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【ネクタイのない文筆家】第2話


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ある日の夜、実嗣はノートPCの画面を見つめていた。
頬杖をつきながら、彼が気ままに更新しているブログページの閲覧数や各記事の反応を静かに眺める。

実嗣は組んでいた足首をグルグルとまわしながら、目の下の頬を少し掻く。
最近は何か書きたいと思いながらも、言葉が湧き上がってこないのが悩みの種だった。
昔はもっと自分の中に浮かんだものを言葉にするのは容易かった気がする。
剣と魔法の世界で冒険する話も、なんてことない日常生活を書くのも。自分の中で書きたいテーマも決まっていたし、どんな展開にしようかなんて考えるだけで心が弾んだ。
が、今は実体験に基づくものしか書けない自分に戸惑っていた。

いつもの喫茶店で食べるスイーツの備忘録なんかは書きやすい。
その時の事実や自身が感じたことを率直に並べていけばいいのだから。

ただ、実嗣の書きたいものはその実、短編小説だった。
一瞬で読み手を引き込むような文章が書いてみたい、
昔読んだSSのような、気負わずに読めてそれでも人の心を惹きつけてやまないものが。

そうしてたまに投稿している短編小説と、気まぐれに投稿するスイーツ記録の閲覧数を見ると、断然スイーツ記録の方が数が多いのであった。

俺はもう自分の力で何かを創り上げることはできないんだろうか。
そんな不安が胸を過る。
もういっそ、カフェブロガーとしてこの先名乗っていった方がいいのか?

ダッシュボードの数字を見ているのがだんだん嫌になり、実嗣は冷蔵庫の牛乳を取りに立ち上がった。


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