣行は、一般市民と同じように自分の行動に対して責任を問われないという認識を生み出す可能性がある。

このため、公務員は、自分は訴追されない、あるいは自分の行動が世間にさらされることはないと考える恐れがあり、公務員の犯罪行為が増加しても不思議ではない。実際に、教職員の犯罪のほとんどが、教え子などの学生がターゲットであることから、教職員になった目的を疑う。

さらに、犯罪を犯した公務員に対する懲戒処分をめぐる透明性の欠如により、国民が公務員の責任を追及することが困難になるであろう。これが政府や刑事司法制度に対する信頼の欠如につながり、正義や公正さに対する国民の認識にも悪影響を及ぼしている。

あとがき

懲戒処分は刑事訴追を排除するものではない。多くの国では両制度が共存し、犯罪を犯した者を刑事告発するかどうかは、通常、検察官が徹底的な捜査と証拠調べを行った上で決定する。

場合によっては、組織内での懲戒処分がより適切な対応であると検察官が判断することもある。日本の法制度は、公務員の犯罪者を処罰せず、更生させ、社会の調和を取り戻すという原則に基づいて運営されている。

しかしながら、社会は公務員だけで形成されているわけではない。すべての個人という国民がいてこそ成り立つ社会である。職業や立場によって犯罪時の対処が違うという公務員の特別待遇こそが、社会の調和を崩していると言わざるを得ない。

法制度は本来、ダイナミックな存在であるはずだ。技術の進歩と共に言語や常識も変遷する社会で、何十年も法律が不変であること自体、適応するわけがないのである。現代にも残る日本の古い体質が、見直されることが必要だ。

こちらの記事は、下記のリンク元を参考にしております。
US Department of Justice
Federal Bureau of Investigation
UK Home Office
UK Metropolitan Police Service
the Canadian Association of Police Governance
Royal Canadian Mounted Police

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