「渋谷横丁」「恵比寿横丁」の仕掛け人に聞く | 人が集まる場づくりの極意
オンライン/オフラインを問わず、人を引きつける魅力的な場にはどのような要素が必要なのだろうか。
「恵比寿横丁」の仕掛け人として知られ、昨年オープンした「渋谷横丁」をプロデュースするなど、独創的な手法で飲食業界をリードし続ける浜倉好宣さんに、人が集まる場づくりのヒントを聞いた。
──浜倉さんが重視している飲食店プロデュースのポイントを教えてください。
街の個人鮮魚店のリスタートに端を発した浜焼酒場から始まり、築40年のシャッター街を酒場街に再生した「恵比寿横丁」、渋谷の新たなランドマーク「MIYASHITA PARK」内に昨年オープンした「渋谷横丁」などを手掛けてきました。根底にあるのは、衰退しつつある古き良き酒場文化を次世代に蘇らせたいという思い。恵比寿横丁のように物件の出会いから自発的に進めたプロジェクトもありますが、横丁プロデュースについては、基本的には多方のデベロッパーさんからプロジェクトのお話を頂いて、立地や規模によってストーリーや表現を変えていくという案件がほとんどです。
プロデュースのポイントは「個性を重視したキャスティング」と「そこにしかない空気の醸成」です。最初に手掛けた浜焼酒場は、魚の知識と技術に長けたオヤジとその娘が営む店というコンセプトがウケて、オヤジ世代と若い世代の両方を取り込むことに成功しました。そこから世代を超えた交流が生まれ、活気と温もりにあふれた居心地のいい空間として定着していきました。お店や空間は人がつくり出す生き物です。だからこそ、そこにいる人たちが生き生きとしていなければ、魅力的な場にはなりません。
──立地によってどのように表現を変えているのでしょうか?
酒場文化とコミュニティの継承と再生という共通のコンセプトはありますが、恵比寿、有楽町、渋谷といった特徴の異なるマーケットでは自ずとテーマ設定も変わってきます。
「恵比寿横丁」がオープンした2008年当時、恵比寿には老若男女が集える場所がありませんでした。狭い空間の中で自然と世代を超えた交流が生まれ、常ににぎわっている。そんな地域のコミュニティを目指したのが恵比寿横丁です。酒場文化を残したいとはいえ、新宿西口の「思い出横丁」のような昔からの常連さんが集う横丁にいきなり行くのはハードルが高いもの。いずれは本物の横丁にも通えるよう、まずは人工的な横丁で場慣れする。そんな感覚で楽しんでもらえるといいですね。
有楽町・銀座エリアは数多くのアンテナショップが集まっていますが、その中で食事ができる店は意外と少ない。そこで、生産者直結の産直食材を食べたい都心消費者と都心消費者にPRしたい生産者をつなぐ、日本各地の産地直送食材を気軽に食べられる場として「有楽町産直横丁」をプロデュースしました(オープン時(2010年)の施設名は「有楽町産直飲食街」。2019年12月に耐震補強工事による建直しでリニューアルオープン)。地方自治体や生産者を招いたイベントなどを定期的に開催することで、人が人を呼ぶ好循環を生み出しています。
「渋谷横丁」も日本全国の食文化が一堂に会する場で、有楽町での実績と生産者さんとのつながりがあったからこそ実現できたものです。渋谷横丁は区画が大きく、恵比寿横丁のような密接な空間づくりはできないため、対照的に「イベント」「情報発信」「体感型」をテーマにしたエンタメ性の高い場を目指しています。生産者直の「毎日がフェス!」をテーマに、日本各地の祭りのほか、DJイベント、大道芸によるパフォーマンスなど、一見すると横丁とは結びつかないようなフックも数多く仕掛けることで、偶然の出会いや新たな楽しさの発見といった音楽フェスのような魅力も生み出しています。
場はつくって終わりではなく、そこからが勝負です。オープン時点では未完成で、「こんな感じかな」から始めて、マーケットの反応をチェックしながらブラッシュアップしていく。そうしなければ、地域に根差す場、長く愛される場にはなりません。今はユーザーにとっての選択肢が数多くある時代。その中で流行る要因を一言で表すことはできませんが、勝ち残っていくには、目立たなくてもいいので、そのマーケットで“なくてはならない存在”を目指してやり続けるしかありません。これは飲食業だけではなく、エンタメの世界にも通じることだと思います。
──“なくてはならない存在”になるためには何が必要でしょうか?
僕が意識していることは2つあります。
一つは、それぞれのフィーリングにマッチする場を提供すること。
年齢やシチュエーションによって好みや欲求が変化することで、居心地よく感じる場も変わっていきます。卒業して次のステージへと移るように、テーマの異なる場が複数あることでニーズに合わせた選択が可能になる。同時に、場から場へ人が流れていくことで、途切れることなく世代がつながって、自然と循環していくようになります。
もう一つは、支持してくださる人の声を大事にすること。
すべての人に受け入れられることは不可能です。では、どうするか。7割の人に何を言われようとも、3割の支持してくださる人の声を大事にするのです。野球で例えると打率3割のバッターが優秀なように、3割の支持は大きなもの。SNSが普及した今の時代は7割の否定的な意見を気にしがちですが、すべての意見に合わせようとすればするほど個性は弱まってしまいます。だからこそ、必要としてくださる人に応えてブレずに振り切る。
その場でしか会えない魅力的な人がいる。その場でしか体感できない特別な雰囲気がある。だからこそ、お金を払って行く。何でも便利にできる世の中だからこそ、リアルな場、オンラインの場、どちらにおいても体験の価値がいっそう高まっていくと思います。
■PROFILE■
株式会社 浜倉的商店製作所 代表取締役 総合プロデューサー
浜倉好宣(はまくら よしのり)
1967年横須賀生まれ、京都育ち。
経営難の鮮魚店や水産仲卸を再生した「浜焼き酒場」「鮮魚酒場」や、シャッター街や老朽ビルをコミュニティ拡がる酒場街へ生まれ変わらせる「横丁」プロジェクトの直店展開および、プロデュースを手掛ける。
公設市場の再生と個性派飲食人の企業環境の創造を果たした「恵比寿横丁」や、飲食店と生産者、自治体の架け橋「有楽町産直横丁」など運営する。2009年外食産業記者会主催「外食アワード2009 中間流通・外食支援事業者賞」受賞。「外食アワード2020アワード外食事業者部門」受賞。2021年4月日本居酒屋協会会長就任。
https://www.hamakura-style.com/
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Writer:龍輪剛