「世吹悟朗の生き様」
「あらすじ」
視力が良ければ少しは色んなものが見える。だから?それがどうしたの?目に見える物事の背景や経緯が理解できずに、見えた事をもっともらしく語るだけなら、いっそのこと盲目的に与えられた出来事を甘受した方が、どれだけましな事か!…そんな物語です!
「世吹悟朗の生き様」
その男、世吹悟朗は勤勉で謙虚で信心深い男であり
天上界から神様も満足気にそれを眺めていた
そこへ神の使いの一人である悪魔がやって来てこう言った
「神様、あの悟朗は真面目でいつも神様を敬っていますが、果たして本心からか?うわべだけか?一つ試してみてはいかがでしょうか」
それに答えて神様は「面白そうじゃの~、お前チョット試してみよ!」と言いました
悪魔は喜び勇んで天上界から悟朗めがけて杖を一振り「えいっ」と魔法をかけると、地上界の悟朗に向かって黒い霧が降りかかり、暫くすると悟朗の身の上には不幸がおとずれました
何の落ち度も無いのに仕事をクビになり、収入の無い貧乏暮らしに愛想をつかして女房子供は出て行ってしまった…
それでも悟朗は、神様を敬い質素で孤独な暮らしをしていた
それを天上界で神様は眺めながら「悟朗は良き男じゃのう!」と満足気であったが、しかし悪魔は「いいえ神様まだまだわかりませんぞ、もうちょっと試してみましょう」そしてまた「えいっ」と魔法をかけた
今度は魔法の黒い霧が蛇の形となり、悟朗の家の上へと沢山降って来ました。途端に悟朗の体中にできものが出来て、それが膿んで爛れて動けなくなってしまったのです
それでも悟朗は「体一つで生まれて来たのだから、体一つで死ぬるまでさ」と神様を恨むことなど一切ありませんでした
そこへ心配の余り友人がやって来て「お前は何か悪いことをしたから神様が怒っているのだ、早くお寺にお布施をして御札を貰ってきなさい、そして祈りなさい」と進めました
しかし悟朗は「私は自分で気づかぬうちに悪い事をしてしまっている事は多々あるだろうが、それが原因で今の不幸が有るならば、それは神様の意志として甘んじて受け入れるよ」と言いました
ところが友人は「せっかく心配してやっているのに」と怒ってしまったのでした
いよいよ悟朗の体から血が噴き出して、いよいよもう駄目だ!というとき別の友人が連れてきた霊能者なる人物が言う事には「天上界から、なんか黒い霧みたいなものが降って来ている、これは先祖か何かの因縁だ!祈りなさい」と進めたが、別の霊能者は「いや違う、その霧みたいなものは蛇の怨念だ!それがお前には見えんのか」とけなし合いました。
友人達と霊能者達は「これは生霊だ!誰かに怨まれているのだろう!いや霧だ先祖の因縁だ!いや、どっかで蛇を殺しただろう!」と喧々諤々騒がしい限りであったが
悟朗は「もうみんな帰ってくれ、もう静かに死にたい、もういいんだよ、ありがとうな」と、息を引き取った…
魂は天上へ登って行き、しっかりと神様に抱かれた…
「お疲れ、お疲れ!良くやったな悟朗、ずっと見てたぞ!まあ今回はちょっと悪魔の口車に乗せられてな、勘弁、勘弁・・・暫くわしの腕の中で休んで居ろよ」
うっとりする悟朗に神様は言った
しかしあの友人やら霊能者やらは、どうかしてるぜ!!しょせん霊能者ったって地上での現象しか見てないもんな!確かに杖だの霧だの蛇だのなんかが見えてるんだろうさ、しかし俺から言わせればそんなもん、上辺だけの世界でしかねえってことよ。その上にある景色やらそこに至る意味なんて考えもしねえ、まあ見ようったって見えるもんじゃねえがな!それによ、友人ったって良いか悪いか分かんねえな!確かにいえることはよ「心配だから!」は免罪符じゃねえっ!てことよ
そんなことを言いながら神様は「さて悟朗の不幸のバランスを誰の幸せでとるかな…まぁ、地上の幸不幸なんてあっと言う間の事で、天上界の長い暮らしから見たらどうってことないからなぁ!」
「誰にしようかな…あそこにしよう!」と指を回してピタッと止めると、地上では嵐の前触れの様に空が暗くなった所に一筋の光が差していた
その頃、地上界では悟朗のもとを去った友人やら霊能者やらがいそいそと家路についていた
「何やら雷がなっていますなぁ、きっと神様がお怒りであろうよ…我々は謙虚にいきたいもんですな、ほっほっほ〜!…ほら雲の切れ間から綺麗な夕陽が射していますよ、早くあっちの方へ行きましょうよ・・・」
その綺麗な夕陽の下では関係ない誰かに、思わぬ幸福が訪れていた…
地上における幸不幸なんてこんなもんかもね!
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