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「象」の読書感想文

レイモンド・カーバー著、村上春樹訳「象」をよみました。
この作品は前作「大聖堂」でそれまでの作品とは違う事に挑戦した作者が更に違う手法に果敢に挑戦した作品だと思います。
前作では緻密で隙のない作風でした。登場人物を取り巻く状況が細かく描写されていました。
この作品「象」では遠く離れた場所で生活しているか?完全に未知の人物からの急な連絡で語り手の人物も読者と同じように戸惑います。
引っ越し魔の母親を持つ男の物語、未知の人物からの真夜中の電話、経済的に困窮する家族に悩まされる男の物語。そして、妻からの謎のメッセージで始まる「ブラック・バード・パイ」。この短編は妻からの謎のメッセージで始まり、語り手とその妻は霧の深い夜にひとつ屋根の下に居ながらコミュニケーションが上手く取れない。そこに予想外の来客があり、更に謎は深まる。主人公は謎だらけの状況を独自の論理で自分に納得させる。しかし、読者には謎が謎のままで理解が追いつかないながらも最後までそんな彼らにお付き合いするそんな作品だと思います。
最終話の「使い走り」はチェーホフの最期を描いています。実在の資料を用いて描いているのでしょう、チェーホフが宿泊したホテルのボーイの発言や行動などは作者の創作だと思います。それにより全ての登場人物に出番があり、スポットライトが当たらない登場人物はいない。そこまでは以前の作品の特徴と似ています。この作品は歴史小説に近いように思います、これまでのカーバーの作品とは明らかに違います。
カーバーの以前の作品では「主題」或いは「オブセッション(執着)」はある程度は予想することが可能な作品が多いように思います。この作品「象」ではそれすら深い霧の中にあるように思います。描写が丁寧なのでベッドルー厶、リビング、その他の場所なのかは読者は容易に想像できる。しかし、頭の中に浮かんだイメージには暗闇や未知の部分が必ず存在するからそれぞれの作品から離れられなくなる。いつも通りにカーバーの手の内にしっかりと捉えられました。次作では死期を悟った作者は体力的な問題から詩集として最後の作品を残します。そちらにも短編に再構成してもらいたい作品がありました。幻になってしまった次作にどうしても期待したくなる作品でした。
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#村上春樹
#休日のすごし方

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