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デジタルタトゥーの恐怖 永遠に残る傷 ー 前編

 デジタルタトゥーは、インターネット上でのやり取り、行動、存在の記録を指す。SNSへの投稿、オンラインでの購入、Web サイトへのアクセス、メールによる会話など、さまざまな手段を通じてデジタルタトゥーが作成される。いったん投稿されると、簡単にアクセス、共有、拡散される可能性があり、制御や消去が困難となり、永続的に残ることから、タトゥー、またはフットプリント(足跡)と呼ばれる。

デジタルタトゥーには、SNSへの投稿や掲示板などへのコメント、ファイルのアップロードなど、個人によって意識的に共有される「能動的データ」と、IPアドレス、HTTP Cookie、閲覧履歴など、直接入力することなく自動的に収集される「受動的データ」がある。意識的に行われるデジタルタトゥーは、嫌がらせ、いじめ、差別など、さまざまな悪影響につながり、近年では大きな社会問題の一つになっている。

デジタルタトゥーの恐怖

 デジタルタトゥー自体は、決して悪いものではない。そもそも、インターネット上の情報は、思うがままに検索して、時間や場所を問わずに閲覧することができるものである。こうして我々が記事を残し、共感する人たちとつながることができるのも、デジタルタトゥーを利用しているからである。友人や家族、同じ考えを持つ人とのコミュニケーションや、LinkedInなどで自分のスキルや業績をアピールし、望む機会につなげることも、デジタルタトゥーの活用の一つだ。

こうしたデジタルタトゥーの利用は、「ポジティブな目的」に限定されている。ブログやSNSなど、プライベートで不特定多数の人たちと関わりを持ち、情報交換の場になるサイトには、利用規約が設けられている。利用規約に反すれば、サイトを利用できなくなるほか、内容によっては運営側から訴えられるなどの措置もある。

 しかし、実際には、利用規約を無視して残される「ネガティブな目的」のデジタルタトゥーが多く存在する。個人に対する誹謗中傷に加えて、個人情報への不正なアクセス、それによるサイバー攻撃や、詐欺の手段に利用されるなどである。これには、SNSで個人が拡散するものだけでなく、報道局や週刊誌など、メディア各社の公式サイトにあるニュースや情報も含まれる。

厄介なのが、悪い評判などのネガティブな情報が拡散されるスピードは、とてつもなく速いことだ。情報元が削除したとしても、コピーされたり、勝手な憶測や、個人的な意見が付け加えられたうえで共有されたものまで、全てを一度に削除することはできない。共有した者が、個人レベルで削除しない限り、インターネット上に永遠に残り続けてしまう。

Image by memyselfaneye from Pixabay

デジタルタトゥーの被害は、例に事欠かない。

 まず、SNSなどの誹謗中傷や暴言による被害。2020年5月、某テレビ番組に出演した木村花さん、そして2023年7月には、タレントで実業家でもあるryuchellさんが、自ら人生の幕を閉じた。

当人たちとは全く面識のない無関係な他人が、個人を、言動、容姿、私生活、さらには、家族にまでも集中的に攻撃。何度も繰り返して閲覧され、追い打ちをかけるように新たな暴言が投げかけられた。

個人に向けて誹謗中傷や暴言を投げる側に問題があり、単なる個人の自殺ではない。メディアが面白おかしく扱い、それに煽動された人たちが加担した、立派な事件である。

 次は、失言や悪ふざけでの被害だ。回転寿司店で他の客と共用する醤油さしなどに口を付けたり、他の客が食べるであろう寿司に唾液を付けるなどの動画が拡散された。営業妨害行為が話題になり、次から次へと模倣犯も出てきた。その挙句、ホームレスの女性に「好きなものを買ってあげる」とコンビニへ連れて行き、店内で放置して笑うという無慈悲な動画までも生まれた。これらは、デジタルタトゥーの影響を軽視した結果、刑事罰に発展した例である。

 過去の失敗などが暴露された件では、ある男性の逮捕歴・前科に関する情報が、本人は罰金刑を受けて反省しているにもかかわらず、実名で何度もSNSで公開された。これに関して、報道機関は元の記事を削除したものの、SNS側で削除をするかどうかは、事件の状況や罪の重さ、世間への影響を考慮されなければならないと主張。最終的には最高裁で、投稿の削除が命じられたが、既に、事件から10年もの月日が経っていた。

 フェイクニュースの例では、2023年、米国で独立記念日の直前の6月末に、「バイデン大統領死亡説」がツイッターで流された。日本語のみで、米国在住者や英語で検索する人にはすぐに嘘だとわかるが、ツイッターだけを見て真実かどうかわからないままに、拡散された。

その他、元交際相手や配偶者への復讐を目的として、私的かつ性的な画像や動画をインターネット上で拡散するリベンジポルノも、デジタルタトゥーの大きな被害である。

Photo by Austin Distel on Unsplash

 デジタルタトゥーに含まれる情報は、個人、組織、さらには政府によっても、追跡や、保存、分析されてしまう。特に、SNSで登録されている個人情報は無料で見放題である。

例えば、Facebookでは出身校や勤務歴、過去の居住地や家族関係、Instagramでは子どもや自宅周辺の写真が公開されることもある。また、密接な友人とのメッセージでは、一般に公開しないようなプライベートな内容の会話や写真のやり取りがされる。これらの情報が、教育やキャリア形成、結婚や離婚など、人生の転機という重要な場面で評価基準になることもある。

 逆に、個人を攻撃した当人が、自分の残したデジタルタトゥーで危険な目に遭った例もある。Twitterで、ある男性が、ある女性がデザインした商品について、他社の類似品であるなどとあからさまな侮辱と営業妨害をし、他の人へ見えるように投稿した。ツイートは次から次へと拡散され、同内容の投稿も便乗するように出始めた。女性は弁護士を雇い、それらのツイートを証拠に男性を特定。勤務先を知られた男性は、慌てて謝罪した。本名と顔写真のアイコンで活動していた女性に対し、男性は匿名でイラストアイコンのみ。まさか、個人を特定されるとは思わなかっただろう。

後編に続く――。

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