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女より男はワインに詳しい?

「あの、その金のぶどうのバッジって、何のバッジなんですか?」

 そう私に聞いてきたのは、先程、ワインを選ばれていたところを接客した、女性のお客様だった。

「ソムリエバッジですよ」

 とお答えした。本当はワインエキスパートだからソムリエとは呼び方が違うのだが、同じ有資格者だし、実質中身は一緒だ(ソムリエは、受験のためにワイン関係の仕事に勤続年数がある程度必要なのと、エキスパートは抜栓の試験が無いだけである。知らない方に説明するとややこしい上に面倒だし、そう言わせて頂いている)
 私は地方のとあるワイナリーに勤めていて、ショップでワインを販売している。観光ワイナリーの側面が強い私の職場は、金のぶどうのバッジの意味を知らないお客様も、そりゃあ、おられる。なので、今回みたいに金のぶどうのバッジの正体を聞かれることは、別に珍しくない。
 ただ、今回その女性のお客様は私の答えを聞いて、ちょっとびっくりした顔でこう言った。
 
「あら、だからお詳しかったんですね。失礼しました」

 この答えの真意は、おそらくこう。

「女の人なのにやけにワインに詳しいと思ったら、ソムリエさんだったのね。変なこと聞いちゃったわ」

 みたいな感じだろうか。時々似たようなことを、実は聞かれる。こないだ、男性のお客様にワインの説明をしたら「お姉さん、ワインに詳しいんですね」と感心して、なおかつ驚いたように言われた。店員なのだから、ある意味当たり前なのだが。資格が無くても、ある程度の商品知識はあって当然だ。
 先に言っておくが、このお客様達に対して何か思うところは全くない。ただ、この質問は私がもし男だったら、おそらくされなかっただろうな、という話。
 たぶん、金のぶどうのバッジをつけていてもつけていななくても、男性店員が詳しくワインの説明をしたら、彼らにそんな感想は出なかったはずだ。うちにバイトに来ている大学生の男の子たちでさえ、売り場で接客していて「あなた、ワインのことに詳しいのね」なんてお客様から不思議そうに言われたことはない(ただ、うちの今のバイトくん達が優秀だし接客も上手だから、バイトだと思われてないだけかもしれない。)
 私ではないが、以前にうちの別の女性店員が年配のお女性の客様から、まともに話す前に「ねえ、ワインに詳しい男の人呼んでくださる?」と言われたことがあるらしい。これはあからさまが過ぎるが、実はお客様を見てると、自分から話しかけようとして、わざと男性の店員に声をかける率が、実は高い。何年かして、なんとなく気づいたが、真実だ。
 こないだ「アンコンシャス・バイアス」と言う言葉を知った。無意識の偏見や思い込みのことだ。男だからこうに決まってる、女だからしないだろう、といった他者に対しての偏った判断のことらしい。
 まさしくこれだな、と思う。店でワインを売っているにも関わらず「女の店員」というだけで「ワインには詳しく無さそう」という無意識の判断をされるわけである。
 けれど、私にだってありえることだな、と思った。同い年の同僚女性にこのことを話したら、彼女は「私だって、家電量販店行ったら男の店員さん無意識に探しちゃう。別に悪気ないけど、人ってそういうもんだよね」と言っていた。確かに。

 ただ、おかしな話だ。ワインを買う層は、実は見ていると女性の方が多い。ワインスクールのデータを見ても、ソムリエ講座でソムリエやワインエキスパートを受験する人たちは、女性比率が6〜7割くらいだと書いてあった。

 なのに、ワインを売る、またはサービスする側は男の人だという思い込みが、人々にはある。

 ま、こういう問題も、何年もしたら徐々に時代の変化で解決してくれるかな、と思いつつ。

 私は今日も金色をしたぶどうのバッジをつけてお店に立っている。

 

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