見出し画像

グレーな世界で考え抜く ~日経産業新聞 HRマネジメントを考える (2021.05)

ご依頼を受けて、ちょこちょこ書いていたもののアーカイブをこちらでしておこうと思うのですが、なかなか過去分が追い付いていません。。今日は日経産業新聞の連載20回目。今年の5月の分です。数年前から6~7名でリレー連載でHRにはついて書いていて2カ月に1回くらい担当がまわってきます。各内容は広い意味でHRに関係があれば何でもOK。

今回は人事の仕事をして実感する話を書きました。私たちの扱う仕事は、白黒がはっきりついているようなことはほとんどなく、その大半がグレーであり、そのグレーに色をつけるのが私たちの仕事、それがしんどかったり、機械的に白黒つけるのが仕事だと思っている人は、絶対に人事には向きません。また、社員が不幸になります。そんな話です。全連載の中でも個人的な好きな回です。。

*************************************
日経産業新聞 HRマネジメントを考える (2021.05)
*************************************
グレーな世界で考え抜く
*************************************

私が初めて勤務したのは食品メーカーでした。人様の口に入る商品ですから、品質に何かあったら一大事です。お客様に迷惑が及ぶのはもちろん、自社の存続にかかわる事態に至る可能性もゼロではありません。メーカーには品質管理や品質保証という組織があります。品質基準を満たさない商品を市場に出さないように厳しい目でチェックし、その仕組みを作る人たちです。
当時、品質管理を担当する先輩が語ってくれた印象的な言葉があります。「自分たちの仕事には白と黒しかない。黒に近いグレーも白に近いグレーも、グレーであればすべて黒だと判断できる強い気持ちが必要だ」。確かに最終的には工場出荷を許可するかしないかという二択しかない世界でしょう。出荷を止めると、場合によって百万円単位で利益を失います。相当に勇気のいることですが、グレーは黒だと言い切り続けることが商品やブランド、企業への信頼を保つために大切なのです。
翻って人事という仕事を考えてみましょう。会社は就業規則で多方面に渡るルールが定め、様々な人事制度も整備しています。それらを単純に適用すればいい仕事もあります。しかし、長年にわたってこの人事に従事して感じるのは、真っ黒な仕事や真っ白な仕事などなく、ほとんどが判断に悩むグレーだということです。多様で複雑かつ曖昧に満ちた案件が日々舞い込みます。しかも、そこに人の感情が複雑に絡まっています。
一人ひとりの社員には様々な事情があり、思いを抱いています。人事はそういった一つ一つをきちんと受け止めて対処する必要があります。この判断が絶対に正解だという案件などほとんどありません。いろいろな解釈や判断が成り立つ中、しっかりと関係者の話を聴いた上で必死に考え抜いた末、結論を絞り出しているのです。時には就業規則を超えた判断をすることもあり得ます。黒でも白でもないグレーに色をつけていくのが私たちの仕事かもしれません。
長年マネージャーの立場で仕事をしていますが、仕事の大半はグレーにまみれているように感じます。マネージャーの最大の仕事は「意思決定」、決めることです。マネージャーの優先順位の付け方1つで、大げさにいえばその組織の未来は変わってきます。選択しなかった未来はわからないので、ベストの選択だったのかは誰にもわかりません。結果オーライのケースもありますし、半年もたって問題が噴出することもあります。下した判断すら、白だったのか黒だったのかがわからないのがビジネスの世界かもしれません。
もちろん、生産性を上げるために手順化・仕組化・効率化を進めて、自動的に意思決定ができるような仕事の整理にチャレンジすることは大切です。しかし、人の感情がそこに入り込むと、これは容易ではありません。正しいとわかっていても納得がいかないと人は動きません。正しいことを理路整然と説明しているだけでは、人事の仕事は満たせないのです。
こんなグレーにまみれた仕事を楽しいと思えるかどうかがHRマネージャーの勝負どころです。グレーにまみれた世界での意思決定は、周囲も巻き込んで徹底的に考え抜く以外ありません。しかし、そこにこそ私たち人事の存在価値があるのです。これこそが私たちの仕事の醍醐味なのです。

※写真は、西荻窪「珍味亭」。年内に一度は立ち寄りたい……。わんさかテイクアウトもして帰りたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?