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月に1冊ディックを読む➈「ジョーンズの世界」

今年の1月から毎月1冊、ディックの長編を読んでブログに書くことにしています。5月が連休のために2冊書いたので、8月で9冊目です。ディックは高校から大学にかけて読みふけったSF作家の1人です。凄く自分の価値観に影響を与えているのか、価値観が近いから読みふけったのか…。「ユービック」「火星のタイムスリップ」「パーマー・エルドリッチの三つの聖痕」「流れを我が涙、と警官はいった」「宇宙の操り人形」「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」「時は乱れて」「偶然世界」の次に選んだ9冊目がコチラです。初期の作品になります。

【原題】「THE WORLD JONES MADE」

【読んだ邦訳本】創元推理文庫696-6 小尾芙佐 1990年11月9日発行

【この作品が書かれた年】1955年

【この作品の舞台】2002年

【この作品の世界に存在する未来】<避難所>、人工キノコ、連邦世界政府、優越種のミュータント、ジョーンズの<青年行動隊>、<ヴァン>、ジョーンズ登場以前の時代、ホーフの相対主義、全世界的な食糧配給システム、亜人間・変種人間、個人の占いはお断りの占い師、<漂流者>、惑星外パトロール、全自動迎撃空雷、異星生命体による侵略、プロクシマ・ケンタウリへの探検船、複数価値観システム、ホーフの著作、愛国者連盟、金星環境を整えた避難所、金星の海綿生物、機械仕掛けの金星動物、金星用ミュータント、<星間十字軍>、金星人、非金星人、高度な植物状生命体の花粉、<大変動>、機動戦闘部隊、

「偶然世界」に続く長編に2作目、「宇宙操り人形」は執筆済だが出版されていなかったとのことで実質的はに3作目。やはりなんとなく似てますね、この頃の作品。

主人公である保安警察の秘密捜査員であるカシックがカーニバルで不思議な占い師に出会います。「個人の占いお断り」、人類の未来のみを占う妙な男がジョーンズです。ジョーンズには1年後の未来がわかります。これは恐ろしいことで、今と1年後の未来を同時に生きていることに他なりません。嬉しいことも辛いことも、2度体験することに他なりません。1年後の未来が見えるからといって、それを利用して未来を変えることはできないので、粛々と一度みた世界を生きなおすのです。おそらくジョーンズの日々は苦悩の日々です。しかし、そんなジョーンズのもとに人は集まります。愛国者連盟と呼ばれる組織は、<青年行動隊>などの活動部隊も備え、連邦世界政府の立場を脅かす存在になっていきます。

そしてサイドストーリー。ジョーンズが台頭するのと時を同じくして、太陽系に<漂流者>と称される謎の存在が飛来してきます。大量にそして静かに飛来する<漂流者>は、地球上のそこここに何の活動をするでもなく、舞い降ります。物語の終盤にこれは高度な植物状生命体の花粉なのだという事実が判明します。

もう一つのサイドストーリーから物語は始まります。<避難所>と呼ばれる場所に集められたミュータントたち。彼らが生きていくことに適した生活環境が人工的に創られ、そこで彼らは人生を過ごします。終盤には世界連邦政府が彼らを金星に送り、彼らは金星ネイティブの金星人として生きることになります。彼らの次世代は完全に金星に適応します。物語の最後の最後にカシック・ニーナと子供の3人が金星に到着し、<避難所>を構築し地球と同レベルの環境の中での生活を始めます。

ジョーンズの設定が、最初はSF的だなというだけの感想だったのが、よくよく考えるとつらく切ない話なのかもと感じたり、妙に人物描写をしっかりとしているくだりがあったり、紹介した以外にも細かいサイドストーリーが走ったり、映像的にも訴えてきたり、1950年代の世相を感じたり、そして何よりSF的ガジェットも満載だったり。いろいろと楽しめて読める作品です。

「怖かったからさ。どうしていいか、わからなかった。なかでもいちばん恐ろしかったのは、選択の余地がまるっきりないことだった。」1年後の未来がわかるというのは、こういうことなんでしょうね。

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