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「滝への新しい小径」の読書感想文

レイモンド・カーヴァー著、村上春樹訳「滝への新しい小径」を読みました。同著者の「ファイアズ(炎)」には彼に大きな影響を与えたジョン・ガードナーの教えに「土地(ground)」と「大地(earth)」の違いがありました。

It means ground, dirt, that kind of stuff.  But  if you say  “earth“ that's something else,  that word has other ramificatons.
それ(土地)が意味するものは土地であり、土くれだ。 でも君が大地と言うとき、それは何か別のものだ。それは違った支流を持っている言葉なのだ。
村上春樹訳「ファイアズ(炎)」より

小説よりも言葉の少ない詩において彼の言葉の選択の鋭さが発揮されているように思います。
「飲んだくれの英雄」と「飲んだくれの失業者」、同じ飲んだくれでも背負った責任の大きさは違えど、似たような道程を辿る。
「家族が揃っているキッチン」と「未知の人物がいるキッチン」、そのキッチンに踏み込む前の僕は大人への階段を昇り始めた少年らしい行動をする。少ない言葉で多くを語り、読者に登場人物の複雑な気持ちを想像する楽しみを残す余白をしっかりと残している。小説で発揮されている魅力は詩でも健在です。
特に印象的なのは著者の詩との出会いを描いた散文です。
「始めてのギターはお母さんの財布にあったお金を無断で拝借して買った。」
「高校を中退した時に祖母からプレゼントされたギターは弦が2本しかなかった。」
始めての○○○には印象的なエピソードが多くあります。この著者の詩との出会いも「学歴が喉から手が出るほどほしかった」著者らしい、印象的な出会いが乾いた文章で説明されます。
この本を読んでいる途中で英語の講師に「アメリカでは詩集を読むことは広く浸透しているのか?」聞きました。
彼の答えは「詩を読む習慣は愛好者だけのもので、小説の愛読者より遥かに少ない。」でした。
同席した生徒からは「詩には難解なイメージがある」と言っていました。
大ヒットドラマの面白く、興味深い考察文でヒロインとそのライバルが難解な詩集の話題から互いの距離を縮めるらしい場面ががあると説明していていました。難解な事は必ずしも楽しむ事の妨げには成らないだろうと思います。
タイトルの「滝への新しい小径」(原題:A  new  way to  the waterfall)の正確な意味は不明です。しかし、小径(path)には小道、わき道、動物たちが通る獣道、そんな意味も含まれているように思います。この本は小説と詩の間をつなぐ小径になる。そして、楽しく迷い道にハマりりうるそんな作品だと思います。
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