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「人事」という仕事 二つの顧客・二人の上司 ~日経産業新聞 HRマネジメントを考える (2021.01)

ご依頼を受けて、ちょこちょこ書いていたもののアーカイブをこちらでしておこうと思うのですが、なかなか過去分が追い付いていません。。今日は日経産業新聞の連載15回目です。数年前から6~7名でリレー連載のようなものを書いてます。2カ月に1回くらい担当がまわってきます。各内容は広い意味でHRに関係があれば何でもOK。今回は人事という仕事についての持論を書きました。先日、このテーマでの講演依頼をいただきました。お話する相手が重いのですが。

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日経産業新聞 HRマネジメントを考える (2020.05)
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「人事」という仕事 二つの顧客・二人の上司
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 毎年、秋にはいくつかの大学でキャリアに関する講座を担当します。自分にとっても振り返りになる貴重な機会であり、社会に出る前の大学生にとって少しでも意味のある時間になればと思っています。
 仕事の話をする際は自分の顧客を定義することが何よりも大切だという話から始めます。何かをやって1時間過ごせばその分の時給がもらえるというのはアルバイトの感覚。提供されるサービスに顧客が満足して対価を払ってくれるから給料がもらえるというのが社会の仕組みです。この違いをまず理解してほしい。
 ただ、会社の組織は大規模かつ複雑です。新入社員の場合、営業部門にでも配属されなければ、なかなか顧客を意識する機会はないでしょう。ポイントは、自分の仕事が誰の役に立っているのか。誰から「ありがとう」といってもらえるのかを考えることです。
 私の仕事は人事です。私の顧客は誰でしょうか。答えは基本的に二つあります。一つは経営者、もう一つは従業員もしくは現場です。採用業務における応募者や、企業の様々なステイクホルダー(利害関係者)も人事の顧客ではありますが、日常的に強く意識すべき顧客はこの二者です。時にこの二者は異なる要望をしてくるのが人事の仕事の面白いところです。
 ともに会社の発展を目指していますが、従業員は百円でも高い給与を望み、経営者はできれば人件費を抑えたい。そのはざまでかじ取りをするのが人事の役割です。
 人事は経営者にとって良きパートナーである必要があります。経営者から信頼を得られなければ、人事はまともな仕事ができません。それには二つのことが必要です。
 一つは人事が経営者と語り合えるだけの視座と戦略性を持つこと。もう一つは人事が事業と現場を熟知していることです。少なくとこの二つがあれば、経営者は人事をパートナーだと頼ってくれるはずです。
一方で人事は現場と従業員にとって良きサポーターである必要もあります。そこには信頼感と期待感が欠かせません。
 具体的にはこの人たちにだったら自分の悩みを相談してみようと従業員や現場の管理者が思ってくれることです。それには何よりも「敷居の低い人事部」であることが大切です。そうして日々様々な相談が舞い込んでくれば、社内で何が起こっているかが手に取るようにわかってきます。
 相談を積み重ねて、いま事業や現場で何が起こっているのかの新鮮な状況を把握していることが、経営のパートナーとしても役立ちます。経営が人事をパートナーとみなしてくれていることが社内に認知されれば、現場からの人事に対する期待感も高まります。すべてはリンクしているのです。
 人事は企業内でも非常に専門性の高い仕事といえるでしょう。その人事部門のトップである人事部長には、上司が二人います。一人はいうまでもなく経営者である社長です。では、もう一人は誰でしょうか。それは人事専門家としての倫理です。
 この職業倫理を明確に持っているか否かが、人事専門家としての分岐点でしょう。仮に経営者がこうしたいと求めても、人事としての倫理に反する判断はできません。それが専門家です。結果的にも、それが自社にとって良い判断となるはずです。二つの顧客の間で、そして二人の上司の下で、日々奮闘するのが人事という仕事なのです。

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