見出し画像

「キャリアコンサルタント倫理綱領」改正内容を整理してみました

キャリアコンサルタントの倫理綱領が昨日(2024年1月1日)付けで改正されました。年末に予告メールまで入り、また、改正内容についてはいろいろな事前情報や噂もあり、とても楽しみにしていました。新年最初のnoteの書き込みとして、この倫理綱領の改正について整理してみたいと思います。まず、改正の趣旨ですが、これは新しい「序文」にあります。

時代の変化に伴い、新しい働き方の拡大とその実現のため、社会をリードするキャリアコ ンサルタントへの期待は更に高まり、社会的責任も増しています。多様な相談者や組織から の求めに応えるため、キャリアコンサルタントには、倫理観と専門性の維持向上が必要不可欠です。加えて自らの人間性を磨き、矜持と責任感を持ち、自己研鑽に励むことが何よりも 重要です。 特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会は、キャリアコンサルタントの使命・ 責任の遂行、能力の維持向上、社会インフラとしてのキャリアコンサルティングの普及・促進 に会員団体と共に取り組んでおります。この使命を果たすため、キャリアコンサルタント及び キャリアコンサルティング技能士が遵守すべき倫理綱領をここに改正します。 本倫理綱領が、キャリアコンサルティングに従事する全ての方々の日々の活動の指針・ 拠り所となることを期待します。

なかなか気持ちが伝わってきてシンプルでよい前文ですね。さて、何が変わったのか見て行きましょう。今回は、守秘義務・多重関係・組織との関係性あたりが注目事項どしたが、意外と全体に渡って変更されています。まだまだ読み込みが足りませんが、一通り感じたことを整理してみました。新綱領は全文引用しましたが、旧綱領の方は細かくは引用してませんので、お手元に旧要領をご用意いただいてお読みいただけるとわかりやすいかと思います。

【前文】
本倫理綱領では、キャリアコンサルタントが、職業能力開発促進法に則り、労働者の職業 の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導 を行い、使命である相談者のキャリア形成の支援と、その延長にある組織や社会の発展へ の寄与を実現するために、遵守すべき倫理を表明する。 本倫理綱領では、第 1 章をキャリアコンサルタントとしての基本的姿勢・態度、第 2 章を 行動規範として明示している。全てのキャリアコンサルタントは、本倫理綱領を遵守すると共 に、誠実さ、責任感、向上心をもって、その使命の遂行に励むものとする。

序文以外で言及のなかった根拠法である「職業能力開発促進法」が明記されています。また、内容は変わりませんが、私たちの使命の書き方が少し変わりました。「労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行い」、「使命である相談者のキャリア形成の支援と、その延長にある組織や社会の発展へ の寄与を実現する」とあるとおり、「組織や社会の発展への寄与」が私達には求められているのです。キャリアコンサルタントの仕事って、素敵な仕事じゃないですか。

【第1章 基本的姿勢・態度】
【第1条 基本理念】

キャリアコンサルタントは、キャリアコンサルティングを行うにあたり、人間尊重を基 本理念とし、多様性を重んじ、個の尊厳を侵してはならない。
2 キャリアコンサルタントは、相談者を人種・民族・国籍・性別・年齢・宗教・信条・心 身の障がい・文化の相違・社会的身分・性的指向・性自認等により差別してはなら ない。
3 キャリアコンサルタントは、キャリアコンサルティングが、相談者の人生全般に影響 を与えることを自覚し、相談者の利益を第一義として、誠実に責任を果たさなけれ ばならない。

第1項に「多様性を重んじ」の文言が加わりました。それにつながりますが、第2項には第3条の第2項にあった差別の件が移されました。第3項には旧綱領の第3条にあった「相談者の利益を第一義として」が移ってきたのとともに、少し表現が変わっています。

【第2条 品位および矜持の保持】
キャリアコンサルタントは、キャリアコンサルタントとしての品位と矜持を保ち、法律 や公序良俗に反する行為をしてはならない。

「誇り」が「矜持」に変わりました。うーん、「矜持」。難しい言葉です。サイトでいろいろみてみましたが、Dmaniというサイトの表現がしっくりきました。『確固たる信念のもと、自らに誇りを持つこと」や「誇りと自尊心によって自分の行動を抑制すること」を意味する言葉です。矜持が象徴する自信や誇りは、他者との比較の上に成り立つ相対的なものではありません。周囲がどうであろうとも、自分は自分を認めるという、絶対的なスタンスを表すものです。たとえ周囲に自分よりも優れていると感じる人物がいたとしても、自分を卑下したり引け目を感じたりすることなく、自分自身を誇る気持ちが「矜持」です。とあります。
その語源としては、『矜持の「持」は、「保有すること」「保つこと」を意味する言葉です。「矜」と「持」のそれぞれの意味が組み合わさることで、矜持は「誇りを持つこと」を表す熟語となっています』とありました。単なる誇りを超えた、プロフェッショナルとしての信念を感じる言葉です。流行らせましょう、「矜持」。

【第3条 社会的信用の保持】
キャリアコンサルタントは、常に公正な態度をもって職責を果たし、専門職として、 相談者、依頼主、他の分野・領域の専門家や関係者及び社会の信頼に応え、信 用を保持しなければならない。

「信頼の保持・醸成」が「社会的信頼の保持」になりました。旧第2項は第1条第2項に、旧第3項は第1条第3項に趣旨を移して、結果として第3条はシンプルになった感じです。私達が専門職として、信頼に応えなければいけない存在であることを明確にしています。頑張りましょう。

【第4条 社会情勢の変化への対応】
キャリアコンサルタントは、個人及び組織を取り巻く社会・経済・技術・環境の動向 や、教育・生活の場にも常に関心を払い、社会の変化や要請に応じ、資格の維持 のみならず、専門性の維持向上や深化に努めなければならない。

新規項目です。旧第4条「自己研鑽」の第2項が移設されて、表現を強化して独立させた感じでしょうか。まさに、変化の大きな今だからこそ求められることだと思います。「社会・経済・技術・環境の動向 や、教育・生活の場」と対象は広いですね。また、「資格の維持 のみならず、専門性の維持向上や深化に努めなければならない」といいフレーズがあります。これを引用して養成講座の授業でも使えますね。ここは今までなかった踏み込んだ表現です。資格取得がゴールであってはいけないと伝えやすくなります。

【第5条 守秘義務】
キャリアコンサルタントは、業務並びにこれに関連する活動に関して知り得た秘密 に対して守秘義務を負う。但し、相談者の身体・生命の危険が察知される場合、 又は法律に定めのある場合等は、この限りではない。
2 キャリアコンサルタントは、キャリアコンサルティングにおいて知り得た情報により、 組織における能力開発・人材育成・キャリア開発・キャリア形成に関する支援を行 う場合は、プライバシーに配慮し、関係部門との連携を図る等、責任をもって適切 な対応を行わなければならない。
3 キャリアコンサルタントは、スーパービジョン、事例や研究の公表に際して、相談 者の承諾を得て、業務に関して知り得た秘密だけでなく、個人情報及びプライバ シー保護に十分配慮し、相談者や関係者が特定される等の不利益が生じること がないように適切な措置をとらなければならない。

今回の改正の本丸とされる箇所ですね。守秘義務の対象が旧綱領の「キャリアコンサルティングを通じて、職務上知り得た事実、資料、情報」から、「業務並びにこれに関連する活動に関して知り得た秘密 」に変わりました。予告されていたとおりですが、これは大きな変化です。「職務上知り得た事実、資料、情報」では面談の場でのすべてのことが守秘義務対象になります。しかし、「知り得た秘密 」というのは、秘密でないことは守秘義務の対象外となるということです。さて、ここで難しいのは何が「秘密」であるかです。これはこれからいろいろな議論がされて整理されていくことかと思います。少し、人事面談の守秘義務のイメージに近づくようになっていくのではないでしょうか。
そして、第2項は新規項目です。「キャリアコンサルティングにおいて知り得た情報により、 組織における能力開発・人材育成・キャリア開発・キャリア形成に関する支援を行 う場合は」とありますが、まず大切なのは、これらがキャリアコンサルタントの基本的な業務であることが前提となっていることです。嬉しいですね。また、「プライバシーに配慮し、関係部門との連携を図る等、責任をもって適切 な対応を行わなければならない」とありますが、プライバシーに配慮しつつも、積極的に人事をはじめとした組織との協業を「行わなければならない」とまで踏み込んでいます。なかなかわくわくする改正です。
第3項では「キャリアコンサルタントの事例や研究の公表」に加えて、「スーパービジョン」が対象に入りました。第6条の自己研鑽のところでも「スーパーバイザー」が明記されています。大きな流れですね。

【第6条 自己研鑽】
キャリアコンサルタントは、質の高い支援を提供するためには、自身の人間としての成長や不断の自己研鑽が重要であることを自覚し、実務経験による学びに加 え、新しい考え方や理論も学び、専門職として求められる態度・知識・スキルのみ ならず、幅広い学習と研鑽に努めなければならない。
2 キャリアコンサルタントは、情報技術が相談者や依頼主の生活や生き方に大きな 影響を与えること及び質の向上に資することを理解し、最新の情報技術の修得に 努め、適切に活用しなければならない。
3 キャリアコンサルタントは、経験豊富な指導者やスーパーバイザー等から指導を 受ける等、常に資質向上に向けて絶えざる自己研鑽に努めなければならない。

第4条から第6条に移ってきました。第1項は激しいですね。「自身の人間としての成長や不断の自己研鑽が重要」と人間としての成長までが求められています。「あり方」の世界に近づいていますね。継続学習として、「実務経験による学びに加 え、新しい考え方や理論も学び、専門職として求められる態度・知識・スキルのみ ならず、幅広い学習と研鑽」と極めて広いことを求めています。それらはいずれも「質の高い支援を提供するため」に必要なことなのです。
第2項では、「情報技術」が取り上げられています。少し唐突感がありますが、生成AIなんかの発展をみると他人事ではありません。養成講座のテキストにあるクライアントの第1応答を生成AIに応えさせてみたりすると、なかなか興味深いレベルにまで来ています。
第3項では、旧要領では「上位者から指導を受ける」とあったのが、「経験豊かな指導者やスーパーバイザー」という言葉に置き換わっています。第5条のスーパービジョンとともに、スーパーバイザーやスーパービジョンが当たり前に語られるようになりました。

【第7条 信用失墜及び不名誉行為の禁止】
キャリアコンサルタントは、キャリアコンサルタント全体の信用を傷つけるような不名 誉となる行為をしてはならない。 2 キャリアコンサルタントは、自己の身分や業績を過大に誇示したり、他のキャリアコ ンサルタントまたは関係する個人・団体を誹謗・中傷してはならない。

旧綱領の「第6条 誇示、誹謗・中傷の禁止」が、この第7条の第2項になり、第1項が新設されてタイトルを大きく意味拡大して新第7条ができました。第1項では「キャリアコンサルタントは、キャリアコンサルタント全体の信用を傷つけるような不名誉となる行為をしてはならない」としています。まさに専門家としての倫理綱領だと思います。私達がクライアントから信頼されているのは、私達個人が信頼されているからだけでなく、キャリアコンサルタントという専門家としての信頼がベースとして得られているからです。プロフェッショナルとしての自覚をもって、責任をもって行動する必要があるのです。

【第2章 行動規範】
【第8条 任務の範囲・連携】
キャリアコンサルタントは、キャリアコンサルティングを行うにあたり、自己の専門性 の範囲を自覚し、その範囲を超える業務や自己の能力を超える業務の依頼を引 き受けてはならない。
2 キャリアコンサルタントは、訓練を受けた範囲内でアセスメントの各手法を実施しなければならない。 
3 キャリアコンサルタントは、相談者の利益と、より質の高いキャリアコンサルティング の実現に向け、他の分野・領域の専門家及び関係者とのネットワーク等を通じた 関係を構築し、必要に応じて連携しなければならない。

旧綱領の第1項の「専門性」と第2項の「能力」をあわせて、「自己の専門性 の範囲を自覚し、その範囲を超える業務や自己の能力を超える業務の依頼を引 き受けてはならない」と第1項で1つの項目として表現しています。
第2項はアセスメントに個別に言及しました。gcdfの倫理綱領にはありましたが、キャリコンとしては新規ですね。
第3項は少し表現が踏み込んでいます。ネットワークの構築の目的が「相談者の利益のために」が「相談者の利益と、より質の高いキャリアコンサルティング の実現に向け」となり、やるべきことが「他の分野・領域の専門家の協力を求める」が「他の分野・領域の専門家及び関係者とのネットワーク等を通じた 関係を構築し、必要に応じて連携」になりました。ネットワークの構築が重要であることがはっきりと書かれています。また、「必要に応じて……最大の努力をしなければならない」が「必要に応じて連携しなければならない」と変わりました。努力義務が義務に変わったということです。

【第9条 説明責任】
キャリアコンサルタントは、キャリアコンサルティングを行うにあたり、相談者に対し て、キャリアコンサルティングの目的及びその範囲、守秘義務とその範囲、その他 必要な事項について、書面や口頭で説明を行い、相談者の同意を得た上で職責を果たさなければならない。
2 キャリアコンサルタントは、組織より依頼を受けてキャリアコンサルティングを行う場 合においては、業務の目的及び報告の範囲、相談内容における守秘義務の取扱い、その他必要な事項について契約書に明記する等、組織側と合意を得た上 で職責を果たさなければならない。
3 キャリアコンサルタントは、調査・研究を行うにあたり、相談者を始めとした関係者 の不利益にならないよう最大限の倫理的配慮をし、その目的・内容・方法等を明 らかにした上で行わなければならない。

大幅改定箇所です。もともとは1項構成だったものが3項構成に拡充されました。第1項は旧綱領のスライドです。ただ、結構、細かく変わっています。「守秘義務」とあったのが「守秘義務とその範囲」となりました。これは、第5条で守秘義務の対象の変更があったことを受けているのだと思われます。単に「説明を行い」とあった部分が「書面や口頭で説明を行い」になりました。また、「相談者の理解を得た上で職務を遂行しなければならない」が「相談者の同意を得た上で職責を果たさなければならない」になりました。得るのは「理解」ではなく、明確な「同意」です。ここも大きな変化ですね。
そして、第2項です。組織との関係性における説明責任が新設されました。まさに今のキャリアコンサルタントに求められることを反映しています。「必要な事項について契約書に明記する等、組織側と合意を得た上で職責を果たさなければならない」と、「契約書への明記」と「合意」の概念が入っています。組織をクライアントにするのですから、当然のことです。
第3項は、「調査・研究を行うにあたり」の場合の説明責任についての話で、ここも新設になります。

【第10条 相談者の自己決定権の尊重】
キャリアコンサルタントは、相談者の自己決定権を尊重し、キャリアコンサルティン グを行わなければならない。

旧綱領第9条の番ズレです。表記は変わりましたが、基本的な趣旨は変わっていないと思います。「相談者の自己決定権」の尊重の重要性を1つの条を割いてきちんと伝えてくれています。これも養成講座での指導に使いやすい項目です。

【第11条 相談者との関係】
キャリアコンサルタントは、相談者との間に様々なハラスメントが起こらないように配 慮しなければならない。またキャリアコンサルタントは、相談者との間において想定される問題や危険性について十分に配慮し、キャリアコンサルティングを行わなければならない。
2 キャリアコンサルタントは、キャリアコンサルティングを行うにあたり、相談者との多重関係を避けるよう努めなければならない。自らが所属する組織内でキャリアコン サルティングを行う場合においては、相談者と組織に対し、自身の立場を明確にし、相談者の利益を守るために最大限の努力をしなければならない。

旧綱領第10条からの番ズレです。ここも今回の改定でどうなるんだろうと注目していた箇所です。
第1項は微妙な表現の変更のみです。
そして、問題は第2項です。旧綱領は最初の1文だけでした。これに重要な内容が加わります。つまり、「自らが所属する組織内でキャリアコン サルティングを行う場合」についての表現です。これで困ったり、悩んだりしていた人・組織は数多くいたと思います。
「相談者と組織に対し、自身の立場を明確にし、相談者の利益を守るために最大限の努力」をすることによって、多重関係となってもキャリアコンサルティング行為が可能だとされたのだと理解してよいでしょう。これは組織支援が私達の主要な役割になっていくにあたり、絶対に改正してもらわないと困る項目でした。ただ、「自身の立場を明確にし」「相談者の利益を守るために最大限の努力」とは具体的にどうあるべきなのかは、各現場現場でこれから真剣に考えなければいけません。

【第12条 組織との関係】
組織と契約関係にあるキャリアコンサルタントは、キャリアコンサルティングを行うにあたり、相談者に対する支援だけでは解決できない環境の問題や、相談者と組織 との利益相反等を発見した場合には、相談者の了解を得て、組織に対し、問題の 報告・指摘・改善提案等の調整に努めなければならない。

旧綱領第11条の番ズレです。ここももっと書き込まれるかもなと思っていたのでちょっと拍子抜けです。旧第1項がほぼそのまま書かれており、旧第2項で特にピックアップしていた「利益相反」についても、しれっと旧第1項の表現の中に入れることによって、従来の2項構成を1項構成に束ねています。結構、この条項って重要で、私たちは個人との相談の中に組織・環境的な課題を見出した場合、それとも真摯に対峙することが求められていると明確化されているのです。ただし、相談者の了解を得ての話ですが…。これって人事面談では当然のようにやっていることです。ただ、「努めなければならない」とここはあえて努力義務にとどめています。このあたりは、いじらしいですね。

【雑則】
【第13条 倫理要綱委員会】

本倫理綱領の制定・改廃の決定や運用に関する諸調整を行うため、キャリアコン サルティング協議会内に倫理綱領委員会をおく。
2 倫理綱領委員会に関する詳細事項は、別途定める。

旧第12条の番ズレです。てにをはを含めて、一切改定がないのは、どうやらこの条項のみのようです。

さあ、皆さんの解釈、感想はいかがでしょうか。微修正のようにみえて、よくよく読むと細部にわたってまでいろいろと変わっています。特に守秘義務と多重関係では大きな見直しがあります。どんどん私達の理解をアップデートさせていかないければいけないのが、キャリアコンサルタントの楽しいところです。私達は時代とともに生きている役割です。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?